アンケートの自由記述を分類する仕事を、AIにやらせている人は多いと思います。私もやっています。
ただ、AIに一度投げて返ってきた分類をそのまま集計に使うのは、たぶん危ないです。3,100件のサンプルで実際に測ってみたら、その理由がはっきり数字で出たので書きます。
やったこと
自分で用意したアンケート回答3,100件を、性格の違うAI2体にまったく同じ指示文で渡して、それぞれに「不満」「要望」「称賛」「その他」の4つに仕分けさせました。そのうえで2体の答えを1行ずつ突き合わせました。
一致した行は、たぶん合っています。問題は、割れた行です。
結果:648行で答えが違った
3,100行のうち648行、およそ5行に1行で、2体の答えが食い違いました。別に片方が壊れていたわけではありません。どちらも真面目に答えて、別々の分類名を出してきます。
割れ方には偏りがありました。
割れた組み合わせ / 件数
不満 ↔ 要望 / 458件(割れの71%)
称賛 ↔ 要望 / 61件
不満 ↔ 称賛 / 52件
その他 ↔ 称賛 / 37件
その他 ↔ 要望 / 27件
その他 ↔ 不満 / 13件
7割が「不満か、要望か」の1か所に集中しています。ここに原因がありました。
原因は、文末の決まり文句だった
割れた458件の本文を並べて読むと、回答の形がだいたい同じでした。
〇〇について、△△で困っています。ご検討をお願いします。
前置きがあって、本題があって、最後に決まり文句が付く。この「ご検討をお願いします」「強く希望します」「改善に期待しています」は、どんな内容の回答にも付きます。困っている話にも、褒めている話にも付く。
そして2体のAIは、この結びの扱いが違っていました。片方は結びを「要望」の根拠として拾い、もう片方は本題だけを見ていた。同じ文を読んで、別の場所を根拠にしていたわけです。
これは指示文の落ち度です。人間なら「そこは定型の挨拶でしょう」と分かる部分を、指示文が一言も書いていなかった。
直し方:抽象的に書いても効かない
最初は「定型的な表現は無視してください」と書きました。効きませんでした。
効いたのは、消すべき言葉を1つずつ名指しで並べるやり方です。実際のデータに10件以上出てきた結びの言い回し6種類と、前置きの言い回し9種類を、そのまま指示文に書き出しました。
あわせて2つ足しました。
・当てはめる順番を固定した。「要望 → 不満 → 称賛 → その他」の順に見て、最初に当たったものにする。「〜ませんか」「〜があると助かります」のような遠回しな求めも要望に入る、と明記した
・混ざったときの決め方を書いた。望んでいる形が書いてあるなら、困りごとが混ざっていても要望にする
順番はここで一度失敗しています。最初は「不満 → 要望」の順にしたのですが、残った割れが全部「〜がほしい」「〜ませんか」型でした。順番を入れ替えただけで、100件中14件だった割れが1件になりました。
効き目を測った
指示文を直したあと、100件で測り直しました。ここで大事なのは、直すときに読んでいた100件だけで測らないことです。それだと「その100件専用の指示文」になっただけかもしれない。
なので、一度も読んでいない別の100件でも測りました。
測った対象 / 直す前 / 直したあと
直すときに読んでいた100件 / 19件 / 1件
一度も読んでいない別の100件 / 18件 / 0件
読んでいないほうも下がったので、たまたまではないと判断しました。そのうえで3,100件を最初から流し直したところ、2体が割れた行は24行まで減りました。
引き換えに、3倍遅くなった
いいことばかりではありません。指示文が長くなったぶん、AIが1件ごとに読む量が増えて、処理そのものが遅くなりました。同じ3,100件で1時間32分だったものが、4時間41分かかっています。
数を減らしたければ指示文を厚くする、速さがほしければ薄くする。そういう交換です。どちらが正しいという話ではないので、締切から逆算して決めることになります。
ここから持ち帰れそうなこと
・AIに分類させたら、1体の答えだけを信じない。2体に同じ指示文を渡して突き合わせると、どこが危ういかがその場で見えます。一致した行はそのまま使い、割れた行だけ人が見ればいい
・割れた行は宝物。捨てずに組み合わせで数えると、指示文のどこが足りないかが1か所に集中して見えます
・「定型表現は無視」のような抽象的な指示は効かない。実データに出てきた言い回しを名指しで並べる
・分類の順番を固定する。順番を書かないと、AIは毎回違う順で見ます
・効き目は、読んでいないデータで測る。読んだデータで測った数字は、自分に都合よく出ます
なお、この記事の数字は自前のサンプルで測ったものです。この割合が他のデータでもそのまま出るとは思わないでください。分類の切り方が変われば数字は動きます。実際、同じ3,100件でも指示文の書き方だけで割れが648行から24行まで動きました。測るなら自分のデータで測るのが確実です。
最後に
同じやり方(2体に流して突き合わせ、割れた行に印を付けて納品する)を、代行として引き受けています。件数が多くて手が回らないときや、指示文の作り込みから相談したいときは、下のサービスをご覧ください。