外壁タイルの落下事故は他人事ではない!―マンション所有者が負う法的責任と大規模修繕工事の重要性

外壁タイルの落下事故は他人事ではない!―マンション所有者が負う法的責任と大規模修繕工事の重要性

記事
コラム

はじめに―築30年超のビルで外壁タイル落下事故

2026年10月、北海道旭川市で、築30年を超えるビルの外壁タイルが剥落し、約12メートル下にいた10代後半の男女3人が負傷する事故が発生しました。

報道によると、このビルでは旭川市への点検報告が18年間行われていなかったとのことです。

今回の事故の原因や、建物の所有者・管理者がどのような維持管理を行っていたのかについては、今後の調査を待つ必要があります。

しかし、今回の事故は、分譲マンションを所有している方や、これから中古マンションを購入しようとしている方にとっても、決して他人事ではありません。

なぜなら、**建物の維持管理が不十分なために第三者を巻き込む事故が発生した場合、マンションの所有者自身が損害賠償責任を負う側の当事者になる可能性があるからです。**

今回は、民法が定める工作物責任、管理組合の役割、そして大規模修繕工事の必要性について、法律と建築施工管理の両面から考えてみたいと思います。

1.民法717条が定める「工作物責任」とは?

建物の外壁タイルが落下し、第三者に損害を与えた場合、重要になるのが民法717条の「土地の工作物責任」です。

一般的な不法行為責任を定める民法709条では、原則として加害者の故意または過失が問題となります。

一方、民法717条1項では、建物などの工作物の設置または保存に瑕疵があり、それによって第三者に損害が発生した場合について、特別な責任を定めています。

具体的には、まず工作物の占有者が損害賠償責任を負います。ただし、占有者が損害の発生を防止するために必要な注意を尽くしていた場合には、所有者が責任を負うことになります。

ここで注目したいのが、**所有者の責任は「無過失責任」とされている**ことです。

つまり、所有者自身に過失がなかったとしても、工作物の設置・保存の瑕疵によって損害が発生するなど、法律上の要件を満たせば、損害賠償責任を負う可能性があるのです。

「建物の管理は管理会社に任せている」「自分は外壁タイルの不具合を知らなかった」という事情だけで、必ずしも責任を免れるわけではありません。

2.マンションの管理組合にも法的責任がある

分譲マンションの外壁は、原則として区分所有者全員が共有する共用部分です。

その維持管理について中心的な役割を担うのが、区分所有者によって構成される管理組合です。

管理組合は、建物の劣化状況を把握し、必要な点検や補修を実施するなど、共用部分の安全性を確保するための重要な役割を担っています。

ここで、近年の注目すべき最高裁判決を紹介します。

**2026年1月22日、最高裁判所は、区分所有者の団体である管理組合について、特段の事情がない限り、マンションの共用部分に関する民法717条1項の「占有者」に当たるとの判断を示しました。**

この事件は、マンションの共用部分に生じた亀裂などによる漏水被害について、管理組合の損害賠償責任が争われたものです。

最高裁は、管理組合が共用部分を支配管理し、その設置・保存の瑕疵による損害の発生を防止すべき立場にあることなどを理由に、占有者に該当すると判断しました。

なお、この判決は管理組合の占有者該当性を判断したものであり、個別の損害賠償額まで確定したものではありません。

しかし、マンションの共用部分の維持管理について、管理組合が重要な法的責任を担うことを示した判決といえます。

3.マンション所有者自身が「加害者側」になる可能性

ここで、マンションを所有する方に、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。

**マンションの外壁タイルが落下して第三者に被害を与えた場合、区分所有者自身が、損害賠償責任を負う側の当事者になる可能性があるということです。**

例えば、マンションの外壁タイルが落下し、下を歩いていた通行人に直撃したケースを考えてみましょう。

被害者が骨折などの重傷を負った場合には、治療費、休業損害、慰謝料などが損害賠償の対象となる可能性があります。

仮に、治療費100万円、休業損害150万円、慰謝料200万円が認められたとすると、合計450万円の賠償額となります。

さらに、後遺障害が残った場合には、将来の収入減少に相当する逸失利益なども問題となります。

最悪の場合、死亡事故に至れば、被害者の年齢や収入、家族構成などによっては、損害賠償額が数千万円から1億円を超える可能性も考えられます。

※上記の金額は説明のための仮定であり、実際の裁判例の認定額ではありません。

また、外壁調査でタイルの浮きや剥離が確認され、補修の必要性を指摘されていたにもかかわらず、必要な対策を講じずに事故が発生した場合には、管理組合が民法717条に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。

一方、管理組合が損害の発生を防止するために必要な注意を尽くしていた場合でも、外壁の設置・保存に瑕疵があり、それによって事故が発生したのであれば、所有者側の無過失責任が問題となり得ます。

分譲マンションでは、共用部分を区分所有者が共同で所有しているため、個々の区分所有者の責任や負担関係についても問題となる場合があります。

もちろん、区分所有者全員が当然に賠償額の全額を負担するという意味ではなく、具体的な責任の所在や負担範囲は、所有関係や事故の状況、適用される法律などによって判断されます。

しかし、重要なのは、**マンションを所有することは、単に住まいを手に入れるだけでなく、建物を共同で所有することに伴う法的責任も引き受けるということです。**

昨日まで何の関係もなかった通行人が、自分たちのマンションから落下したタイルによって重大な被害を受ける。

そのような事故が発生すれば、マンションの所有者が、被害者に対して法的責任を負う側の当事者になる可能性があるのです。

4.大規模修繕工事は単なる美観回復ではない

マンションの大規模修繕工事というと、外壁をきれいに塗り直したり、防水工事を行ったりすることをイメージされる方も多いと思います。

しかし、大規模修繕工事の目的は、単なる美観の回復や資産価値の維持だけではありません。

**建物の劣化を把握し、必要な補修を実施することで、居住者や第三者の安全を守ることも重要な目的です。**

外壁タイルは、温度変化による伸縮や下地の動き、施工時の接着不良、経年劣化など、さまざまな要因によって浮きや剥離が発生する場合があります。

大規模修繕工事では、打診調査などによってタイルの浮きや不具合を確認し、その状況に応じてタイルの撤去・張替えやアンカーピンニング工法などによる補修を実施します。

私自身、マンションの大規模修繕工事における施工管理に携わっていますが、外壁タイルの補修は、建物の安全性を維持するうえで非常に重要な工事の一つだと考えています。

また、実際に足場を設置して調査を進めると、当初の想定よりもタイルの浮きや不具合が多く確認され、補修数量が増加する場合もあります。

その結果、当初の予算を超える補修費用が必要になることも考えられます。

だからこそ、建物の劣化状況を適切に把握し、必要な修繕を計画的に実施していくことが重要なのです。

なお、大規模修繕工事を一定周期で実施していれば、それだけで安全性が保証されるわけではありません。

工事と工事の間にも、必要な点検や劣化状況に応じた補修を行うことが大切です。

5.修繕積立金の不足は、建物の安全性にも影響する

ここで考えていただきたいのが、マンションの修繕積立金です。

修繕積立金が不足しているマンションでは、必要な修繕工事を予定どおり実施できず、工事の延期や補修範囲の縮小を検討せざるを得ない場合があります。

もちろん、すべての修繕工事を一度に実施する必要はなく、建物の劣化状況や緊急性に応じて優先順位を判断することは重要です。

しかし、外壁タイルの剥落など、第三者の安全に関わる不具合については、費用面だけを理由に安易に先送りすべきではありません。

例えば、外壁調査によってタイルの浮きが多数確認され、補修の必要性を指摘されていたにもかかわらず、修繕積立金の不足を理由に必要な対策を講じなかった場合はどうでしょうか。

その後、外壁タイルが落下して第三者に損害を与えれば、管理組合や所有者の損害賠償責任が問題となる可能性があります。

資金不足だからといって、当然に法的責任を免れるわけではないのです。

修繕積立金の月額が安いことは、毎月の家計にとって魅力的に映るかもしれません。

しかし、必要な修繕費用を十分に確保できていなければ、将来的な積立金の大幅な値上げや一時金の徴収だけでなく、建物の安全性にも影響する可能性があります。

**修繕積立金は、単に建物をきれいに保つためのお金ではありません。建物の安全性を維持し、重大な事故を未然に防ぐためのお金でもあるのです。**

6.中古マンション購入時に確認しておきたいこと

中古マンションを購入する際、価格や立地、間取り、室内設備などに目が向きがちです。

しかし、マンションを購入するということは、専有部分だけでなく、外壁や屋上、共用廊下などの共用部分も共同で所有する立場になるということです。

そのため、建物全体の維持管理状況についても、十分に確認しておく必要があります。

特に確認したいのは、過去の大規模修繕工事の実施履歴、外壁の調査・補修状況、長期修繕計画、修繕積立金の残高や今後の改定予定などです。

また、管理組合の総会議事録などから、過去に建物の不具合が指摘されていないか、必要な修繕についてどのような議論が行われているかを確認することも有効です。

築年数が経過していること自体が、直ちに危険なマンションであることを意味するわけではありません。

大切なのは、**建物の劣化状況に応じた適切な維持管理が行われているかどうか**です。

購入時の価格や毎月の管理費・修繕積立金だけでなく、将来の修繕負担や建物の安全性まで含めて判断することが重要だと考えます。

まとめ―「マンションは管理を買え」の本当の意味

マンションは、購入したら終わりではありません。

建物は時間の経過とともに劣化し、適切な点検や補修を継続していく必要があります。

そして、建物の維持管理は、資産価値を守るためだけのものではありません。

居住者や周辺を通行する第三者の生命・身体を守るためにも、欠かすことのできないものです。

民法717条の工作物責任が示すように、建物の所有には法的な責任も伴います。

**マンションの区分所有者は、外壁タイルの剥落事故などが発生した場合、被害者ではなく、損害賠償責任を負う加害者側の当事者になる可能性があるのです。**

そのような事態を防ぐためにも、管理組合による適切な維持管理、計画的な大規模修繕工事、そして十分な修繕資金の確保が重要になります。

「マンションは管理を買え」という言葉があります。

これは単に、管理状態の良いマンションほど資産価値を維持しやすいという意味だけではありません。

**第三者の安全を守り、所有者自身が重大な法的責任を負うリスクを低減するという意味でも、マンションの管理状態は極めて重要なのです。**

これからマンションを購入する方には、物件の価格や間取りだけでなく、建物がこれまでどのように管理され、今後どのように維持されていくのかについても、ぜひ目を向けていただきたいと思います。

※本記事は一般的な法律・建物管理に関する情報提供を目的としています。個別の事故における法的責任は、具体的な事実関係等によって異なります。

**参考資料**
- HBC北海道放送・2026年10月15日「ビルの外壁タイルが12m下の10代後半の男女3人に直撃」
- 民法709条・717条
- 最高裁判所第一小法廷・令和8年1月22日判決(令和6年(受)第385号)
- 旭川市「建築物の防災に関するお知らせ」
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