第19回 受け継ぎ、組み合わせ、広げていく「古代ローマの装飾」
前回ご紹介した古代ギリシャでは、アカンサスやメアンダー、唐草など、後世まで受け継がれるさまざまな文様が発達しました。そのギリシャ文化から大きな影響を受けながら、さらに壮大なスケールで装飾を発展させたのが古代ローマです。
ローマは紀元前753年に建国されたと伝えられ、共和政を経て、紀元前27年にはアウグストゥスの時代を迎えます。やがて広大な領域を支配するローマ帝国へと発展し、建築や美術、そして装飾も各地へ広がっていきました。
ギリシャの美しさを、さらに壮大に
ローマの人々は、ギリシャ文化から多くのものを学びました。建築では柱の形式を取り入れ、装飾ではアカンサスや唐草などの植物文様を受け継いでいます。
しかし、それをそのまま真似しただけではありません。巨大な神殿や公共施設、浴場、邸宅など、建築が大規模で複雑になるにつれて、装飾もより豊かになっていきました。柱、壁、天井、床など、それぞれの場所に合わせて文様を組み合わせ、空間全体を飾るようになったのです。
装飾が帝国とともに広がっていく
ローマ帝国の領域は、ヨーロッパだけでなく、北アフリカや西アジアにまで広がりました。それに伴って、建築技術や美術、装飾の様式も各地へ伝えられていきます。
ここで興味深いのは、デザインが「人と一緒に移動する」ということです。ある地域で生まれた文様が別の文化へ伝わり、そこで新しいモチーフと出会い、さらに形を変えていく。前回まで見てきた文様の「旅」が、巨大な帝国の中でさらに大きな広がりを見せることになります。
植物の中に人や動物が現れる「グロテスク文」
ローマの装飾には、植物の唐草だけではなく、人間や動物、空想上の生き物などを組み合わせた表現も見られます。曲線的な植物の間から人物が現れたり、人と植物が不思議につながったりするような、現実には存在しない世界です。
こうした古代ローマの装飾は、後世に「グロテスク文」と呼ばれる装飾様式の源流となりました。
現在「グロテスク」という言葉を聞くと、不気味なものや奇怪なものを想像するかもしれません。しかし装飾におけるグロテスクは、単に怖いものを意味するわけではありません。人物、動物、植物、空想的な形などを自由に組み合わせた、奇想に富んだ装飾なのです。
床までデザインされたローマの空間
古代ローマの装飾を考えるうえで、もう一つ忘れてはいけないのが「モザイク」です。小さな石やガラスなどを組み合わせ、床や壁に図像や文様をつくりました。
人物や動物、神話などを描いたものもありますが、幾何学的な形を繰り返したモザイク文様も数多く残されています。正方形、三角形、円、組紐のような線などを規則的に配置することで、大きな床面全体にリズムを生み出しました。
一つひとつの小さな形を組み合わせることで、大きなパターンをつくる。この仕組みは、現在のタイルや壁紙、テキスタイルなどのパターンデザインを考えるうえでも、とても身近なものです。
「組み合わせる」ことで新しいものをつくる
古代ローマの装飾には、それまでの世界で生まれたさまざまな造形が取り込まれています。ギリシャから受け継いだ植物文様、幾何学文様、人や動物のモチーフ、そしてモザイク。それらを建築という大きな空間の中で組み合わせ、より華やかで複雑な装飾へと発展させました。
デザインでは、まったく何もないところから新しいものを生み出すことだけが創造ではありません。過去のものを受け継ぎ、異なるものを組み合わせ、別の目的や場所に合わせてつくり変えることも、大切な創造の方法です。
おわりに
ギリシャから受け継いだ文様を発展させ、人や動物、植物を組み合わせ、建築の壁や天井、床まで装飾する。古代ローマでは、文様は一つの小さな飾りから、空間全体をつくるデザインへと広がっていきました。
そして、ローマ帝国が広がることで、それらの装飾もまた各地へ運ばれていきます。文様は一つの国や時代だけのものではなく、人とともに移動し、別の文化と出会いながら姿を変えていくものです。
世界の装飾をたどっていくと、デザインの歴史とは「新しい形が生まれた歴史」であると同時に、「形が受け継がれ、変化していった歴史」でもあることが見えてきます。
【参考資料】
図案や作品画像を含む、より詳しい参考資料については、私が別途まとめている記事でもご紹介しています。
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