第20回 文様はシルクロードを旅する「古代中国の装飾」
これまでエジプト、メソポタミア、ギリシャ、ローマと、さまざまな地域の装飾を見てきました。ここから舞台を東へ移して、中国の文様を見てみましょう。
中国では紀元前2000年頃には初期王朝の時代を迎え、その後、青銅器文化が大きく発達していきます。そこには西洋とは異なる独特な文様が生まれる一方、時代が進むと東西の文化交流によって、遠く離れた地域の文様も取り入れられていきました。
青銅器を埋め尽くす不思議な文様
古代中国の青銅器を見ると、その表面を隙間なく覆う複雑な文様に驚かされます。入り組んだ幾何学的な線の中に、動物や怪獣を思わせる顔や身体が組み込まれ、どこからが動物で、どこからが模様なのか分からないほど一体化しています。
こうした青銅器は、単なる日用品ではなく、祭祀や儀礼などにも用いられる重要な器物でした。そのため表面に施された動物文様も、単なる飾りではなく、当時の信仰や権威、儀礼などと深く関係していたと考えられています。
正面からこちらを見る「怪獣」の顔
古代中国の青銅器を代表する文様の一つが、「饕餮文(とうてつもん)」です。
左右対称の大きな目や角などが表現され、正面からこちらを見つめる怪獣の顔のように見えます。しかし、その姿が実際に何を表していたのかについては、現在でもさまざまな説があります。
興味深いのは、動物を写実的に描くのではなく、目、角、身体などの特徴を取り出し、幾何学的な線の中へ組み込んでいることです。現実の動物をそのまま描くのではなく、形を分解し、再構成することで、強い印象を持つ文様へと変えているのです。
動物の文様も旅をする
動物を抽象化し、複雑な装飾へと変える表現は、中国だけに見られるものではありません。中央アジアの騎馬民族の美術にも、鹿や馬、猛獣などの動物を大胆に変形させた「動物文様」が数多く見られます。
騎馬民族は広大なユーラシア大陸を移動し、さまざまな地域の文化と接触しました。人が移動すれば、道具や技術だけでなく、そこに描かれた文様も一緒に移動します。
東から西へ、西から東へ。文様は国境という線を越えながら、異なる文化と出会い、その土地に合わせて姿を変えていったのです。
シルクロードがつないだ東と西
時代が進み、漢から唐にかけて東西の交易が盛んになると、中国の装飾にもさまざまな文化の影響が見られるようになります。
その大きな役割を担ったのが、後に「シルクロード」と呼ばれる東西交易の道です。
シルクロードでは、その名前の通り中国の絹が西方へ運ばれました。しかし、運ばれたのは商品だけではありません。商人や旅人とともに、宗教、技術、音楽、美術、そして文様も行き来しました。
シルクロードは、物を運ぶ道であると同時に、デザインを運ぶ道でもあったのです。
ギリシャの唐草が中国へ
ここで、以前ご紹介したギリシャの装飾を思い出してみましょう。
植物のつるが連続して伸びていく「唐草」の源流となる植物文様は、古代地中海世界で発達し、その後さまざまな地域へ広がっていきました。その植物文様も、長い文化交流の中で東方へ伝わっていきます。
もちろん、ギリシャの文様がそのままの姿で中国まで運ばれたわけではありません。途中には西アジアや中央アジアなど多くの文化があり、それぞれの土地で新しい植物や花のモチーフと結びつきながら、少しずつ姿を変えていきました。
そして中国に入った植物文様は、さらに中国独自の美意識と結びつき、新しい装飾へと発展していきます。
そして文様は日本へ
その旅は、中国で終わりませんでした。
中国で発展した文化や文様は、朝鮮半島などを経由しながら日本にも伝わります。特に奈良時代には、大陸との交流を通じてさまざまな工芸品や文様が日本へもたらされました。
奈良の正倉院に残されている染織品や工芸品を見ると、日本、中国だけでなく、中央アジアや西アジアなどにつながるさまざまな文化の影響を感じることができます。
現在では「日本の伝統文様」と感じるものの中にも、はるか遠くの土地にルーツを持ち、長い時間をかけて日本へたどり着いたものがあるのです。
おわりに
古代中国の青銅器に刻まれた動物文様。そしてシルクロードを通じて東へ伝わってきた植物文様。一つの地域の装飾を見ているだけでも、その背景には驚くほど広い世界がつながっています。
文様にはパスポートも国境もありません。人が移動し、物が運ばれ、文化が交流するたびに、形もまた旅を続けてきました。
ギリシャで見た植物文様をたどっていくと、遠く離れた中国へ、そして奈良時代の日本へとつながっていく。
世界の文様を知ることは、一つの模様を見ることではありません。その小さな形が、いつ、どこで生まれ、どのような人々の手を渡りながら現在までやってきたのか。その長い旅を知ることでもあるのです。
【参考資料】
図案や作品画像を含む、より詳しい参考資料については、私が別途まとめている記事でもご紹介しています。
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