新しいアルバイトさんが入った日、最初に何を教えていますか。メニューとレジ、それから「フライヤー熱いから気をつけてね」。小さなお店では、そんな形が多いと思います。
仕事をラクに、しっかり確かに。ラクワーク工房の相楽です。人を雇い入れたときの安全衛生の教育が、2024年4月にどう変わったのかを、小さな飲食店の店長さん向けにまとめました。先にお断りしておくと、私は安全衛生の資格を持つ専門家ではありません。条文と厚生労働省の通達を読み、店長さんが知っておくと助かる所を整理したものです。
労働安全衛生法59条は、人を雇い入れたときと、作業の内容を変えたときに、事業者が遅滞なく安全衛生の教育をすることを求めています。アルバイト・パートさんも対象です。ホールの人を厨房に回すようなときも、作業内容の変更に当たると考えて教えておくのが安心です。
何を教えるかは、労働安全衛生規則35条1項に8つ並んでいます。
1. 機械や材料の危ない所と、扱い方
2. 安全装置・保護具の働きと、扱い方
3. 作業の手順
4. 作業を始めるときの点検
5. その仕事で起きるおそれのある病気の原因と予防
6. 整理・整頓・清潔
7. 事故のときの応急の手当てと、逃げ方
8. そのほか、その仕事の安全・衛生に必要なこと
■2024年4月1日に変わったこと
以前は、飲食店や小売店などの業種では、このうち1〜4番目を省いてよいことになっていました。その例外が、2024年4月1日になくなりました。化学物質の規制を見直した省令改正の一部です。
飲食店でいえば、焼き台やフライヤー、スライサー、洗剤の危ない所と扱い方、保護具、作業の手順、始める前の点検。この4つを、業種を理由にまとめて省くことはできなくなりました。
では「8つ全部を、毎回フルに教えるの?」というと、そこまでではありません。35条1項は、8つのうち、その人が従事する業務の安全・衛生のために必要なことを教える、という書き方です。厚生労働省の施行通達(令和4年5月31日 基発0531第9号)も、1〜4号で教える中身は、もともと対象だった業種と同じもので、新たに対象になった業種では店ごとの作業内容に応じて必要な教育をする、としています。
つまり、8項目のそれぞれについて、その人の仕事に必要なことを教える。どこまで教えるかはお店が判断しますが、その仕事の安全に必要なことは省けません。洗い場だけの人と焼き台に立つ人とでは、1号で教える中身が違って当然です。
もう1つ、35条2項で、ある項目について十分な知識と技能があると認められる人は、その項目を省けます。これは人ごと・項目ごとの話です。経験者でも、元栓の場所、集合場所、店で使う洗剤はお店ごとに違うので、そこは教えておくほうが安心です。
■今日からできる確認
厚生労働省の資料「小売業・飲食店における労働災害防止の進め方」(令和5年11月)では、飲食店の労働災害(死傷)で多いのは、転倒、包丁などによる「切れ・こすれ」、揚げ物などのやけどの順とされています。切れ・やけどは1〜4号、いちばん多い転倒は6号の整理・整頓・清潔とも深く関わります。そこを踏まえて、次の人が入る前に店長さん1人でもできる順番です。
1. その人が触る物を書き出す。焼き台、フライヤー、スライサー、食洗機、洗剤・消毒液など。1つにつき「危ない所」「守り方」「1人で使ってよいか」を1行ずつ。保護具も、耐熱の手袋、洗剤用のゴム手袋、切れにくい手袋など、どれをいつ使うかを決めます。これが1〜3号の骨組みです。
2. 開店前に見る所を決める。まずガスのにおい。においがしたら、火も換気扇や照明のスイッチも触らず、窓と戸を開けて元栓を閉め、外に出てから店長に知らせる、と教えます。においがなければ、換気扇が回るか、消火器の前に物がないか、保護具が破れていないか。「いつもと違ったら使わずに言う」まで決めておきます(4号)。
3. 転ばない決まりを3つだけ。滑りにくい靴で来てもらう。床の水・油・氷は見つけたらすぐ拭く。通路や裏口の前に段ボールを置かない(6号)。
4. 体を守る話を一言。洗剤での手荒れ、重い物での腰痛、夏の厨房の熱中症。具合が悪いときに誰に言うかを決めておきます(5号)。
5. 救急箱、消火器、裏口、集合場所の前に一緒に立つ。フライヤーの油に火が付いたら水はかけず、火を止めて、油の火にも使える消火器で消す。消すのは火が小さいうちだけで、天井に燃え移ったら消すのをやめて逃げ、119番。その消火器がどれかも、実物で確かめます(7号)。
6. 教えたら、本人に言ってもらう。「分かった?」ではなく「スライサーの刃にさわる前にすることは?」と聞く。言えなかった所は、その場で教え直します。
7. 誰に、いつ、どの項目を、何分、誰が教えたかを残す。雇い入れ時の教育は、特別教育(規則38条)と違って記録の保存までは規則に書かれていません。それでも、何を教えたかをあとで確かめるときや、次の人に教えるときの手がかりになります。
なお、職長教育(法60条)は、施行令19条の業種に飲食店が入っていないため、飲食店には法律上の義務がありません。ただし、食料品製造業に当たる事業場は別です。特別教育が要る業務に就かせるときは、雇い入れ時の教育とは別に必要です。食中毒を防ぐ食品衛生の教育や、18歳未満の人の働き方の決まりも、ここでは扱っていません。お店への当てはめに迷うときは、労働基準監督署に相談してみてください。
ラクワーク工房では「飲食店の雇い入れ時教育の教材をお店用に作ります」で、この8項目に章をそろえた教材テキスト、確認テスト、実施の記録の様式、教える人向けの進め方メモを、お店の設備と決まりに合わせて書き換えてお渡ししています。何をどう書くかを私が考え、生成AIと一緒に形にし、しっかり確かめてからお渡しします。教材は、渡すだけでは教育になりません。教えるのはお店で、中身がその人の仕事に足りているかの判断と、使う前の承認も店長さんにお願いしています。次の人が入る前に形にしておきたいのに手が回らない、という店長さんは、出品ページをのぞいてみてください。
参考にした資料
・労働安全衛生法 第59条・第60条、労働安全衛生法施行令 第2条第3号・第19条、労働安全衛生規則 第35条・第38条(e-Gov法令検索)
・厚生労働省「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について」(令和4年5月31日 基発0531第9号。令和4年厚生労働省令第91号の施行通達)
・厚生労働省「小売業・飲食店における労働災害防止の進め方」(令和5年11月)