デザインを知ると、毎日が少しだけ豊かになるーー第17回 絵から記号へ、植物から文様へ「メソポタミアの装飾」

デザインを知ると、毎日が少しだけ豊かになるーー第17回 絵から記号へ、植物から文様へ「メソポタミアの装飾」

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第17回 絵から記号へ、植物から文様へ「メソポタミアの装飾」

前回ご紹介した古代エジプトでは、ヒエログリフやロータス文様など、文字や植物にさまざまな意味が込められていました。

同じ頃、エジプトから東へ離れた地域でも、世界最古級の文明が発展していました。

現在のイラク周辺、チグリス川とユーフラテス川の流域に栄えた「メソポタミア文明」です。

二つの大河から生まれた文明

メソポタミアでは、紀元前3000年頃には都市文明が大きく発展していました。

「メソポタミア」という言葉には、「二つの川の間の土地」という意味があります。その二つの川が、チグリス川とユーフラテス川です。

豊かな水は農業を支え、都市や国家を発展させました。シュメール、バビロニア、アッシリアなど、時代によってさまざまな国家や文化がこの地域に登場します。

そして、都市や社会が複雑になれば、物の数や取引、税、法律などを記録する必要も生まれます。

そこで重要な役割を果たしたのが「文字」でした。

絵だった文字が、記号になっていく

古代エジプトのヒエログリフを見ると、人や鳥、植物など、何が描かれているのか比較的想像しやすいものがあります。

一方、メソポタミアで発達したのが「楔形文字(くさびがたもじ)」です。「クネイフォルム」とも呼ばれます。

粘土板に葦などでつくられた筆記具を押しつけて書いたため、文字は小さな楔を組み合わせたような形になりました。

初期の文字には具体的な物の姿を表したものもありましたが、長い時間をかけて次第に単純化され、抽象的な記号へと変化していきます。

絵を描くことから、情報を伝えるための記号へ。

これは、文字の歴史だけでなく、デザインを考えるうえでも興味深い変化です。

「単純にする」ことで伝えやすくなる

私たちの身の回りにも、現実の形を単純化した記号がたくさんあります。

駅や空港のピクトグラム、道路標識、スマートフォンのアイコンなどがそうです。人物や物を写実的に描かなくても、特徴だけを残せば意味を伝えることができます。

形から余分な情報を取り除き、必要な特徴だけを残す。これは現代のグラフィックデザインでも重要な考え方です。

数千年前の楔形文字とスマートフォンのアイコンは、もちろん目的も仕組みも異なります。それでも、「形を整理して情報を伝える」という視点で眺めてみると、意外な共通点が見えてきます。

植物も、文様へと変化する

メソポタミア周辺で見られる装飾の中には、植物をもとにした文様もあります。

その代表的なものの一つが「パルメット」です。

パルメットは、ヤシの葉などを思わせる植物文様です。中央から左右へ葉が広がり、全体として扇形や半円形のような形をつくります。

名前のもとになった「パーム」には、ヤシという意味があります。大きく広がったヤシの葉は、まるで手のひらを開いたようにも見えます。

しかし、文様として使われるときには、実際の植物をそのまま描くのではありません。葉の形は整理され、左右対称に配置され、装飾として美しく見える形へと変化していきました。

自然の形を「デザイン」する

ここにも、デザインを考える大切なヒントがあります。

植物を見たまま描けば、それは写実的な表現になります。しかし、特徴を取り出し、単純化し、左右対称に整え、繰り返し使える形にすると「文様」になります。

自然の形を観察し、その特徴を残しながら別の形へ変換する。

つまり文様とは、自然をそのまま写したものではなく、人間が自然を「デザインし直した形」と考えることもできるのです。

文様は国境を越えていく

パルメットの興味深いところは、その後さまざまな地域や時代の装飾へと広がっていったことです。

古代の地中海世界をはじめ、建築、工芸、家具、テキスタイルなど、長い歴史の中で似た植物文様が繰り返し登場します。

もちろん、伝わる過程で形は少しずつ変化します。

ある地域で生まれた形が別の文化へ伝わり、そこで新しい解釈が加えられ、また次の場所へ伝わっていく。

世界の文様を見ていくと、デザインにも長い「旅」があることが分かります。

おわりに

メソポタミアの楔形文字では、具体的な形から抽象的な記号へと変化していく過程を見ることができます。一方、パルメットでは、植物の姿が整理され、美しい文様へと変化していきました。

一方は「情報を伝えるための記号」、もう一方は「美しさをつくるための文様」です。

目的は違っていても、そこには共通するものがあります。

複雑なものから特徴を見つけ、形を整理し、新しい視覚表現へと変えていく。

何千年も前の人々が行っていたことの中に、現代のデザインにも通じる「形をつくる」という行為の原点を見ることができるのです。

【参考資料】
図案や作品画像を含む、より詳しい参考資料については、私が別途まとめている記事でもご紹介しています。
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