2026年9月28日、公正取引委員会からマンション大規模修繕工事に関する気になる発表がありました。
関東地区のマンション管理組合が設計コンサル会社に委託して発注した大規模修繕工事について、設計コンサル会社と多数の施工会社が受注調整を行っていたとして、排除措置命令や課徴金納付命令等が行われました。
私は現在、マンション大規模修繕工事の施工管理に携わっています。
今回のニュースを見て感じたのは、
「複数社から見積りを取っているから大丈夫」
「設計コンサル会社が入っているから大丈夫」
とは、必ずしも言い切れないということです。
そしてこれは、これから中古マンションを購入する方にとっても、決して無関係な話ではありません。
今回の大規模修繕工事で何が行われていたのか?
公正取引委員会の発表によると、今回のケースでは、大規模修繕工事ごとに受注予定者を決め、それ以外の施工会社は、その会社が受注できるよう協力するという合意があったとされています。
さらに、受注予定者側が、見積り合わせなどに参加する他社が管理組合へ提示する見積価格等を決め、他社は連絡された価格を提示したり、見積り合わせ自体に参加しなかったりしていました。
そして設計コンサル会社は、業務の中で知った「設計予算」、つまり管理組合が決定した発注予定金額などの情報を受注予定者等に提供していたと認定されています。
つまり管理組合から見れば、
「複数の施工会社から見積りを取って比較している」
ように見えていても、その裏側では既に受注予定者や提示価格が調整されていたわけです。
これは非常に考えさせられる話です。
【「設計監理方式だから安心」とも限らない】
マンションの大規模修繕では、管理組合だけで建物を調査し、工事仕様を決め、施工会社を比較して工事監理まで行うことは現実的に難しい場合があります。
そこで、設計コンサル会社などの専門家へ、調査・診断、設計、施工会社選定の補助、工事監理などを委託する方法があります。
施工会社とは別の専門家が入ることで、管理組合側に立ったチェック機能が期待されます。
本来であれば、それ自体は合理的な仕組みです。
しかし今回問題になったのは、まさに施工会社選定を補助する側が受注調整に関与していたという点です。
「第三者を入れたから安心」ではなく、その第三者が本当に管理組合側を向いているのかまで考える必要があります。
【実際の大規模修繕の現場から感じること】
ここからは、今回の公取委が認定した事実そのものではなく、私自身が大規模修繕の仕事に携わる中で感じていることです。
大規模修繕では、設計事務所だけでなく、管理会社が管理組合を支援し、施工会社との見積り取得や工事内容の調整、施工会社選定などに深く関わることもあります。
そして、管理会社や設計会社、施工会社は、一つのマンションだけで仕事をしているわけではありません。
管理会社には管理している多数のマンションがあり、施工会社側にも継続的に取引している管理会社や設計会社があります。
当然、管理会社側も「この会社なら工事を任せられる」「この会社とはこれまで何件も仕事をしている」といった施工会社との関係を持っています。
こうした継続的な関係そのものが悪いわけではありません。
施工能力や現場対応力を知っている会社へ依頼することには、工事を円滑に進めるというメリットもあります。
ただ、外から見る以上に大規模修繕業界は継続的な取引関係の中で動いているということは、管理組合側も知っておいた方がいいと思います。
表向きは複数社から見積りを取得し、施工会社と価格交渉をしている。
しかし、それだけを見て、
「競争が行われているから適正価格だろう」
と判断してしまっていいのかということです。
今回の公取委の発表は、そのことを改めて考えさせる内容でした。
【バックマージンの問題は以前から指摘されていた】
実は、こうした問題は今回初めて指摘されたものではありません。
国土交通省は以前から、一部の設計コンサルタントについて、自社へバックマージンを支払う施工会社が受注できるよう不適切な工作を行い、割高な工事費や過剰な工事項目・仕様などによって管理組合へ経済的損失を与える事例があるとして注意喚起しています。
そして今回の公取委の審査でも、設計コンサル会社から情報提供を受けた施工会社が工事を受注した場合に、工事請負契約金額の一定割合に相当する「手数料等」が設計コンサル会社へ支払われていた事実が確認されています。
ここで管理組合側として考えておきたいのは、
そのお金も、どこかから生まれている
ということです。
施工会社には当然、工事原価があります。
材料費、人件費、足場などの仮設費、現場管理費などを負担し、そのうえで適正な利益を確保して工事を行います。
そこに本来の工事とは別のコストが発生した場合、その負担が最終的に工事価格や施工原価へどのような影響を与えるのかという視点も必要だと思います。
だからこそ管理組合にとっては、「一番安い会社を選べばいい」という話でもありません。
適正な価格で、必要な工事を、必要な品質で施工してもらう。
これが本来の大規模修繕だと思います。
【では、管理組合は何を見ればいいのか】
大規模修繕工事は専門性が高く、一般の区分所有者だけですべてを判断するのは簡単ではありません。
だからこそ、重要なのは「専門家に任せない」ことではなく、
専門家に任せながらも、意思決定のプロセスをブラックボックスにしないこと
がベターだと思います。
例えば、
「施工会社の候補は誰が選んだのか」
「なぜその会社が候補になったのか」
「見積条件は各社で同じなのか」
「金額だけでなく工事内容も比較されているか」
「最終的にその施工会社を選んだ理由を管理組合が説明できるか」
といったところです。
国土交通省も、施工会社選定における利益相反への注意や、管理組合自身が情報を得ながら透明性を確保する取組を示しています。
これからマンションを買う人にも関係があります
「まだマンションを買っていない自分には関係ない」
と思われるかもしれません。
でも、中古マンションを購入すれば、その日からそのマンションの区分所有者です。
大規模修繕工事に使われる修繕積立金は、区分所有者が長年積み立ててきた大切なお金です。
だから中古マンションを購入するときには、室内や立地、物件価格だけでなく、
修繕積立金はいくら貯まっているのか。
これまでどんな大規模修繕をしてきたのか。
長期修繕計画はどうなっているのか。
管理組合ではどのような議論がされているのか。
といったところにも目を向けてほしいと思います。
総会議事録を読むと、過去の大規模修繕工事について施工会社の選定方法や工事金額、追加工事などが記載されている場合もあります。
以前の記事で書いた、
「マンションは管理を買え」
という言葉は、こういうところにもつながっています。
大切なのは「誰に任せたか」より「どう決めたか」
設計コンサル会社に依頼することが悪いわけではありません。
管理会社へ相談することが悪いわけでもありません。
付き合いのある施工会社へ依頼すること自体が悪いわけでもありません。
重要なのは、
「専門家に任せたから大丈夫」
で終わらせないことです。
誰が候補を選び、どのように比較し、なぜその会社・その金額・その工事内容になったのか。
管理組合自身がそれを理解し、納得して意思決定できる状態になっているか。
今回のニュースは、マンションの大規模修繕における**「透明性」**の大切さを改めて示した出来事だと思います。
マンション購入でも同じです。
住宅ローンや物件価格を見るだけではなく、購入した後、そのマンションがどのように管理され、修繕されていくのか。
そこまで含めてマンションを見る。
それが、長く安心して住めるマンションを考えるうえで大切な視点ではないでしょうか。