近年、人件費や物価の上昇を背景に、マンション管理会社から管理委託費の値上げを求められるケースが増えています。
管理委託費とは、管理組合が管理会社に対して支払う業務委託の対価です。
区分所有者が毎月負担する「管理費」とは異なりますが、管理委託費は管理組合の支出の中でも大きな割合を占めることが多く、その値上げは管理組合の収支に直接影響します。
場合によっては、管理委託費の増加が、区分所有者の負担する管理費の値上げにつながることもあるでしょう。
もちろん、管理会社の人件費や設備保守点検費などが上昇している以上、管理委託費の値上げが必要になること自体は理解できます。
私自身、以前はマンション管理会社でフロント担当者として勤務していたため、管理会社の業務負担や人手不足といった事情も理解しているつもりです。
しかし、管理会社から管理委託費の値上げを求められた際には、ぜひ確認していただきたいことがあります。
「管理会社は、これまで管理組合の経費削減につながる提案を十分に行ってきたのでしょうか?」
管理委託費の値上げには正当な理由があるかもしれません。
しかし、管理組合の収支が厳しくなる中で、区分所有者の負担を増やすことだけが解決策ではないはずです。
今回は、マンション共用部分の電気料金削減策として知られる「電子ブレーカー」を中心に、その仕組みや導入効果について解説します。
また、私が管理会社に勤務していた頃の経験も踏まえ、管理会社に期待したい提案姿勢について考えてみたいと思います。
1.マンション共用部分の電気料金は、契約の見直しで削減できる場合がある
マンションの共用部分では、さまざまな設備に電気が使用されています。
共用廊下や階段、エントランスなどの照明設備のほか、エレベーター、給水ポンプ、機械式駐車場などが代表的です。
一般的に、照明などに使用する「電灯契約」と、エレベーターやポンプなどに使用する「動力契約」は、契約が分かれている場合があります。
今回、特に注目したいのが、動力契約の基本料金です。
電気料金は、大きく分けると、契約電力などに応じた基本料金と、実際の使用電力量に応じた料金などで構成されています。
そのため、電気の使用量を減らすことだけが、電気料金の削減方法ではありません。
現在の契約電力が設備の使用実態に対して適切なのかを確認することで、基本料金を削減できる場合があります。
その方法の一つが、電子ブレーカーの導入を含めた電気契約の見直しです。
2.電子ブレーカーとは? なぜ電気料金が安くなるのか
電子ブレーカーとは、電流の大きさや通電時間を電子的に監視し、一定の条件に達した場合に電路を遮断する機器です。
低圧電力の契約では、電力会社の契約条件によって、設備容量を基準に契約電力を決める方法と、主開閉器の容量を基準に契約電力を決める方法があります。
例えば、エレベーターや給水ポンプ、機械式駐車場などの設備容量を合計すると、契約電力が比較的大きくなる場合があります。
しかし、これらの設備が常に同時に、最大出力で稼働しているとは限りません。
設備の実際の使用状況を調査したうえで、主開閉器の容量を基準とした契約に変更できれば、契約電力を引き下げられる可能性があります。
電子ブレーカーは、その際に活用される機器の一つです。
ここで誤解していただきたくないのは、電子ブレーカー自体が電気の使用量を減らすわけではないということです。
あくまでも、設備の使用実態に応じて契約電力を適正化し、基本料金の削減を図るものです。
なお、既存のブレーカーでも契約電力の見直しが可能な場合があるため、必ずしも電子ブレーカーの導入が必要とは限りません。
重要なのは、電子ブレーカーという機器を導入すること自体ではなく、現在の電気契約に削減の余地があるかどうかを確認することです。
3.機械式駐車場があるマンションは、特に検討する価値がある
私が特に注目しているのは、機械式駐車場が設置されているマンションです。
機械式駐車場は、設備を動かす際に比較的大きな電力を必要とする一方、常時稼働しているわけではありません。
また、エレベーターや給水ポンプなど、複数の動力設備が設置されているマンションでは、設備容量を合計すると契約電力が大きくなる傾向があります。
しかし、実際の運転状況を見ると、すべての設備が同時に最大出力で稼働するとは限りません。
そのため、設備容量を基準とした契約から、主開閉器の容量を基準とした契約に変更することで、基本料金を削減できる可能性があります。
特に機械式駐車場が設置されているマンションでは、電気契約を見直すメリットが大きいケースも少なくないと考えています。
もちろん、既に契約電力の見直しが行われているマンションや、設備の使用状況によっては、削減効果が小さい場合もあります。
それでも、機械式駐車場や複数の動力設備を備えているにもかかわらず、これまで電気契約の見直しを検討したことがないのであれば、一度確認する価値は十分にあるでしょう。
基本料金の削減効果を試算すると
例えば、現在の動力契約が20kWで、契約の見直しによって12kWまで引き下げられたと仮定します。
基本料金単価を1kW当たり月額1,200円とした場合、次のようになります。
項目 見直し前 見直し後
契約電力 20kW 12kW
月額基本料金 24,000円 14,400円
年間基本料金 288,000円 172,800円
この場合、年間の基本料金削減額は115,200円です。
10年間では、単純計算で約115万円の削減になります。
もちろん、これは計算方法を示すための仮定であり、実際に20kWから12kWまで引き下げられることを意味するものではありません。
また、実際の電気料金には各種の調整があり、導入費用なども別途考慮する必要があります。
それでも、一度契約を見直すことで、その後も継続的に基本料金を削減できる可能性があるという点は、管理組合にとって大きなメリットではないでしょうか。
4.電子ブレーカーは、適切な事前調査を行う事業者に依頼したい
電子ブレーカーの導入について、停電や設備停止のリスクを心配される方もいるかもしれません。
確かに、設備の使用状況を十分に確認せず、契約電力を過度に引き下げれば、設備の同時運転などによってブレーカーが遮断されるおそれがあります。
しかし、電子ブレーカーは、単純に契約電力をできる限り小さくすればよいというものではありません。
実務上、導入を提案する事業者では、24時間以上のマンションの電流値を計測し、動力設備の使用状況を確認したうえで、安全上の余裕を持たせて契約容量を算定する方法が採られることがあります。
例えば、エレベーターや給水ポンプ、機械式駐車場などが実際にどの程度の電流を使用しているのかを調査し、設備の起動時や同時運転時の負荷などを考慮して、適切な容量を検討します。
こうした事前調査を十分に行い、必要な余裕を確保したうえで導入すれば、設備停止のリスクを抑えることができます。
もちろん、24時間の測定だけですべての運転状況を把握できるとは限りません。
季節による使用状況の変化や、普段は稼働しない設備の運転条件なども考慮する必要があります。
そのため、設備の構成によっては、追加の調査や確認が必要になる場合もあります。
しかし、適切な電流測定を行い、安全性を考慮した契約容量を提案してくれる事業者であれば、電子ブレーカーの導入について過度に心配する必要はないと私は考えています。
むしろ、停電リスクを理由に検討そのものを避けるのではなく、適切な調査を行う事業者を選定することが重要ではないでしょうか。
なお、導入にあたっては、機器の購入費用や設置工事費、リース契約の条件なども確認する必要があります。
例えば、年間15万円の電気料金削減が見込まれても、年間のリース料が12万円であれば、実質的な削減額は3万円にとどまります。
削減見込額だけでなく、導入費用や維持管理費を含めた実質的な経済効果を確認することが大切です。
5.私が管理会社に勤務していた頃、電子ブレーカーを積極的に提案していた理由
私は以前、マンション管理会社でフロント担当者として勤務していました。
当時、担当するマンション管理組合に対して、電子ブレーカーの導入を積極的に提案していました。
もちろん、すべてのマンションで導入効果が得られるわけではありません。
しかし、機械式駐車場などの動力設備が設置されているマンションでは、電気契約の見直しによって基本料金を削減できる可能性があります。
私が積極的に提案していた理由は、管理組合にとって経済的なメリットがあるということに加え、管理組合の利益につながる提案を積極的に行うことが、管理会社やフロント担当者への信頼につながると考えていたからです。
管理会社から管理組合への提案は、設備の修繕や更新など、管理組合に新たな費用負担を求めるものが少なくありません。
だからこそ、管理組合の支出を削減できる提案にも積極的に取り組むことが大切だと思っていました。
管理組合の立場からすれば、費用負担を求める提案ばかりをする担当者よりも、経費削減につながる情報も提供してくれる担当者の方が、信頼しやすいのではないでしょうか。
一方で、あえて提案しない担当者もいた
しかし、当時の同僚の中には、電子ブレーカーの導入をあえて提案しないという人も少なくありませんでした。
その理由として挙げられていたのが、導入後にブレーカーが遮断され、エレベーターや給水ポンプなどが停止した場合のトラブルへの懸念です。
確かに、万が一設備が停止すれば、居住者から管理会社に苦情が寄せられる可能性があります。
また、電子ブレーカーの導入を提案するには、事業者との打ち合わせや見積書の取得、理事会への説明など、担当者の業務も増えます。
管理組合の電気料金が削減されても、それによって管理会社の売上が直接増えるわけではありません。
こうした事情から、あえて提案しないという判断をする担当者もいたのだと思います。
リスクを理由に提案しないのは、もったいない
しかし、私はこうした考え方には疑問を感じていました。
電子ブレーカーは、設備の使用状況を調査せずに、やみくもに契約容量を引き下げるものではありません。
適切な事業者であれば、導入前に電流値を計測し、設備の稼働状況などを考慮したうえで、安全上の余裕を持たせた容量を提案します。
もちろん、トラブルの可能性を完全になくすことはできません。
しかし、適切な事前調査と容量設定によってリスクを抑えられるのであれば、トラブルを懸念して提案そのものを避けるのではなく、まずは導入の可能性を検討すべきではないでしょうか。
また、管理組合にとって有益な提案であれば、管理会社の売上に直接つながらなくても、積極的に行う価値があると私は考えています。
管理会社と管理組合は、長期的な信頼関係のもとでマンションを維持管理していく関係にあります。
目先の売上につながるかどうかだけでなく、管理組合の負担を軽減する提案を行うことも、管理会社の評価につながるはずです。
管理組合にメリットのある提案を積極的に行うことは、管理会社にとっても決して損な話ではない。
私はフロント担当者として、そのように考えていました。
6.共用部分のLED化や、非常用照明器具・誘導灯の更新も検討したい
電子ブレーカー以外にも、マンション共用部分の電気料金や維持管理費を削減する方法はあります。
代表的なものが、照明設備のLED化です。
共用廊下や階段などの一般照明については、既にLED化が進んでいるマンションも多いと思います。
しかし、現在も従来型の蛍光灯などを使用しているのであれば、LED化による電気料金の削減を検討する価値があります。
また、一般照明のLED化が完了していても、非常用照明器具や誘導灯については、従来型の器具が残っている場合があります。
特に、設置から相当年数が経過した非常用照明器具や誘導灯については、バッテリーやランプの交換を繰り返すよりも、LED式の器具へ更新した方が、安全性の確保と長期的な費用対効果に優れるケースが多いと考えています。
バッテリーやランプを交換しても、器具本体の老朽化が解消されるわけではありません。
また、部分修理のたびに部品代だけでなく、作業費や諸経費なども発生します。
もちろん、比較的新しい器具であれば、部品交換の方が経済的な場合もあります。
しかし、老朽化した器具については、目先の修理費だけでなく、将来的な維持管理費も含めて、器具全体の更新を検討する価値があるでしょう。
さらに、消防設備点検で誘導灯の不備が指摘されている場合には、非常用照明器具のLED化と併せて更新工事を検討することも一つの方法です。
同じ業者で施工できる場合、現場調査や作業員の手配、諸経費などを共通化でき、個別に発注するよりも工事費を抑えられる可能性があります。
ただし、誘導灯の不備については、必要な是正を先送りしないことが前提です。
また、非常用照明器具と誘導灯は適用される法令や設備基準が異なるため、更新時にはそれぞれの基準に適合する器具を選定する必要があります。
なお、非常時にのみ点灯する照明器具では、LED化による電気料金の削減効果は限定的です。この場合は、省エネ効果だけでなく、老朽化対策や将来的な維持管理費の削減を重視して検討することになります。
管理会社には、設備ごとに個別の修理を提案するだけでなく、関連する工事をまとめることで管理組合の負担を軽減できないかという視点も持ってほしいところです。
7.管理委託費の値上げを求められたら、管理会社に確認してほしいこと
ここからが、今回の記事で特にお伝えしたいことです。
管理会社から管理委託費の値上げを求められた場合、管理組合としては、値上げの理由や金額の妥当性を確認する必要があります。
しかし、それだけでなく、管理会社がこれまで経費削減に向けてどのような提案を行ってきたのかについても確認していただきたいと思います。
例えば、次のような質問です。
① 共用部分の動力契約について、これまで見直しを検討したことはありますか?
機械式駐車場やエレベーター、給水ポンプなどが設置されているマンションでは、動力契約の基本料金を削減できる可能性があります。
現在の契約方式や契約電力について、確認しているかどうかを尋ねてみましょう。
② 電子ブレーカーの導入について、削減効果を試算したことはありますか?
導入していないこと自体が問題なのではありません。
重要なのは、導入の可否や費用対効果を検討したことがあるかどうかです。
導入したとしも費用対効果がない(むしろ導入コストの方が高い場合)こともあるため、しっかりと調査、確認は必要となります。
③ 共用部分の照明設備について、省エネ化や合理的な更新を検討していますか?
一般照明のLED化が未実施であれば、その導入効果を確認したいところです。
また、老朽化した非常用照明器具や誘導灯についても、部分修理と器具更新の費用対効果を比較する価値があります。
④ これまで管理会社から、どのような経費削減の提案がありましたか?
電気料金に限らず、管理組合の支出を抑えるために、管理会社がどのような取り組みを行ってきたのか確認してみましょう。
⑤ 今回の値上げ提案に先立ち、管理組合の支出削減について、どのような検討を行いましたか?
管理会社が具体的な検討結果を説明できるのであれば、値上げの必要性についても理解しやすくなるでしょう。
一方、十分な検討が行われていないのであれば、管理組合として、まず経費削減策の調査や試算を求めることも一つの選択肢です。
これは、単に値上げを拒否するための質問ではありません。
値上げの必要性を適切に判断するための確認です。
8.管理会社の提案姿勢も、管理委託契約を評価する材料になる
管理会社のフロント担当者は、理事会や総会の運営支援、居住者対応、設備不具合への対応など、多くの業務を担当しています。
私自身、その業務を経験しているため、担当者の負担については理解しています。
また、管理委託契約の内容によって業務範囲は異なるため、管理会社にあらゆる経費削減策の提案義務があるとまではいえません。
しかし、管理会社は管理組合から管理委託費を受け取り、日常的な管理運営を支援する立場にあります。
管理会社にとって利益につながる工事や契約変更の提案は積極的に行う一方、管理組合の経費削減につながる提案には消極的だとすれば、その姿勢には疑問が残ります。
管理組合としては、単に管理委託費が高いか安いかだけでなく、管理会社が管理組合の利益を考えた提案を行っているかどうかも、管理委託契約を評価する材料にしてよいのではないでしょうか。
もちろん、電気料金を削減できたとしても、それだけで管理会社の人件費上昇や管理委託費の値上げ理由がなくなるわけではありません。
また、設備更新工事による一時的な費用削減と、毎月の電気料金削減による継続的な支出削減は、区別して考える必要があります。
それでも、管理組合の支出を抑えるために、管理会社がどのような努力をしてきたのかを確認することには意味があると思います。
9.まとめ―値上げを求める前に、削減の提案もしてほしい
マンション管理委託費の値上げが必要になる背景には、人件費や物価の上昇など、管理会社や管理組合の努力だけでは解決できない事情もあります。
そのため、私は管理委託費の値上げそのものを否定するつもりはありません。
しかし、管理会社には、管理委託費の値上げを求めるのであれば、管理組合の支出を削減するための提案にも積極的に取り組んでほしいと考えています。
特に、機械式駐車場やエレベーター、給水ポンプなどを備えたマンションでは、電子ブレーカーの導入を含めた動力契約の見直しによって、電気料金を削減できる可能性があります。
また、共用部分の照明設備についても、未実施のLED化や老朽化した器具の合理的な更新など、検討できることはあります。
これらの対策は、必ずしもすべてのマンションで導入すべきものではありません。
しかし、導入効果を検討した結果、採用しないことと、そもそも検討すらしていないことは全く違います。
私は管理会社のフロント担当者として勤務していた頃、管理組合にメリットのある提案を積極的に行うことが、管理会社や担当者への信頼につながると考えていました。
管理組合にとって経費削減につながる提案であれば、管理会社の売上に直接つながらなくても、積極的に取り組む価値があると思っていたからです。
管理会社から管理委託費の値上げを求められた際には、値上げ幅の妥当性だけでなく、これまでの管理会社の提案姿勢にも目を向けていただきたいと思います。
「管理委託費を上げてください」とお願いする前に、「管理組合の支出を抑えるために、これまで何を提案してきたのか」を説明してほしい。
管理会社には、費用負担を求める提案と同じくらい、費用負担を軽減する提案にも積極的であってほしいと思います。
そして管理組合側も、値上げ提案を受けた際には、その理由を確認するだけでなく、経費削減の余地について積極的に質問していただきたいと思います。
必要な管理品質を維持しながら、削減できる支出は削減する。
そのうえで、本当に必要な管理費の水準を考えていくことが、健全なマンション管理につながるのではないでしょうか。
※本記事は、マンション管理に関する一般的な情報提供を目的としています。電子ブレーカーの導入可否や電気料金の削減効果は、各マンションの設備構成、電気契約、使用状況などによって異なります。実際の導入にあたっては、電力会社や専門業者に確認し、安全性と費用対効果を十分に検討してください。