「社員の離職率を下げたい」
「できるだけ長く働いてもらいたい」
経営者なら、一度くらい考えたことがあるはずだ。
採用には金がかかる。
ようやく仕事を覚えた社員に辞められれば、また一から採用して、教育しなければならない。
残された社員の負担も増える。
だから、離職率を下げようとすること自体は何もおかしくない。
問題は、
「辞めないこと」そのものが組織の目的になった瞬間だ。
「辞めない会社」と「強い会社」は同じではない
社員が長く働いている。
離職率も低い。
一見すると、素晴らしい会社に見える。
でも、本当にそうだろうか。
誰も挑戦しない。
誰も異論を言わない。
上司に言われたことを淡々とこなし、波風を立てない。
新しいことを始めようとすると、
「今までこれでやってきたんだから」
という空気が流れる。
それでも人は辞めない。
そんな組織だって存在する。
つまり、
離職率の低さと、組織の強さは別の話だ。
人が残っていることより、
その場所で人が成長しているか。
自分で考えているか。
挑戦しているか。
昨日より強くなっているか。
俺なら、こっちを見る。
人を囲おうとすると、組織は弱くなる
経営者には怖さがある。
せっかく育てた社員に辞められたくない。
優秀な人間ほど手放したくない。
これは当然だと思う。
だから給料を上げる。
福利厚生を整える。
働きやすい環境をつくる。
もちろん、それらは大切だ。
でも、それだけでは人はついてこない。
むしろ、
「どうすれば辞めないでいてくれるか」
ばかり考え始めると、いつの間にか経営者自身が社員の顔色を見るようになる。
嫌われないようにする。
厳しいことを言わなくなる。
本人の成長に必要なフィードバックまで避ける。
そうして出来上がるのは、
優しい組織ではない。
誰も本気でぶつからない、馴れ合いの共同体だ。
「ここにいる間に、もっと強くなりたい」
俺がつくりたいのは、辞めない組織じゃない。
社員が、
「ここにいる間に、もっと強くなりたい」
と思える組織だ。
仕事を通じて判断力が磨かれる。
以前なら逃げていた問題から逃げなくなる。
自分で考え、自分で決め、自分で責任を取れるようになる。
市場価値だって上がっていく。
極端に言えば、
その会社にしがみつかなくても生きていける人間を育てる。
少し矛盾して聞こえるかもしれない。
でも俺は、そっちの方が強い組織になると思っている。
会社を辞めたら困る人間を増やすのではない。
いつでも辞められる実力があるのに、それでも「ここで働きたい」と思う人間を増やす。
その方が圧倒的に健全だ。
優秀な人間は「安心感」だけでは動かない
もちろん、安心して働ける環境は必要だ。
心理的にも、経済的にも、最低限の安全はなければならない。
ただ、それだけで優秀な人間の心を長く掴めるとは思わない。
優秀な人ほど、
「ここにいることで、自分はどこへ行けるのか」
を見ている。
そしてリーダーそのものも見ている。
この人は何を大切にしているのか。
問題が起きたとき、何を基準に決断するのか。
都合が悪くなったとき、逃げるのか。
それとも腹を括るのか。
つまり、部下が見ているのは肩書きだけじゃない。
リーダーの判断基準だ。
「あの人の言うことだから従う」
では弱い。
俺が目指したいのは、
「あの人の判断基準に触れていると、自分まで強くなれる」
と思われるリーダーだ。
個性を殺すな
強い組織は、全員が同じ方向を向いている組織だと言われる。
俺は少し違うと思っている。
全員が同じ人間になる必要なんてない。
むしろ、違っていい。
野心のある奴。
慎重な奴。
数字に強い奴。
人の感情を読むのが得意な奴。
リーダーに平気で反論する奴。
それぞれ違う人間が、自分の頭で考えている。
ただし、
「何のためにこの仕事をするのか」
という根っこの部分だけは共有されている。
個性を消して統一するのではない。
判断基準を共有したうえで、個性をぶつける。
俺が考える強いチームは、そんな場所だ。
辞める人間がいてもいい
ここまで書くと、
「じゃあ社員が辞めても構わないのか」
と思うかもしれない。
もちろん、何でもかんでも辞めればいいとは思わない。
大量離職が起きているなら、経営やマネジメントに問題がないかを見る必要がある。
待遇なのか。
人間関係なのか。
仕事内容なのか。
上司なのか。
組織文化なのか。
そこから目を背けて、
「辞める奴が悪い」
で片づけるのは経営ではない。
ただ同時に、
離職をゼロにすることも目的ではない。
成長した結果、新しい世界へ挑戦する人間もいる。
自分のやりたいことを見つけて独立する人間もいる。
価値観が変わり、別の道を選ぶ人間だっている。
それでいい。
大切なのは、
何年間在籍したかではなく、
その人がここにいた時間に、何を獲得したか。
そして会社も、その人から何を受け取ったかだ。
人を囲うな。人が育つ組織をつくれ
俺は、人間を会社に依存させるリーダーにはなりたくない。
自分がいなければ何も判断できない部下を大量につくって、
「俺には求心力がある」
と喜ぶのも違う。
本当に強いリーダーは、
自分がいなくても考えられる人間を育てる。
自分と違う意見を持てる人間を育てる。
そして最後には、
自分すら必要なくなるほど強い人間を育てる。
それでも一緒にいたいと思われる。
そこまでいって初めて、本当の意味で人がついてくるんじゃないかと思う。
これは組織だけの話ではない。
俺が「人生統治」と呼んでいるものも、根っこは同じだ。
誰かに正解を与えてもらい、その通りに生きるのではない。
自分の判断基準を持ち、自分で人生の舵を握れる人間になる。
会社も同じだ。
従順な人間を増やすのではなく、
自分で舵を握れる人間を増やす。
そんな個人が集まった組織は、強い。
だから、
「どうすれば社員を辞めさせないか」
だけを考えるのは、もうやめよう。
問いを変えよう。
「この会社にいることで、この人は強くなっているか?」
そしてもう一つ。
「俺と働くことで、この人の人生は前に進んでいるか?」
経営者が見るべきなのは、離職率という数字だけではない。
人を囲うな。
人が育つ組織をつくれ