2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策が事業主の義務になります。
見落とされやすいのですが、この義務化には中小企業の猶予期間がありません。労働者を1人でも雇っていれば対象で、パート・アルバイトだけの事業所も含まれます。「大企業が先行して、中小は数年後」という段階施行ではない点が、これまでのハラスメント法制と違うところです。
準備に使えるのは、実質8月と9月だけです。今回は、実務で何を用意すればいいかを整理します。
求められるのは5つ、核心は1つ
指針で求められる措置は、方針の明確化と周知、相談体制の整備、相談への適切な対応と記録、被害を受けた従業員への配慮、再発防止の5つです。
ただ、これらを実務に落とすと、ほぼすべてが同じ一点に集約されます。
「やったことを、後から示せるか」です。
方針を作っても、周知した記録がなければ「周知していない」と見なされかねません。相談に丁寧に対応しても、記録がなければ後から説明できません。逆に言えば、記録の仕組みさえ先に作ってしまえば、日々の運用は「起きたら書く」だけになります。
用意するもの1:対応記録の様式
難しい様式は要りません。1件につき、次の6項目が残る形にしてください。
- いつ(発生日時と、対応した日時)
- どこで・誰が(場面と、対応した従業員)
- 何があったか(相手の言動)
- どう対応したか(その場の対応、上長への報告)
- その後の措置(被害を受けた方への配慮、再発防止で決めたこと)
- 誰が確認したか(責任者の確認欄)
このうち、いちばん書き方に迷うのが3つ目の「何があったか」です。
事実と評価を分けて書く
記録が後から使えなくなる原因の多くは、事実と書き手の評価が混ざってしまうことです。
「ひどいことを言われた」と書いても、後から読む人には何が起きたのか分かりません。「◯◯という言葉を、約40分にわたって繰り返した」と書けば、読んだ人が同じ場面を思い浮かべられます。
コツは、その場を見ていない人が読んで、状況を再現できるかで判断することです。感情を書かないという意味ではなく、感情は「本人が涙ぐんでいた」のように観察できる事実として書く、ということです。
この考え方は介護記録や事故報告書とまったく同じで、業種を問わず使えます。
用意するもの2:周知した日付が残る形
方針を作ったら、従業員に周知します。ここで大事なのは、周知した日付が後から証明できることです。
朝礼で説明したなら、その日付と参加者を記録します。掲示するなら、日付が写る形で写真を撮ります。メールで配信するなら、送信記録かスクリーンショットを残します。そして「その保存場所」まで書いておくと、後から探す手間が消えます。
紙のファイルに綴じるだけだと、数か月後に「あの写真どこだっけ」になりがちです。日付つきで一覧に積み上がる形にしておくのがおすすめです。
用意するもの3:研修をやった記録
研修は、長時間である必要はありません。15分でも、実施した記録が残っていることのほうが重要です。
内容も複雑にしなくて大丈夫です。「我慢しなくていい」「一人で対応しない」「事実を記録する」。この3つが伝われば、現場は動きます。そのうえで、実施日・内容・受講者を残します。
東京都の事業者の方へ(注意点があります)
東京都には、カスハラ対策に取り組む都内中小企業向けの奨励金制度があります。
ただ、ここは誤解されやすいところです。この制度はマニュアルの作成・周知に加えて、「実践的な取組」を1つ以上実施することを求めています。挙げられているのは、録音・録画環境の整備、AIを活用したシステム等の導入、外部人材の活用の3つです。
つまり、マニュアルやシートを整えるだけでは要件を満たしません。申請をお考えの場合は、この3つのいずれかを別途ご用意ください。要件・様式・日程は年度と回次で変わりますので、東京しごと財団の最新の募集要項をご確認いただくことをおすすめします。
記録キットも出品しています
上記の対応記録台帳・周知証跡・研修受講記録を、Googleスプレッドシートで動く形にまとめたキットを、ダウンロード商品として出品しています。行を書くと記録IDと日時が自動で付き、必須項目に沿った方針・マニュアルの下書きも生成できます。データは購入者ご自身のGoogleアカウント内だけに保存され、こちらに送信されることはありません。
10月1日は締切ではなく、運用の始まりです。夏のうちに、記録の形だけでも決めておければ秋が軽くなります。ご質問はお気軽にメッセージでどうぞ。