デザインを知ると、毎日が少しだけ豊かになるーー第22回 線が絡み合い、物語になる「ケルトの文様」

デザインを知ると、毎日が少しだけ豊かになるーー第22回 線が絡み合い、物語になる「ケルトの文様」

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第22回 線が絡み合い、物語になる「ケルトの文様」

複雑に絡み合いながら、どこまでも続いていく一本の線。動物の身体が植物へ変わり、植物が再び線となって別の形につながっていく。ケルトの装飾には、これまで見てきた幾何学文様や植物文様とはまた違った、不思議な生命感があります。

「ケルト」と聞くと、アイルランドやイギリスを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし古代のケルト系文化は、現在のフランス、ベルギー、ドイツ、オーストリアなど、ヨーロッパ大陸の広い地域にも存在していました。その後、特にアイルランドやブリテン島では、ケルト系の伝統とキリスト教文化が出会うことで、独特な装飾文化が育っていきます。

異なる文化が出会うことで、新しいものが生まれる

キリスト教が広がったからといって、それ以前の文化がすべて消えてしまったわけではありません。古くから伝わる物語や造形、自然観などは、新しい宗教文化と混ざり合いながら別の姿へと変化していきました。

ケルト系の伝承と中世キリスト教文化が複雑に交わりながら発展していった物語の一つに、アーサー王伝説があります。アーサー王や円卓の騎士、聖杯などの物語には、長い時間をかけてさまざまな地域の伝承やキリスト教的な要素が重ねられていきました。

デザインも同じです。ある文化が別の文化と出会ったとき、どちらか一方が完全になくなるとは限りません。異なるものが混ざり合うことで、それまでになかった新しい表現が生まれることがあります。

一本の線がどこまでも続いていく

ケルト文様を代表するものの一つが「組紐文」です。

何本もの紐が上下に交差しながら複雑につながり、始まりと終わりが分からないほど連続していきます。前にご紹介したギリシャのギローシュにも線を絡ませる表現がありましたが、ケルトの装飾では、それがさらに複雑で自由な造形へと発展していきました。

線を途中で切らず、交差させ、折り返し、再びつなげる。非常に単純なルールから、驚くほど複雑な文様が生まれます。

現在でも「ケルト文様」と聞いて、この絡み合う線を思い浮かべる方は多いでしょう。

怪獣が線の中に溶け込んでいく

初期のケルト系装飾には、動物や空想上の生き物と、組紐文を組み合わせた表現も見られます。

面白いのは、動物と模様の境界が次第に分からなくなっていくことです。動物の身体が細長く伸びて線になり、その線が別の動物へつながる。尾や脚が絡み合い、いつの間にか一つの文様になっています。

前にご紹介した古代中国の動物文様にも、動物の姿を分解し、文様の中へ組み込む表現がありました。地域も文化も異なりますが、人間が自然や動物の姿を「模様へ変える」という発想には、不思議な共通点があります。

線が植物へと変わっていく

時代が進むと、ケルトの組紐文には植物的な表現も加わっていきます。

絡み合う線が、まるでつる草のように伸び、葉や植物を思わせる形へ変化する。幾何学的な線と植物文様の境界が曖昧になり、一つの有機的な装飾になっていきました。

これまで世界の文様を見てきた中でも、植物のつるは何度も登場しました。ギリシャの唐草、イスラムのアラベスク、そしてケルトの植物化した組紐文。同じ「伸び続ける線」という発想でも、文化によってまったく違う表情を見せるのが面白いところです。

本そのものが芸術作品になった

ケルト系の装飾文化を語るうえで欠かせないのが、キリスト教の「装飾写本」です。

印刷技術がなかった時代、本は人の手によって一文字ずつ書き写されていました。文字を書くだけでも大変な作業ですが、重要な写本にはさらに美しい装飾が加えられました。

その代表として知られているのが『ケルズの書』です。

文字の周囲を組紐や渦巻、植物、動物などが埋め尽くし、ときには文字そのものが巨大な装飾へと変化しています。文章を「読む」ための本でありながら、ページそのものを「見る」ための作品にもなっているのです。

現代のグラフィックデザインの言葉で考えるなら、文字、イラスト、装飾、レイアウトが一体となったデザインともいえるでしょう。

石の十字架もキャンバスになる

ケルト系キリスト教文化では、教会や石造の十字架にも複雑な装飾が施されました。

十字架の表面を組紐文や渦巻文様などで埋め尽くし、宗教的な象徴と伝統的な装飾を一つにまとめています。

ここでも興味深いのは、「昔からあった文様」と「新しく伝わった宗教」が対立するのではなく、一つのデザインの中で融合していることです。

文化は、古いものから新しいものへ一直線に置き換わっていくわけではありません。過去の形を残しながら、新しい意味を与えることで次の文化が生まれていくのです。

そしてウィリアム・モリスへ

ここで、私たちがデザイン史の最初に出会った人物へ戻ってきます。

第4回でご紹介したウィリアム・モリスです。

中世の美術や工芸を高く評価していたモリスは、植物や曲線が複雑に絡み合う装飾を、自らのテキスタイルや壁紙、書籍などのデザインへ取り入れていきました。その背景には、中世ヨーロッパの写本や装飾、ケルト系の造形文化から受けた影響も見ることができます。

ここで、デザイン史と世界の文様の話が再びつながります。

モリスの植物文様が突然19世紀に生まれたわけではありません。そのずっと前には、中世の装飾があり、さらにその向こうには古代から受け継がれてきた植物文様や組紐文の長い歴史があります。

おわりに

ケルトの文様を見ていると、一本の線が持つ可能性に驚かされます。絡ませる、交差させる、つなげる、植物にする、動物にする。それだけで、線はどこまでも複雑な世界をつくることができます。

そして、その文様はキリスト教文化と出会い、教会や十字架、装飾写本の中で新しい意味を持つようになりました。さらに長い時間を経て、その美しさに魅了されたウィリアム・モリスたちによって、近代のデザインへと受け継がれていきます。

デザインの歴史を知ってから世界の文様を見てみると、以前は別々に見えていたものが、少しずつ一本の線でつながっていきます。

ケルト文様そのもののように、デザインの歴史もまた、さまざまな文化が絡み合いながら現在まで続いているのです。

【参考資料】
図案や作品画像を含む、より詳しい参考資料については、私が別途まとめている記事でもご紹介しています。
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