マンションの管理会社に対して、皆さんはどのような印象をお持ちでしょうか。
「毎月管理委託費を支払っているのだから、何でも対応してくれて当然」
「管理会社に修繕工事を発注すると高いから、すべて外部業者に頼んだ方がよい」
こうした考え方をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、私は以前、マンション管理会社のフロント担当者として管理組合の運営に携わってきた経験から、どちらの考え方も必ずしも得策ではないと考えています。
管理会社は営利企業です。管理委託費だけでは十分な利益を確保しにくいという事情があり、修繕工事などの付帯業務から得られる収益も重要な意味を持っています。
だからといって、管理会社の提案する工事を何でも発注すればよいわけではありません。
**管理会社にも適正な利益を確保してもらいながら、管理組合として守るべき利益はしっかり守る。**
今回は、元フロント担当者としての経験も踏まえ、管理会社との現実的な付き合い方についてお話ししたいと思います。
1.管理会社は「何でも屋」ではない
まず理解していただきたいのは、管理会社に管理委託費を支払っているからといって、何でも対応してもらえるわけではないということです。
管理会社の業務範囲は、基本的に管理委託契約によって定められています。
例えば、契約に含まれていない資料作成や調査、通常業務を大きく超える追加対応などについては、本来、別途費用が発生してもおかしくありません。
もちろん、実際にはフロント担当者がサービスとして柔軟に対応することもあります。
しかし、それを当然のこととして要求し続ければ、担当者の負担は増える一方です。
管理会社も人手不足や人件費の上昇に直面しており、採算の合わない管理組合との契約については、管理委託費の値上げや契約更新の見送りを検討することもあります。
実際、管理会社から管理委託契約の更新を断られることは、管理組合にとって決して軽視できない問題です。
ただし、契約上の業務について適切な対応を求めることは、管理組合の正当な権利です。
大切なのは、**管理会社が果たすべき責任と、管理組合からの過剰な要求を区別すること**です。
2.管理委託費だけでは、十分な利益を確保しにくいという実情
ここで、元フロント担当者として、管理会社の収益構造についても触れておきたいと思います。
マンション管理会社は、管理組合から毎月管理委託費を受け取っています。
しかし、管理員や清掃員、フロント担当者の人件費、事務管理業務、会社の間接経費などを考えると、管理委託費だけでは十分な利益を確保しにくい契約もあります。
そのため、管理会社によっては、日常の修繕工事や設備更新、大規模修繕工事など、管理委託契約外の業務から得られる収益も見込んだうえで、管理委託契約を引き受けている場合があります。
**つまり、管理委託費だけで採算を考えるのではなく、一つの管理組合との取引全体で利益を確保しようとしているのです。**
これは、私がフロント担当者として管理業務に携わってきた経験から感じている、管理会社側の実情でもあります。
もちろん、すべての管理会社が同じ収益構造というわけではありません。
しかし、この仕組みを理解すると、なぜ管理会社が修繕工事の受注に積極的なのか、また、なぜ管理会社に一切工事を発注しないことが必ずしも得策ではないのかが見えてきます。
3.管理会社に工事を一切発注しないことも、得策とは限らない
管理会社から提案された修繕工事は割高だからと、すべて外部業者に発注しようとする管理組合もあります。
確かに、管理会社経由の工事には、管理会社の手配費用や利益などが含まれることがあり、施工業者への直接発注と比べて高額になる場合があります。
しかし、だからといって、すべての修繕工事を管理会社以外に発注することが正解とは限りません。
先ほど説明したように、管理会社にとって修繕工事などの付帯業務は、重要な収益機会の一つです。
管理委託業務の負担が大きい一方で、付帯業務による収益もほとんど見込めない管理組合については、管理会社として取引全体の採算性を見直す動機が生まれます。
そして、ここからはフロント担当者としての本音になります。
フロント担当者も人間です。
契約外の要求が多く、管理会社としての収益機会もほとんどない管理組合と、適正な対価を支払い、良好な関係を築けている管理組合とでは、仕事の進めやすさや積極的な提案への意欲に違いが生じることもあるでしょう。
もちろん、利益が少ないからといって、契約上の業務をおろそかにしてよいわけではありません。
しかし、管理会社が営利企業である以上、管理組合との取引に一定の収益性が求められることは、現実として理解しておく必要があります。
**管理会社の利益を徹底的に排除しようとすることが、結果的に管理組合自身の不利益につながる可能性もあるのです。**
4.少額修繕を管理会社に発注するのは「安心を買う」という考え方
私が少額修繕について管理会社への発注を基本に考える理由は、単に管理会社に利益を確保してもらうためだけではありません。
もう一つ、大きな理由があります。
それは、**管理会社は工事が終わった後も、日常管理を通じて管理組合との関係が続く**ということです。
例えば、共用部分の補修工事を外部業者に直接発注したとします。
工事が終わった後に不具合が発生した場合、管理組合自身が施工業者に連絡し、補修対応を求めなければならないことがあります。
施工業者との連絡が円滑に進まず、理事長や理事会の負担が増えてしまう可能性もあります。
一方、管理会社が元請として工事を受注していれば、施工後の不具合についても、日常的に接点のあるフロント担当者を通じて対応を求めることができます。
管理会社としても、日常管理を継続している以上、自社が受注した工事の不具合を放置すれば、管理組合との信頼関係に影響します。
つまり、管理会社には、工事が終わった後も継続的な関係の中で対応する動機があるのです。
もちろん、工事の保証内容や補修責任は契約によって異なりますし、管理会社が将来にわたって管理を続ける保証もありません。
それでも、管理会社が元請として責任を負い、施工後の相談窓口も明確になっているのであれば、その安心感には一定の価値があります。
例えば、外部業者への直接発注なら85万円、管理会社への発注なら100万円という修繕工事があったとします。
この15万円の差額を単なる無駄と考えるのか。
それとも、工事の手配や日常管理との連携、施工後の対応まで含めた費用と考えるのか。
管理組合の事情によっては、後者を選択することも十分に合理的です。
**最安値で発注することが、必ずしも管理組合にとって最善とは限りません。**
特に中小規模の管理会社との付き合いでは、こうした少額修繕の発注が管理会社にとっても重要な収益機会となり、双方にメリットを生むことがあります。
私は、工事内容や管理組合の規模によっては、100万円程度までの修繕工事であれば、多少の価格差があっても管理会社に発注するという判断は十分にあり得ると考えています。
ただし、100万円という金額は一律の基準ではありません。管理組合の財政状況や管理規約、工事内容、保証条件などを踏まえた判断が必要です。
5.高額な工事は、管理組合自身が相見積もりを取るべき
一方で、管理会社との関係を良好に保ちたいからといって、何でも管理会社に発注することには賛成できません。
特に高額な修繕工事については、価格の妥当性を慎重に検証する必要があります。
例えば、管理会社から500万円の修繕工事を提案されたとします。
その際、管理会社に「ほかの業者からも見積もりを取ってください」と依頼するだけで、本当に十分でしょうか。
私は、それだけでは不十分だと考えています。
なぜなら、管理会社が紹介する業者だけで相見積もりを取得しても、独立した価格競争が十分に働くとは限らないからです。
実のところ、管理会社が紹介する業者同士に取引関係がある可能性も高いですし、そもそも管理会社が紹介する業者である時点で、もはや相見積の体裁だけが整っているだけで、本来の相見積を成していないのが実態です。
だからこそ、**管理組合自身が管理会社とは別のルートで施工業者を探し、独立した見積もりを取得する努力が必要**なのです。
もちろん、価格だけを比較してはいけません。
工事範囲や仕様、使用材料、保証内容、施工実績などをそろえて比較する必要があります。
その結果、管理会社の提案価格が妥当であり、施工後の対応なども含めてメリットが大きければ、管理会社に発注してもよいでしょう。
逆に、外部業者の方が大幅に安く、施工品質や保証内容にも問題がなければ、外部業者への発注を検討すべきです。
**少額修繕では安心や継続的な関係を重視し、高額修繕では競争性と価格の妥当性を重視する。**
この使い分けが重要だと考えています。
6.大手管理会社への大規模修繕工事の発注には、特に慎重な判断を
特に注意したいのが、大規模修繕工事です。
大規模修繕工事は、建物の規模によって数千万円から億単位の費用がかかることもあります。
管理会社やその関連会社が工事を受注する場合、工事費に管理会社側の利益や間接経費が含まれることがあります。
特に大手管理会社の工事提案については、外部の施工会社への直接発注と比較して高額になる場合もあり、十分な検証が必要です。
ここで、もう一つ知っておいていただきたいことがあります。
**第1回大規模修繕工事を管理会社側が受注した後、その管理会社が管理委託契約から撤退するような事例すらあります。**
もちろん、管理会社が管理委託契約を終了する理由はさまざまです。
工事の受注と管理契約の終了に直接の因果関係があるとは限りません。
しかし、管理組合としては、高額な工事を管理会社に発注したからといって、その後も継続して管理してもらえるとは限らないことを理解しておく必要があります。
管理会社との良好な関係を築くために少額修繕を発注することと、大規模修繕工事のような高額工事を無条件に任せることは、まったく別の問題です。
大規模修繕工事では、管理会社の提案だけに依存せず、必要に応じて外部の専門家も活用しながら、管理組合自身が発注方法を検討することが重要です。
**管理会社に適正な利益を確保してもらうことと、管理組合の大切な修繕積立金を守ることは、両立させなければならないのです。**
7.管理会社にとっても「付き合いやすい管理組合」を目指す
管理会社との上手な付き合い方を考えるうえで、もう一つ重要なのが、管理組合自身の姿勢です。
管理会社に何でも要求する。
契約外の業務まで当然のように依頼する。
修繕工事の提案はすべて疑い、管理会社には一切発注しない。
こうした姿勢では、長期的に良好な関係を築くことが難しくなる場合があります。
一方で、管理会社の提案を何でも受け入れ、工事費の妥当性を検証しないことも問題です。
管理会社は管理組合のために働く立場であると同時に、利益を追求する営利企業でもあります。
だからこそ、管理組合は管理会社に依存しすぎず、主体的に判断する必要があります。
例えば、管理会社から共用部分の修繕工事を提案された場合には、その必要性を確認する。
少額で、日常管理との連携や施工後の対応にメリットがあるなら、管理会社への発注を前向きに検討する。
一方、高額な工事であれば、管理組合自身が独立した施工業者を探し、相見積もりを取得する。
また、フロント担当者から改善提案があった際には、理事会でしっかりと検討し、必要な意思決定を行うことも重要です。
どれだけ優秀な担当者であっても、管理組合が提案に関心を示さず、必要な判断を先送りしていては、その能力を十分に生かすことができません。
**管理会社の能力を引き出すためには、管理組合自身も主体的に管理運営に関わる必要があるのです。**
おわりに―管理会社の利益を理解することが、管理組合の利益を守ることにつながる
マンション管理会社との付き合い方に、絶対的な正解があるわけではありません。
しかし、元フロント担当者として申し上げたいのは、管理会社の収益構造を理解することが、管理組合にとっても重要だということです。
管理会社は管理委託費だけで十分な利益を確保しているとは限らず、修繕工事などの付帯業務から得られる収益も見込んで管理を引き受けている場合が多いです。
そのような実情を知らずに、管理会社に何でも要求し、修繕工事は一切発注しないという姿勢を取れば、結果として管理会社との関係や契約条件に悪影響を及ぼす可能性もあります。
一方、管理会社との関係を重視するあまり、高額な工事まで無条件に発注してしまえば、管理組合の大切な資金を無駄にするおそれがあります。
だからこそ、私は次のような付き合い方が現実的だと考えています。
- 管理委託契約の範囲を理解し、何でも無制限に要求しない。
- 少額修繕は管理会社への発注を基本に考え、施工後の安心や継続的な関係も重視する。
- 高額な修繕工事は、管理組合自身が独立した業者を探し、相見積もりを取得する。
- 管理会社にも適正な利益を確保してもらいながら、管理組合の利益はしっかり守る。
- 管理会社に任せきりにせず、管理組合自身が主体的に判断する。
**管理会社に何でも任せるのでもなく、管理会社の利益を徹底的に排除するのでもない。**
**管理会社にも適正な利益を確保してもらい、その対価として責任あるサービスを求める。**
そして、管理組合自身も必要な判断を行い、大切な資産を守る。
こうしたバランス感覚こそが、管理会社と長く上手に付き合っていくための、現実的な考え方ではないでしょうか。