第16回 装飾には意味がある「古代エジプトの文様」
これまで見てきたデザイン史では、時代や社会の変化とともに、デザインがどのように生まれてきたのかをたどってきました。
ここから少し視点を変えて、世界各地に残されている「装飾」や「文様」に目を向けてみましょう。
私たちは模様を見ると、つい「きれいだから描かれている」と考えてしまいます。しかし、古代の装飾には、美しさだけではない意味が込められていました。
その代表的な例が、古代エジプトです。
3000年以上続いた古代エジプト文明
古代エジプト文明は、紀元前3000年頃から約3000年にわたって栄えました。
ピラミッドや神殿、墓、彫刻などには、現在でも多くの文字や文様を見ることができます。それらは単なる飾りではなく、神々への信仰や死後の世界、王の権威など、当時の人々の世界観と深く結びついていました。
つまり古代エジプトの装飾を見ることは、当時の人々が世界をどのように考えていたのかを読み解くことでもあるのです。
絵のように見える「ヒエログリフ」
古代エジプトを象徴するものの一つが、「ヒエログリフ」です。
人間、鳥、動物、植物、道具などが描かれているため、一見すると小さなイラストが並んでいるように見えます。しかし、これは古代エジプトで使用されていた文字体系です。
神殿や墓、石碑、像など、さまざまな場所に刻まれました。
古代エジプトでは、文字は単に情報を記録するものではありませんでした。文字として刻まれた言葉には、その内容を現実のものにする力があるとも考えられていたのです。
文字そのものが、神聖な力を持つ存在だったわけです。
王の名前を囲む「カルトゥーシュ」
ヒエログリフを見ていると、いくつかの文字が細長い楕円形の枠で囲まれていることがあります。これが「カルトゥーシュ」です。
カルトゥーシュは、ファラオなど王族の名前を特別に示すために用いられました。
現代でも、重要な言葉を枠で囲んだり、文字を大きくしたりすることで、他の情報と区別することがあります。カルトゥーシュにも、名前を囲うことによって「これは特別な存在である」と視覚的に示す働きがありました。
文字と装飾が一体となって、その人物の権威を伝えていたのです。
なぜ蓮の花が描かれたのか
古代エジプトの装飾で頻繁に登場する植物が、ロータス(蓮華)とパピルスです。
これらは単に美しい植物だったから選ばれたわけではありません。
古代エジプトの暮らしに欠かすことのできなかったナイル川は、周期的に増水しました。水辺に生える植物が水に沈み、やがて再び姿を現す様子は、人々に生命が繰り返しよみがえる姿を連想させました。
そのためロータスなどの水生植物は、生命や再生、復活と結びついた象徴として、建築や工芸品、壁画などの装飾に繰り返し用いられていきます。
模様は「意味」を伝えるデザインだった
現在、私たちは花柄や幾何学模様を、主に見た目の美しさや好みで選びます。
しかし古代の文様には、「なぜこの形を使うのか」という明確な意味が込められていることが少なくありません。
王の名前を囲めば、特別な存在であることを示す。ロータスを描けば、生命や再生を象徴する。形を見ることで、その背景にある物語や思想まで伝えることができるのです。
これは現代のロゴやシンボルマークにも通じる考え方です。形そのものは単純でも、そこに意味を与えることで、デザインは情報や価値観を伝えることができます。
おわりに
古代エジプトの装飾を見ていると、「模様は単なる飾りではない」ということに気づきます。
ヒエログリフ、カルトゥーシュ、ロータス、パピルス。その一つひとつには、王の権威や神への信仰、生命の再生など、当時の人々が大切にしていた意味が込められていました。
美しいから残っただけではなく、意味があるから繰り返し使われた。
世界の装飾を知る面白さは、形の美しさの向こう側に、その土地で生きた人々の考え方や物語が見えてくるところにあるのです。
【参考資料】
図案や作品画像を含む、より詳しい参考資料については、私が別途まとめている記事でもご紹介しています。
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