私がGoldman Sachsで働いていた頃のMD(Managing Director)には、リーダーとしてすごいなと思うところがたくさんありました。
その一つが、チームメンバー一人ひとりのことを本当によく覚えていることです。
趣味や好きなもの、食べ物の好み、休暇の予定まで、かなり細かなことを覚えていました。
当たり前のように聞こえるかもしれませんが、これを何年も続けるのは、実際にはかなり難しいことだと思います。
私が思うに、こういうことができる人には、
1. 相手をよく観察する
2. 話したことをきちんと覚えておく
という2つが必要なのだと思います。
「この前食べてたベーグル、今日も食べる?」
私がニューヨーク本社に入社したばかりの頃、ある時期ずっとベーグルにハマっていて、毎朝のようにベーグルを食べていました。
すると、翌週のある朝、MDが私を見るなり、
「今日もベーグル食べるの?」
と笑顔で聞いてきました。
本当に些細なことなのですが、そこからベーグルの話でしばらく盛り上がりました。
当時はまだ入社したばかりで、MDのことを少し怖いと思っていたのですが、この出来事をきっかけに、なんとなく距離が縮まったように感じました。
私たちのチームにはベジタリアンの同僚もいました。
チームで食事に行くとき、MDはいつも「この店なら○○さんも食べられるものがある?」と確認していました。
ある時は日本食のお店で、ベジタリアンの同僚が食べられる巻き寿司をいくつか注文し、食事中も時々「ちゃんと食べられてる?」と気にかけていました。
私はというと、その同僚がベジタリアンだということを忘れていることがあり、以前なんて「今度みんなで中国の火鍋を食べに行かない?」と、かなり無邪気に誘ってしまったこともあります。
MDが覚えていたのは、仕事の予定だけではありません。
誰がいつ休暇を取るのか、どこに旅行するのか、といったことまでよく覚えていました。
私は人の旅行先を覚えるのがあまり得意ではなく、同僚が休暇から戻ってきても「どこに行ってたんだっけ?」となることがよくありました。
でもMDは、
「○○さんは今週ハワイだよね」
「Sophiaはもうすぐイギリスに行くんだよね?」
というように、かなり正確に覚えていました。
私自身もヨーロッパ旅行に出発する前、飛行機に乗る直前にMDから、
「もうすぐイギリスに向かうんだよね? Have a safe trip!」
というメッセージをもらったことがあります。
忙しい立場なのに、こういう細かなことまで覚えていることに、当時かなり驚きました。
もう一つ印象に残っている出来事があります。
ある飲料メーカーの方とミーティングをしたとき、最初にMDが、
「うちのチームの○○が御社の商品が大好きで、毎日○○を飲んでいるんですよ」
と話しました。
相手の方はとても喜んでくださり、「ぜひサンプルをお送りします」と言ってくださいました。
その後、実際にサンプルが届き、MDがその同僚に渡していました。
私はその会社とのミーティングの前に、もちろん相手企業の商品について調べていました。
でも、その時に「うちのチームの○○さんが毎日この商品を飲んでいる」というところまでは結びついていませんでした。
MDは、チームメンバーが普段何を好んでいるのかまで見ていたからこそ、相手との会話の中でそれを自然に活かすことができたのだと思います。
そして私は、この出来事を見て、
「きっとこの人は、チームメンバーだけではなく、クライアントのことも同じように見ているんだろうな」
と思いました。
相手が何を好み、何を大切にしているのか。
以前どんな話をしていたのか。
どんなことに反応していたのか。
そうした小さな情報を覚えているからこそ、相手に合わせたコミュニケーションができる。
### ビジネスコミュニケーションは「何を話すか」だけではない
この経験を通して、私はビジネスにおけるコミュニケーションについて少し考え方が変わりました。
英語で仕事をするというと、「正しい英語を話す」「自分の考えを分かりやすく伝える」といったことをまず考えがちです。
もちろんそれも大切です。
でも実際の仕事では、「相手のことを知っているか」「相手に興味を持っているか」も同じくらい重要なのだと思います。
そして、そうした小さな積み重ねが、単なる仕事上の関係を少しずつ人間的な関係に変えていく。
私自身、国際的なビジネス環境で働く中で、こうしたコミュニケーションの大切さをたくさん学びました。
今後も、Goldman Sachsで実際に経験したことや、そこで出会った人たちから学んだことを少しずつ紹介していきたいと思います。