治療と仕事の両立支援、努力義務化への備え

治療と仕事の両立支援、努力義務化への備え

記事
コラム
2026年4月から、会社にひとつ、新しい宿題が加わりました。「治療と仕事の両立支援」への取り組みが、事業主の努力義務になったのです。

がんや脳卒中、心疾患、糖尿病といった病気は、いまや「働きながら治す」時代です。医療の進歩で、治療を続けながら仕事を続けられる人が増えました。だからこそ、会社の受け止め方が問われます。今日は、経営・人事の立場で「何を整えておけばよいか」を、制度をつくる目線で整理します。

■1. そもそも「両立支援」とは何か
反復・継続して治療が必要な病気(がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝疾患、難病など)を抱えながら働く社員が、治療と仕事を無理なく両立できるよう、会社が就業上の配慮をすること。厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(令和6年3月版)」が、実務の道しるべになっています。休職・復職の話と地続きですが、「休ませる」だけでなく「働き続けられるように支える」のが両立支援の考え方です。

■2. 2026年4月、努力義務になった
労働施策総合推進法が改正され、「治療と就業の両立を促進するため必要な措置を講じる」ことが、事業主の努力義務として定められました(公布2025年6月11日/施行2026年4月1日)。今後、国が定める「指針」も整備されていきます。

努力義務なので、罰則があるわけではありません。ですが、社員が病気になったとき「うちには何の備えもなかった」では、これからは通りにくくなります。そもそも会社には、社員の健康に配慮する安全配慮義務(労働契約法)があります。両立支援は、その延長線上にある取り組みだと考えると、位置づけが見えてきます。

■3. 進め方の基本は「トライアングル型」
両立支援は、会社が単独で判断するものではありません。次の3者で進めるのが基本形です。

・本人:まず主治医に、自分の仕事内容や勤務状況を伝える
・主治医:就業を続けられるか、どんな配慮が必要かを「意見書」で示す
・会社:主治医の意見をふまえ、産業医など専門家の意見も聴いたうえで、就業上の措置(短時間勤務・時差出勤・配置の工夫など)を決めて実施する

この流れを支える「両立支援プラン」を作り、必要に応じて見直していきます。ガイドラインには、勤務情報を主治医に提供する様式例や、主治医の意見を求める様式例、両立支援プランの作成例まで、実務で使える様式例集がついています(令和6年3月版では、労働者が自ら主治医に勤務情報を提供し、それに基づき主治医が就業上の意見を示すための様式例も加わりました)。ゼロから作る必要はありません。会社が「診断」や「治療の判断」に踏み込むことはありません。そこは医療の領域。会社の役割は、あくまで「働き方の調整」です。

■4. 会社が先に整えておく3つのこと
実際に社員から相談が来てから慌てないために、平時に用意しておきたいのは、次の3点です。

1. 相談の入口:誰に、どう申し出ればいいのか。窓口と手順を決めておく。
2. 情報の扱い方:病気の情報はとてもデリケートです。本人の同意を得て、必要な人だけが、必要な範囲で扱う——このルールを先に決めておく。
3. 選べる働き方のメニュー:短時間勤務、時差出勤、在宅、業務の一部変更など、「打てる手」を一覧にしておく。選択肢があるほど、現場で柔軟に対応できます。

この3つがあるだけで、いざというときの対応がまるで変わります。

■5. 「休職・復職」とワンセットで設計する
両立支援は、単独の制度として浮いていると機能しません。休職に入るときの手続き、復職支援のプログラム、そして働きながら治療する両立支援——これらは一本の線でつながっています。どこかだけを整えても、つなぎ目で人がこぼれ落ちる。だから私は、いつも「入口から復帰まで」を通しで設計することをおすすめしています。

私は管理部門ひとすじで30年、経理も労務も同じ部屋で見てきました。数字を締める側と、体調を崩した社員と面談する側。その両方に立ってきたので、「制度としての正しさ」と「現場での使いやすさ」を、同時に見るようにしています。両立支援は、就業規則の一文だけでは動きません。運用まで含めて初めて、社員の安心につながります。

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「うちも何か備えたほうがいいのは分かるけれど、何から手をつければ…」。そう感じたら、まずは頭の整理からで大丈夫です。自社の状況に合わせて、相談窓口の作り方、情報の扱い方のルール、働き方メニューの棚卸し——このあたりを一緒に考えるお手伝いができます。制度の「たたき台」づくりや、管理職向けの考え方の共有まで、壁打ち相手としてお使いください。

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