住宅ローンを検討する際、多くの方が悩むのが「変動金利と固定金利のどちらを選ぶべきか」という問題ではないでしょうか。
日本では、過去数十年間にわたって低金利環境が続いてきました。
そのため、住宅ローンについても、固定金利より借入当初の金利が低い変動金利を選ぶことが、ある意味では当たり前のように考えられてきた面があります。
実際、これまでの低金利環境では、変動金利を選択することで返済負担を抑えられた方も多かったでしょう。
しかし、過去数十年間の金利動向が、これから先も続くとは限りません。
近年は、日本銀行の金融政策の転換に加え、物価や賃金の動向、国内外の経済情勢など、金利を取り巻く環境が大きく変化しています。
今後の金利がどのように推移するかを正確に予測することはできませんが、これまでの低金利環境が今後も当然に続くという前提で住宅ローンを組むことには、慎重な判断が必要です。
住宅ローンは30年、35年といった長期間にわたって返済するものです。
**「これまで変動金利の方が有利だったから、これからも変動金利を選べばよい」という考え方には、大きなリスクが潜んでいるのではないでしょうか。**
今だからこそ、変動金利だけでなく、固定金利も含めて改めて検討する必要があると考えています。
1.変動金利のメリットと注意点
変動金利の大きなメリットは、一般的に固定金利よりも借入当初の金利が低いことです。
金利が低ければ、その分、毎月の返済額を抑えやすくなります。
しかし、変動金利は借入期間中に適用金利が見直されるため、将来金利が上昇すれば、返済負担が増える可能性があります。
ここで注意したいのが、いわゆる「5年ルール」と「125%ルール」です。
一部の金融機関では、元利均等返済の変動金利型住宅ローンについて、金利が変わっても毎月の返済額を原則5年間変更せず、返済額を見直す際も従前の125%を上限とする仕組みを採用しています。
しかし、**これらのルールは金利上昇による利息負担を免除する制度ではありません。**
金利が上昇すれば、毎月の返済額が変わらなくても、返済額に占める利息の割合が増え、元金の返済が進みにくくなる可能性があります。
また、金融機関や商品によっては、これらのルールが適用されない場合もあります。
変動金利を選ぶ際には、現在の金利だけでなく、将来金利が上昇した場合にどの程度の負担が生じるのかを確認しておくことが重要です。
2.固定金利は本当に損なのか?
固定金利のメリットは、一定期間の金利が確定するため、返済計画を立てやすいことです。
特に、全期間固定金利型であれば、借入時に返済期間全体の適用金利が確定するため、将来市場金利が上昇しても、金利上昇を理由として毎月の返済額が増えることはありません。
もちろん、一般的には変動金利よりも借入当初の金利が高く設定されるため、当初の返済負担は大きくなる傾向があります。
しかし、私は必ずしも金利の低い住宅ローンを選ぶことが正解だとは考えていません。
**全期間固定金利を選んだ場合でも、将来のライフプランをシミュレーションし、キャッシュフローを試算して、無理なく返済できるのであれば、それは十分に合理的な選択だと思います。**
将来の金利上昇によって返済額が増えるリスクを避けられることには、大きな価値があります。
仮に将来、変動金利が上昇しなかった場合には、結果として変動金利の方が総返済額を抑えられる可能性もあります。
しかし、住宅ローンの返済期間中の金利動向を正確に予測することはできません。
だからこそ、多少金利が高くても、将来の返済額を確定させることで家計の不確実性を一つ減らせることには、十分な意味があると考えています。
なお、固定金利には全期間固定金利型のほか、一定期間だけ金利を固定する固定金利期間選択型もあります。後者は固定期間終了後に返済額が変わる可能性があるため、区別して考える必要があります。
3.金利が違うと返済額はどれくらい変わる?
例えば、4,000万円を35年間、元利均等返済・ボーナス返済なしで借り入れる場合を考えてみます。
| 金利(年率) | 毎月の返済額(概算) |
| 0.75% | 約10万8,000円 |
| 1.50% | 約12万2,000円 |
| 2.50% | 約14万3,000円 |
| 3.50% | 約16万5,000円 |
※金利が35年間変わらないと仮定した比較です。実際の変動金利型住宅ローンの将来の返済額を予測するものではありません。また、諸費用や管理費・修繕積立金などは含みません。
同じ4,000万円の借入れでも、金利条件によって毎月の返済額には大きな差が生じます。
ここで考えたいのは、**借入当初の低い金利であれば返済できるとしても、将来金利が上昇した場合に家計がその負担に耐えられるか**ということです。
住宅ローンは数十年間にわたって返済するものです。
現在の返済額だけで判断するのではなく、金利上昇時の返済額も試算しておくことが大切です。
4.今の年収を35年間維持できるとは限らない
住宅ローンの返済計画を考える際、金利と同じくらい重要なのが、将来の収入の変化です。
特に、現在の年収が高い方ほど、その収入を今後も維持できることを前提に、多額の住宅ローンを組んでしまうことには注意が必要です。
今の勤務先で、定年まで問題なく働き続けられるでしょうか。
現在の職場環境や待遇に満足していたとしても、それが将来も続くとは限りません。
上司や同僚が変わったことで職場の人間関係が悪化したり、異動によって仕事内容や勤務環境が大きく変わったりすることもあります。
また、会社の業績悪化や事業再編、早期退職の募集などによって、当初は想定していなかった転職を余儀なくされる可能性もあります。
もちろん、転職によって年収が上がることもありますが、必ずしも現在と同じ待遇で転職できるとは限りません。
さらに、病気やけが、家族の介護などによって、働き方を見直さなければならなくなることも考えられます。
**住宅ローンを組む時点で高い年収があったとしても、その収入が返済期間中ずっと続くとは限らないのです。**
例えば、現在の年収が1,000万円であっても、転職などによって700万円、600万円に下がる可能性はゼロではありません。
住宅ローンの返済額を現在の年収ぎりぎりで設定してしまうと、こうした収入の変化が生じた際に、家計が急激に苦しくなるおそれがあります。
また、共働き世帯の場合も、現在の世帯年収をそのまま将来の収入として見込んでよいのか、慎重に考える必要があります。
出産や育児、介護、転職などによって、夫婦のどちらかが働き方を変更する可能性もあるからです。
住宅ローンの返済計画では、現在の年収だけでなく、将来収入が減少した場合にも対応できるかどうかを考えることが重要です。
5.金融機関の融資審査は、借りる人の将来の生活を守るためのものではない
住宅ローンについて、私が強く問題意識を持っていることがあります。
それは、**金融機関が提示する融資可能額と、借りる人が将来にわたって無理なく返済できる金額との間に、大きな隔たりがあること**です。
金融機関は、源泉徴収票などで確認できる現在の年収や勤務先、勤続年数、既存の借入状況、物件の担保評価などを基に融資審査を行います。
しかし、それはあくまで金融機関が融資の可否や金額を判断するための審査です。
子どもの人数や教育方針、将来の教育費、転職による収入減少、親の介護、老後資金など、各家庭の事情を反映した詳細なライフプラン・キャッシュフローを作成し、35年間の家計が本当に成り立つかを検証することが、住宅ローン審査の標準的な前提になっているわけではありません。
私は、この点に住宅ローン融資の大きな問題があると考えています。
これまでFPとして住宅購入後のライフプランやキャッシュフローの相談を受けてきましたが、**私が相談を受けたケースでは、将来の家計を試算してみると、無理のある住宅ローンを組んでしまっている方が圧倒的多数でした。**
購入時点では十分な年収があり、毎月の住宅ローン返済にも問題がないように見えます。
ところが、子どもの教育費が増える時期や、将来の収入減少、老後資金の準備などを織り込んでキャッシュフローを試算すると、家計が赤字に転じたり、必要な貯蓄を確保できなくなったりする可能性が見えてきます。
本来であれば、住宅ローンを契約する前に確認しておくべき問題です。
しかし、現実には、住宅を購入してから初めてこうした問題に気付く方が非常に多いのです。
**住宅ローンの審査に通ったという事実と、35年間無理なく返済できるということは、まったく別の話なのです。**
6.金融機関と借りる側では、住宅ローンのリスクがあまりにも違う
住宅ローンを組む前に、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。
それは、**住宅ローンを貸す金融機関と、借りる私たちとでは、返済が困難になった場合に備えた手段が大きく異なる**ということです。
金融機関は、住宅ローンを融資する際、購入する不動産に抵当権を設定するのが一般的です。
返済が滞り、問題が解決しなければ、最終的には抵当権に基づく競売などによって、住宅を売却し、債権の回収を図ることができます。
しかし、それだけではありません。
住宅ローンの返済を長期間延滞した場合、その情報が信用情報機関に登録され、将来のクレジットカードの発行や各種ローンの審査に悪影響を及ぼす可能性があります。
さらに、金融機関には、保証会社による代位弁済や債権譲渡など、契約内容や状況に応じた債権回収の仕組みもあります。
住宅を売却しても借入残高を完済できなければ、原則として残った債務の返済義務もなくなりません。
もちろん、金融機関にも貸倒れのリスクがあり、融資したお金を必ず全額回収できるわけではありません。
しかし、借りる側の立場から考えてみてください。
多くの方にとって、住宅ローンの返済原資は、毎月の給与などの収入です。
その収入が、35年間にわたって安定して得られる保証はあるでしょうか。
一方で、住宅ローンの返済義務は、そうした個人の事情によって自動的に軽減されるわけではありません。
**金融機関には複数の債権回収手段があります。しかし、借りる側は、将来の収入という不確実なものを頼りに、数千万円もの返済義務を負っているのです。**
そして、返済が行き詰まれば、最悪の場合、住む家を失うことになります。
住宅を失ってもなお借金が残り、信用情報への影響によって新たな借入れやクレジットカードの利用にも支障が生じれば、その後の生活再建は一層難しくなる可能性があります。
家計の悪化が夫婦間の対立につながり、家庭生活そのものに深刻な影響を及ぼすことも考えられます。
**家族が安心して暮らすために購入した住宅によって、家族の生活基盤を失う。そんな事態も、住宅ローンには起こり得るのです。**
私は、これほど重大な契約であるにもかかわらず、借りる人の長期的なライフプランやキャッシュフローを十分に検証することが、金融機関の融資審査において標準的な前提となっていないことに、強い疑問、憤りを感じています。
金融機関が融資できると判断した金額が、借りる人にとって安全な借入金額であるとは限りません。
**金融機関は融資したお金を回収するための仕組みを持っています。しかし、住宅ローンの返済によって家族の生活が破綻したとしても、その生活を元に戻してくれるわけではありません。**
だからこそ、住宅ローンの借入金額は、金融機関の融資可能額ではなく、将来のライフプランとキャッシュフローから判断する必要があると私は思います。
7.変動金利と固定金利、どちらを選ぶべきか
変動金利と固定金利には、それぞれメリットと注意点があります。
変動金利は、借入当初の返済負担を抑えやすい一方、将来の金利上昇リスクを負うことになります。
固定金利は、金利上昇に備えやすい一方、借入当初の返済負担が大きくなる場合があります。
例えば、十分な貯蓄があり、将来金利が上昇しても家計に余裕を持って対応できる世帯であれば、変動金利を選択することも考えられます。
一方、子どもの教育費など今後の支出増加が見込まれ、毎月の住宅ローン返済額をできる限り確定させておきたい世帯では、全期間固定金利型が選択肢になるでしょう。
ただし、どちらを選ぶ場合でも、無理な借入れをしてよいわけではありません。
**住宅ローンで最も大切なのは、変動金利と固定金利のどちらを選ぶかということ以上に、無理なく返済できる借入金額に抑えること**だと考えています。
まとめ―金利の低さだけで住宅ローンを選ばない
住宅ローンの金利は、毎月の返済額や総返済額に大きく影響します。
しかし、借入当初の金利が低いからという理由だけで変動金利を選んだり、固定金利なら安心だからと借入額を増やしたりすることは避けたいものです。
住宅ローンの返済期間中には、家族構成や収入、教育費など、さまざまな変化が生じる可能性があります。
また、マンションの場合は住宅ローンの返済以外にも、管理費や修繕積立金、固定資産税などの費用がかかり、修繕積立金が将来値上げされることもあります。
**変動金利と固定金利のどちらが得になるかは、将来の金利動向によって変わります。**
だからこそ、金利の低さだけで判断するのではなく、将来の家計にどの程度の余裕を持たせられるかを考えて選ぶことが大切です。
住宅ローンは「借りられる額」ではなく、「無理なく返せる額」で考える。
その基本を忘れずに、家族のライフプランに合った住宅ローンを選んでいただきたいと思います。