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コラム
「言えないこと」のそばにいる、という仕事 ー西川美和監督作品と傾聴。
記事
コラム
原田 せん
2026/08/19 00:39
こんばんは、原田です★
今日も少し、
映画のお話をさせてください。
私が長年好きな監督の一人に、
西川美和さんという方がいます。
「蛇イチゴ」
「ゆれる」
「夢売るふたり」
「永い言い訳」
「すばらしき世界」
「ディア・ドクター」
…どれも派手な事件が起きるわけではないのに、
観終わったあと、
じわっと胸の奥が重くなる。
そんな作品ばかりを撮ってこられた監督です。
「高湿低温」の作風
西川監督の作品って、
いつも家族や夫婦、兄弟といった
「一番近い関係」を描いています。
でも決して、
あたたかい絆の物語ではないんです。
むしろ逆。
近すぎるからこそ言えないこと、
分かり合えているつもりで実は何も知らなかったこと、
そういう「いやーな部分」を、
じっとりと湿度高く、
でも温度は低く、
淡々と映し出していく。
私はこの感覚を、
勝手に「高湿低温」と呼んでいます。
「ゆれる」
では、
兄弟のあいだにずっと横たわっていた小さな疑心が、
ある事件をきっかけに
取り返しのつかないほど大きくなっていきます。
「永い言い訳」
では、
うまくいっていないように見えていた夫婦が、
実は誰よりもお互いを分かっていなかったことに、
妻を亡くしてから気づかされる。
家族だから、
近いから、
分かり合えているはず。
そう思い込んでいるだけで、
実は誰も本当のことを言えていなかったんじゃないか。
西川監督の作品は、
いつもそこを静かに突いてきます。
「蛇イチゴ」で、うわあ、となった話
実は私、
西川監督の作品を一通り観たあと、
最後に
「蛇イチゴ」
に辿り着きました。
デビュー作なのに、
これが一番刺さってしまったんです。
物語の中で、
家族みんなが「普通の家族」を必死に取り繕っています。
見栄と嘘を重ねながら、
なんとか体裁を保とうとする。
そんな中で、
ずっと厄介者扱いされていた兄だけが、
実は家族の中でいちばん嘘をついていなかった。
これに気づいた瞬間、
「うわあ…」って声が出ました。
"ちゃんとしている"側にいるはずの人たちが
一番嘘をついていて、
"困った人"
扱いされていた人が一番正直だった。
この逆転が、
ただの意外性のあるオチとしてではなく、
「私たちが"普通"や"ちゃんとしている"
と思っているものの正体って何なんだろう」
…という問いとして、
ずしんと残るんです。
お仕事でお話を聴いていても、
似たようなことをよく感じます。
「普通に見える人」
「うまくいっているように見える人」ほど、
実は誰にも言えない無理を重ねていたりする。
逆に、
周りから「変わってる」「扱いづらい」
と思われがちな方の話の方が、
驚くほどまっすぐで、嘘がないことがある。
「蛇イチゴ」を観てから、
私は"普通そうに見えること"を、
あまり鵜呑みにしなくなった気がします。
近すぎると、言えない
これって、
実は私がお仕事の中で日々感じていることと、
すごく近いんです。
たくさんの方のお話を聴いてきた
その中で気づいたのは、
「一番近い人にこそ、一番言えないことがある」
ということ。
家族には心配をかけたくないから言えない。
パートナーには、幻滅されたくないから言えない。
職場の同僚には、弱みを見せたくないから言えない。
でも、見ず知らずの私にだったら。
利害関係もなく、
これから先も生活を共にするわけでもない、
ただ
「聴くこと」だけが役割の相手になら、
ぽろっと本音がこぼれ落ちることがあるんです。
「近いから話せない」の裏側には、
「少し離れているから話せる」がある。
西川監督の映画が、
家族という一番近い関係の
"言えなさ"を描くのだとしたら、
私の仕事はその逆側、
「少し離れた場所だからこそ生まれる本音」
に立ち会う仕事なのかもしれません。
「ディア・ドクター」が教えてくれたこと
もう一作、
どうしても触れておきたいのが
「ディア・ドクター」
です。
笑福亭鶴瓶さん演じる主人公は、
実は医師免許を持たない"偽医者"。
それでも彼は、
過疎の村でたった一人の頼れる存在として、
長年住民たちに慕われ続けていました。
観ていて考えさせられたのは、
「本物であること」と
「必要とされ続けること」は、
必ずしもイコールではないということです。
資格や肩書きがあるかどうかより、
その人がそこにいてくれることで、
誰かが救われているという事実の方が、時には重い。
村の人たちにとって、
彼が"本物の医師"かどうかなんて、
正直どうでもよかったのかもしれません。
ただ、話を聴いてくれる、
寄り添ってくれる、
そのことが何より大事だった。
私自身、
専門的な資格を持った
心理士やカウンセラーではありません。
それでも、
電話の向こうで
「話せてよかった」
「少し楽になった」
…と言っていただけることがあります。
「ディア・ドクター」を観るたびに、
資格の有無より先に、
ただそこにいて
聴き続けることの意味を考えさせられます。
おわりに
西川美和監督の作品は、
決して後味のいい映画ばかりではありません。
むしろ観終わった後、
しばらく
言葉にならないモヤモヤが残ることの方が多いです。
でも私は、
そのモヤモヤこそが
「人と人との関係の本当のところ」
なんじゃないかと思っています。
きれいごとだけでは片付かない、
でも確かにそこにある感情。
それを丁寧にすくい上げる西川監督の視線が、
私はずっと好きです。
そして、
10月16日には
新作「わたしの知らない子どもたち」が公開されます。
戦後の日本に実在した
"知られなかった子どもたち"
…をモチーフにした作品だそうで、
今からとても楽しみにしています。
もしよかったら、
一度、西川監督の作品を観てみてください…。
そして、
誰にも言えずに抱えていることがあれば、
そんな時はぜひ、
私にお話を聴かせてくださいね(^^)
#映画オタク
#うつ病
#発達障害
#引きこもり
#西川美和
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