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コラム
大事件なのに、なぜか乾いている ―コーエン兄弟の映画から学んだ、聴くということ。
記事
コラム
原田 せん
2026/08/30 06:36
映画好きな私が、
10~20年近く前に観た中でも
ずっと頭から離れない監督がいます。
ジョエル&イーサンのコーエン兄弟
です。
これまで
「ファーゴ」
「バートン・フィンク」
「ミラーズクロッシング」
「ビッグ・リボウスキ」
「バーンアフターリーディング」
「ノーカントリー」
「トゥルーグリット」
と観てきましたが、
中でも特に好きなのが
「
ファーゴ
」「
ノーカントリー
」「
トゥルーグリット
」
の3本です。
この3本に共通しているのは、
誘拐、殺人、復讐といった、
ものすごく深刻な出来事が起きているのに、
なぜか画面全体がどこか乾いていて、
シュールで、
皮肉めいた空気をまとっているところ。
この温度差に、
最初はずっと戸惑っていました。
怖いのか、おかしいのか、悲しいのか。
感情の置き場が分からないまま、
気づけば画面に釘付けになっていたんです。
深刻さと乾いた空気が同居する不思議
「ファーゴ」は、
雪に覆われたミネソタの田舎町が舞台です。
人々はやたらと礼儀正しく、
「オゥ、そうかい」
「悪いね」
と柔らかい言葉を交わし合う。
なのに、
その裏側では誘拐や殺人が淡々と進んでいく。
捜査するマージ・ガンダーソン署長は、
妊娠中のお腹を抱えながら、
いつも通りの調子で
「そうですか」「なるほどね」と相槌を打ち続けます。
取り乱すことも、声を荒げることもない。
その「普通さ」が、
逆に事件の異様さを際立たせていました。
「ノーカントリー」では、
殺し屋アントン・シガーが、
コイントスで人の生死を決めるという、
あまりに理不尽なルールを持ち込んできます。
彼にとってそれは冷酷さというより、
もはや自然現象のようなもの。
追う立場の保安官ベルは、
事件を解決するというより、
自分の理解が追いつかない世界の変化そのものに、
疲れと諦めのようなものを滲ませていきます。
派手などんでん返しもなく、
物語はふっと途切れるように終わる。
あの余韻の乾き方が、
私は忘れられません。
「トゥルーグリット」は、
父を殺された少女マティが、
粗野な保安官とともに復讐の旅に出る物語ですが、
登場人物たちがやたらと古めかしく、
堅苦しい言葉づかいで話すのが印象的でした。
銃撃戦や過酷な旅の最中でも、
まるで社交の場のような丁寧な言い回しが飛び交う。
その落差がおかしみを生みながら、
同時に、
少女の芯の強さと孤独を
くっきり浮かび上がらせていました。
「乾いたトーン」の奥にあるもの
チャットレディとして、
そして今は
電話でのご相談をお受けする仕事をしている中で、
私はこの「深刻さと乾いた空気の同居」を、
実際の会話の中でも何度も経験してきました。
「大丈夫です」
「別に、たいしたことじゃないんですけどね」
「ちょっと聞いてほしいだけで」
そう淡々とした調子で話し始める方の奥に、
実はぐちゃぐちゃに絡まった感情が渦巻いていることは、
決して珍しくありません。
むしろ、
本当に深刻な話ほど、
抑揚のない、
どこか他人事のような語り口で
語られることの方が多い気がしています。
コーエン兄弟の映画に出てくる登場人物たちが、
大事件の真っ只中でも礼儀正しく、
あるいは
どこか他人事のような口調を崩さないのと、
どこか重なるものがあるんです。
だから聴く側に必要なのは、
その「乾いたトーン」を字面通りに受け取って、
深刻さまで一緒に見過ごしてしまわないことだと思っています。
マージ署長のように穏やかな相槌を打ちながらも、
その奥で
何が起きているのかをちゃんと見ようとする姿勢。
それが傾聴という仕事の核なんじゃないかと、
この3本を観るたびに思わされます。
コントロールできないものを、そのまま聴く
「ノーカントリー」の
コイントスのシーンが象徴的なように、
コーエン兄弟の映画には
「理不尽さはコントロールできない」という感覚が、
ずっと通奏低音のように流れています。
保安官ベルも、
事件をすべて解決できるわけではなく、
ただ疲れながらも、
自分の理解が及ばない現実を受け止めていくしかない。
これは、
傾聴の仕事にも通じるものがあると感じています。
相談を受けていて、
私がすべての答えを持っているわけでは決してありません。
その方が抱えている理不尽さや、
コントロールできない状況そのものを、
無理に解決しようとせず、
まずはそのまま受け止める。
きれいに解決してあげることよりも、
その人の混沌を混沌のまま、
否定せずに聴くことの方が、
ずっと大事な場面が多いんです。
「普通」の奥を聴く仕事でありたい
コーエン兄弟の映画は、
笑っていいのか、
怖がっていいのか
分からない瞬間がたくさんあります。
でもその分からなさこそが、
人間らしさそのものなんじゃないかと思うんです。
感情は
いつもきれいに一つに整理されているわけじゃなくて、
可笑しさと
悲しさと
理不尽さが同時に存在していることの方が、
実はふつうのことなのかもしれません。
私がお受けしているご相談も、きっとそうです。
「大丈夫です」の奥にある本当の気持ちを、
急いで整理したり、
無理やり答えを出したりせずに、
そのままの形で聴かせていただきたい。
コーエン兄弟の映画に出会うたびに、
そんな自分の仕事のスタンスを、
あらためて確認させられている気がしています。
もしあなたの中にも、
誰にも言えずに
乾いた言葉の奥にしまってある気持ちがあれば、
ぜひ聴かせてください。
答えを急がず、
その理不尽さごと、
受け止めたいと思っています。
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#コーエン兄弟
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#ひきこもり
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