インタビュー事例 その3 株式会社ブルーム 代表取締役 小峰正仁氏

インタビュー事例 その3 株式会社ブルーム 代表取締役 小峰正仁氏

記事
ビジネス・マーケティング

離職率を下げる「定着ファースト」の経営哲学と、AI時代を生き抜く若者へのメッセージ

株式会社ブルーム 代表取締役 小峰正仁

2022年に取締役を務めたWeb制作大手・株式会社メンバーズを退社し独立。株式会社ブルームを立ち上げた小峰正仁さん。それまでの経営、人事の経験と知見を生かして、経営コンサルティング、コミュニティ運営、地域創生、アントレプレナー教育と、さまざまな事業に取り組んでいます。
そこには、これまでの激動の経営環境を乗り越える中で築き上げた、「人」を中心とした会社経営の思想が強い軸となっていました。経営を支える「定着ファースト」の仕組みや、AI時代を迎える若者たちに伝えたいメッセージについて、深掘ってみました。

経営コンサルからアントレプレナー教育まで。若い世代の背中を押す喜び

ーー2022年に独立されてから、経営コンサルティングやコミュニティ運営、教育など多岐にわたる事業を展開されています。現在は、具体的にどのようなプロジェクトに注力されているのでしょうか?

小峰:前職では取締役として、人事や社員に関するところを中心に、経営の中枢業務をいろいろとやってきました。独立した今も、企業の経営コンサルティングとして経営をサポートする仕事を中心にやっています。

ただ、やっていて一番ワクワクするのは、スタートアップ企業の支援や、学生たちへのアントレプレナー教育など、若い人たちの背中を押す仕事ですね。

来月から2期目を迎えるスタートアップのコンサルティングが始まるのですが、若い起業家は経験が少ない分、こちらが提示した選択肢を素直に吸収してどんどん変化していくんです。若い人たちが柔軟に変わっていく成長プロセスに伴走するのは本当に楽しいですよ。

仕事とは別で、長年、地元のミニバスケットボールチームのコーチも務めているんです。小学生から高校生、そして若い起業家まで、さまざまな年代の若い人たちと交流し、指導することは、私にとって一つのライフワークになっています。

ーー学生向けのアントレプレナー教育にも力を入れられていますね。
小峰:そうですね。大学や専門学校、高等専門学校など、前職の時から就職関係でつながりのあった学校も多いのですが、そういったところを中心に、キャリアに関する授業や、アントレプレナー教育も担当させてもらっています。

中でも、福井県の鯖江高校では高校2年生に向けて、アントレプレナー教育をやっているのですが、地方の高校生が普段絶対に会えないような第一線の経営者や会計士を連れて行くんです。すると、高校生たちや先生たちの固定観念がガラッと崩れる。彼らの「常識を壊しに行く」瞬間を見るのがたまらなく好きなんですよね。

日本の停滞理由は「離職率」。人が定着する仕組みこそが急務

ーー長らく「人」に関するお仕事をされてきたと思うのですが、今の日本のビジネス環境や働き方の課題についてどう見ていらっしゃいますか。

小峰:はっきり言って、今のこの国がこれだけ停滞している理由の一つは「離職率の高さ」だと思っています。厚労省の「雇用動向調査」によると2024年上半期の離職者数が約426万人、年間にすると約800万人もの人が離職し、それが巨額の市場を動かしている。つまり、人が辞めて人材が流動化することで、人材紹介や派遣などのエージェント業ばかりが増えて儲かる構造になっているんです。

これっておかしいと思いませんか? 離職率が高いから人材業界が潤う一方で、高い採用コストを払って人を入れ替えるだけの企業は、ただただ疲弊していく。本来、日本経済を底上げするためには、企業が「人が定着するための仕組み作り」に投資するべきです。

ーー確かに、採用しては辞めるの繰り返しでは企業は成長しませんね。
小峰:そうなんです。でも、人を定着させるための支援事業というのは、人を右から左へ流すエージェントビジネスに比べて儲からない。だから誰も本気でやろうとしないんです。だからこそ、私がやる意義があると思っています。
人材業界が潤うだけの負のループを断ち切って「定着ファースト」で採用し、しっかりと育成する仕組みを社会に実装していくことが、これからの企業経営には絶対に必要だと思っています。

先日聞いた話で、会社に数千万円する機械を入れる時には、社長自ら海外の工場に行ってまで検討するのに、採用の面接には入らない社長も多い。一人の採用は、生涯年収を考えれば3億円近い買い物なのに、社長が会いもしないのはおかしいのではないかと、、、。

たしかに、最近では採用は社長マターだと考える企業も増えています。500人を超える企業ともなると全員と会うのは難しいかもしれませんが、「人」を採用して定着させると言うことについては、もっと重視してもいいのではないかと思いますね。

「定着ファースト」は入り口から始まる。データ、再現性、そして「ゆらぎ」

ーーその「定着ファースト」とは、具体的にどのようなアプローチなのでしょうか? 入社後の手厚いケアやフォローアップを充実させるということでしょうか?

小峰:多くの人がそう勘違いするのですが、入社後のメンター制度や心理的安全性の確保といったケアは当然やるべきことの一つに過ぎません。定着ファーストの本質は、実は「入り口」、つまり自社に合った人材を計画的かつ科学的に採用する段階からすでに始まっているんです。

よく例えに出すのですが、地区大会でも勝てないような選手を集めてきて、入社後にいくら手厚い研修をしたからといって、全日本の選手に育成するのは絶対に無理ですよね。研修で伸ばせるスキルには限界があることはもうすでにみんなわかっているんです。穴の空いたバケツにいくら水を入れても無駄なのと同じで、最初の見極めが間違っていれば、人は育ちませんし、すぐに辞めてしまいます。

ーーなるほど、まずは入り口の採用計画が大事なんですね。

小峰:そうです。そのためには【データ】【再現性】【ゆらぎ】という3つの要素が大切になります。

まず、面接官の経験や勘に頼った属人的な採用ではなく、データドリブンで求める人物像(ペルソナ)を明確にします。経営層候補となるハイエンド層を狙うのか、それとも実務をきっちり担ってくれる定着率の高い高専・専門学校のミドル層を狙うのか。最近では、成長のためにあえて厳しい環境を求める「セルフブラック層」という学生もいます。

まずどの層を採用するかをしっかりと定めておき、面接の方法、質問項目、受け答えなど、すべてデータ化しておきます。どういう狙いで採用して、どういう採用をしたのかが全てデータとして蓄積されていくので、その人が辞めてしまった時や、数年後の状況を見て、振り返ることができるようになる。つまり再現性が生まれるんです。

「サビたポンコツエンジン」が化ける瞬間。

ーー3つ目の要素である「ゆらぎ」とは何でしょうか。データドリブンとは真逆の言葉のように感じますが。

小峰:すべてをデータでガチガチに固めるのが正解かというと、そうではありません。そこで重要になるのが「ゆらぎ」です。人間の熱意や本質、多様性を受け入れる余白のことですね。

さきほど、研修で伸ばせるスキルには限界があると言いましたが、でも中には採用活動だけでは見抜くのが難しい秘めたポテンシャルを持った学生もいます。人間の成長は決して直線的ではなく、ある日突然化ける非直線的なものです。僕はこういうタイプを「錆びたポンコツエンジン」と呼んでいます。

ーーサビたポンコツエンジン、ですか。それは具体的にどういうことでしょうか。

小峰:以前、高専の学生を採用した時の話です。彼は入学した時は2000ccのピカピカのエンジンだったはずなのに、高専生活の中で何らかの理由ですっかりサビついてしまい、卒業間近の12月になっても就職が決まっていなかったんです。
学科長から相談を受けて面接してみたら、態度はふてぶてしいし、スキル的にも全然できない。社内の人事からは「なんであんな問題児を取るんだ!」と猛反対されました。でも、私は彼の中にポテンシャルを感じたんです。「環境を変えれば必ずサビが取れて化ける。変わった採用枠だから私に任せてくれ」と押し切って採用しました。

ーーそこまでして採用したその学生は、入社後どうなったんですか。

小峰:そういう人材というのは、最初の1年目はなかなか活躍できないんですよ。でもね、彼らは「誰にも拾われなかった自分を見出し、チャンスをくれた会社」に対して、強烈な「恩義」を感じているんです。だから、ちょっとやそっとの壁にぶつかっても、絶対に会社を辞めない。
結果として、彼は実務の中で少しずつサビが取れて見事に活躍しだし、入社9年目となる今では、立派に管理職として活躍しています。先日も出張先で彼に再会したんですが、「俺の恩は一生忘れるなよ」と冗談めかして言ったら、「わかってますよ!」と笑っていました。

前社では、多様性の側面も考えて、15%程度はこの「ゆらぎ」枠を取っていました。こういった余白があることで、人に関することを、データだけで進めてしまう危うさを回避していたんだと思います。でもこの「ゆらぎ」採用でとった人材、今でもしっかり活躍しているのがいるので、ちょっと安心してます。

AI時代を生き抜く若者へ。「計画的偶発性理論」とタイパ至上主義への警鐘

ーー最近の学生で言うと、やはりホワイト志向の学生が増えていると思うのですが、その辺りについてはどうお考えですか?

小峰:僕が最近学生たちに必ず言っているのが、「計画的偶発性理論」という考え方です。キャリアの大半は、予期せぬ偶然の出来事によって形成されるという理論なんですが、これからの激動のVUCA時代を生きる若者には、このマインドが絶対に必要だと考えています。
今の若者は、どうしても「タイパ」や「コスパ」ばかりを気にして、目の前の効率だけで物事を判断しがちです。自分の安全な領域から出ようとしない。でも、それでは新しいチャンスには絶対に巡り会えません。

ーー確かに、無駄なことを嫌う傾向は強くなっているかもしれません。

小峰:学生に「ホワイト企業に行きたいか?」と聞けば、みんな一斉に手を挙げます。でも、「じゃあ40歳になった時にどんな生活をしていたい? いくら稼いでいたい?」と聞くと、途端に誰も答えられなくなるんです。

日本のGDPは下がり続け、国力はどんどん落ちている。さらにAIが台頭してくる中で、知識や処理能力では人間に勝ち目はありません。最後に残される唯一の武器は「経験」しかないんです。それなのに、20代のうちから負荷を避けて楽ばかりしていたら、30代、40代になった時にどうやって社会で生き残るつもりなのかと。そう事実を突きつけると、学生たちもハッとして真剣に考え始めます。

ーー経験を積むためには、どう行動すればいいのでしょうか。

小峰:自分が気になるセミナーなどに参加してみよう。だと学生たちはほとんど動きません。だからこそ、「月に何回、セミナーに参加する」とか「月に何回、全く知らないコミュニティに参加してみる」などのような具体的な行動目標(KPI)を立てなさいと伝えています。

一見無駄に思えるような行動や出会いが、後になって思わぬキャリアの扉を開く。タイパを気にして立ち止まるのではなく、とにかく行動を続けていくことでしか偶然のチャンスは生まれないんだということを、知ってほしいですね。

「徳を積む」生き方。見えない縁や運命を味方につける

ーー最後に、小峰さんがそこまで精力的に活動し続ける理由は何でしょうか。仕事をしている中で一番嬉しい瞬間、大切にしていることを教えてください。

小峰:究極的には、関わった人たちの「笑顔を見れた時」が一番嬉しいですね。
私はビジネスにおいては徹底してデータや科学的アプローチを重視していますが、私個人の生き方の根底には、特に何かの宗教とかではないのですが「徳を積む」という価値観があるんです。
こんな僕でも、自分一人の力で生きているわけではなく、家族がいて、周囲の人がいて、自分が活かされている。だからこそ、自分の経験や知識を還元し、世の中に循環させていく。自分が積んだ徳は、巡り巡って必ず後世の子どもたちの役に立つと、どこかで信じてるんです。

ーーちょっと意外な気もしますが。でも腑に落ちるところもありますね。

小峰:実は私、四柱推命や方位学なんかも結構気にするタイプでして(笑)。前職でも、占いができる知人に「今は動きすぎず、柳のようにしていなさい」とアドバイスされて、本当に2年間じっと耐えた時期がありました。

人生にはやっぱり、自分の力だけではどうにもならないこともあります。データや仕組みの構築をしっかりとしつつも、人生においてもどこか「ゆらぎ」のような、余白を持っておく必要はあるのかもしれません。

2026.09.03


サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す