生徒さんが新しい曲に進むときに、いつもその曲を少しだけ弾くことにしています。
曲の雰囲気を伝えてモチベーションを上げたいのと、家で練習するときに困らないように弾きにくい箇所の弾き方を大まかに伝えるためです。
ただ、特定のお子さんには、特に気をつけて弾きすぎないようにしていました。意地悪しているわけではありません(笑) 続きは自分で楽譜を読んでほしいからです。
◆お母さまからの希望
以前、小さい生徒さんが大手のピアノ教室から移ってきました。とても楽しそうにピアノを弾く、リズム感の良い子でした。
一方、お母さまからは「楽譜が読めるようになってほしい」という希望がありました。教室を移ってこられた一番の理由でした。
そこで、まずは楽譜を読む力をつけるために、音が少なめの基礎レベルから取り組むことにしました。
読めなくても体でリズムを取りながら楽しく曲を弾けていた本人としては、
「弾けるのに、なんで簡単な曲からまたやるの?」という気持ちだったと思います。
◆「先生、最後まで弾いて!」
ところが、この子とのレッスンは、なかなか一筋縄ではいきません。
本当にまったく楽譜を見ない。ずっと弾く鍵盤を探していました。そして、新しい曲が出てくると、「先生、最後まで弾いて!」とよく言われました。
耳も頭も良い子なので、私が弾いた音をすぐに覚えてしまいます。音だけではありません。リズムも、曲の雰囲気も覚えてしまう。
そして家に帰ると、それを頼りに「なんとなく」弾いてきます。
もちろん家で弾いてきてくれたことは嬉しいです。でも、そこから細かいところを直そうとすると、「もう弾けてるからいいじゃない」と聞く耳を持ってくれません。
そこで私は、この子の場合、音符の読み方に重点を置いて、曲の雰囲気をすこし伝えるだけに留めました。
「あとは楽譜を見て弾いてきてね。」と、続きはなるべく本人が音符を読んで弾いてくるようにしていました。
◆耳コピが悪い訳ではない
これは、耳を使ってはいけないという話ではありません。
好きな曲を早く弾きたい大人の方なら、耳コピで弾けるのは素晴らしいと思います。「この曲が弾ければいい」という目的なら、それも一つの楽しみ方です。
ただ、「楽譜を読む力をつけたい」のであれば、自分で楽譜を読む経験は必要です。
先生が弾いたものを覚えるのではなく、音符を見て、自分で音にしていく。
その経験を積み重ねることで、少しずつ「楽譜を見たら弾ける」という力が身についていきます。
バイエルは、ただ1曲ずつクリアしていくための教材ではありません。
この先、もっと難しい曲を弾くようになったときに困らないための、基礎を身につける時期でもあります。
だからこそ、できるだけ自分の力で楽譜を読んでほしいと思っています。
◆バトルの日々
ミスを指摘しても、「間違ってない!ちゃんと弾いた!先生うそついてる!」と言われたことも何度もあります。
もう毎回のようにバトルが繰り広げられ、普段は口調を荒げることが皆無な私でも、この小さい生徒さんとは本気で言い合いしていました。
直してくれないことには上達しない。でも間違いを認めてくれない。正直、この子のレッスン日は胃が痛かったです(笑)
私が先生として認めてもらえるまで、1年くらいかかったでしょうか。
それまでは毎回のように言い合いになっていたのに、その頃から少しずつ私の言うことを聞いてくれるようになり、最後には手に頬擦りしてくるほど懐いてくれました。
もともと頭が良く、精神的に大人っぽいところがある子だったので、その後は友達のように仲良くレッスンできる関係になりました。
◆まとめ
耳コピから入って弾けるようになり、後で譜読みを身につけていく。もしかして長い目で見た時に、私が出会わなかっただけで、そういう方法もあるのかもしれません。
でも、少なくとも私が長年みてきた生徒さんの中には、あとから読めるようになった子はほぼ見た事ありません。
例外として、吹奏楽部に入部してト音記号は得意になる子もいましたが。
一度身につけた譜読みの力は、その後もずっと役に立ちます。
読めない=読むたびにストレスを感じる、のは、子供も大人も同じです。
「先生が弾いてくれたら弾ける」ではなく、「楽譜を見たら、自分で弾ける」
私は、そんな力を身につけてほしいと思っています。