長年会社を支えてくれたベテラン職人からの相談
「社長、少しお時間よろしいでしょうか……」
ある日の午後、現場の休憩時間のことです。温かいお茶を手にしたベテラン職人の佐藤さん(66歳)から、思い詰めた表情で声をかけられました。先代の時代から30年以上、自社の現場を支え続けてくれた大工の要です。
「急なお話で恐縮ですが、現在お引き受けしている現場が一段落したら、現場を退かせていただきたいのです。長年の無理がたたり、腰と膝が限界を迎えておりまして……」
長年の貢献に対する感謝の気持ちが溢れると同時に、経営者としての冷酷な思考が頭を駆け巡りました。
(佐藤さんが抜けたら、自社の施工ラインは本格的に維持できなくなる……)
なぜ中小工務店に若手人材が集まらないのか?
その夜、私は事務所で一人頭を抱えました。
現在の自社職人の平均年齢は58歳。20代・30代の若手社員はゼロです。
若い世代が建設業界を敬遠する背景には、明確な構造的課題が存在します。
「きつい・汚い・危険」という従来型の労働環境に対する固定観念
変形労働や不定期な休日によるワークライフバランス確保の難しさ
小規模事業者の魅力や情報が、若い求職者に届くチャネルの不足
これまでもハローワークへの求人提出や、地域求人紙への掲載など従来の手法は一通り試してきました。しかし、届くのは人材紹介会社からの営業電話ばかりで、ターゲットである若手からの応募は完全に「ゼロ」という状態が続いていたのです。
2024年問題と工期順守の板挟み
さらに現場を圧迫するのが、時間外労働の上限規制(2024年問題)をはじめとする労働環境の適正化です。
「現場の稼働人数は減る」「工期は厳守しなければならない」「社長の超過勤務でカバーするのにも物理的限界がある」という、まさに八方塞がりの状況。
家族からは身体を心配され、中学生の息子からは「お父さんの仕事はいつも大変そうだね」と言われる始末。家づくりの素晴らしさやモノづくりのやりがいを若い世代に伝える術を持たない自分自身の力不足に、強い悔しさを感じていました。