2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)への防止措置が事業主の義務になります。改正労働施策総合推進法によるもので、従業員が1人でも対象です。パート・アルバイトだけの職場も含まれます。
「うちみたいな小さい会社も?」と思われるかもしれませんが、規模による除外はありません。一方で、求められていることはそれほど多くありません。この記事では、専任の総務担当がいない会社が、合計2時間程度で最低限を形にする手順を整理します。
義務の中身は「3本柱」だけ
求められることは、次の3つに集約されます。
1. 方針の明確化と周知 何を許さないか、会社がどう動くかを文書にし、全従業員に配布または掲示する
2. 相談体制の整備 相談窓口を決めて、従業員に知らせる
3. 事後の適切な対応 相談を受けたら記録し、事実を確認し、再発防止の措置をとる
この3つです。立派なマニュアルを作ることでも、外部の研修を受けることでもありません。
いちばん誤解されているのは「記録」です
義務を果たしたかどうかは、「作ったか」ではなく「周知し、その記録があるか」で判断されます。
方針文を作っただけ、窓口を決めただけでは足りません。配った日付、掲示した場所、説明した日と出席者。これらが残っていて初めて「対応している」と言えます。
逆に言えば、A4一枚の方針文でも、配布記録が残っていれば形になります。ここを飛ばして立派な文書を作り込むのは、順番が逆です。
まずやる3つ
1.方針文を1枚作り、代表者名で確定して全従業員に配る
方針文は難しい言い回しは不要です。次の4要素が入っていれば成立します。
・何を許さないか(暴言、脅迫、土下座や金銭の要求、長時間の拘束、SNS等での中傷など)
・会社がどうするか(担当を交代する/対応を打ち切る/必要に応じ警察・弁護士に相談する)
・従業員をどう守るか(相談したことを理由に不利益な取り扱いはしない、と明記する)
・相談先(社内窓口と社外窓口の両方を書く)
配ったら、日付と対象者を記録に残してください。
2.相談窓口を社内1名+社外1つ決めて、従業員に知らせる
窓口を1つしか置かないと、その担当者自身が問題の当事者だったときに機能しません。小さな会社ほど、この落とし穴にはまります。
社外窓口は、新たに契約する必要はありません。各都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」(無料・予約不要)や、厚生労働省委託の「ハラスメント悩み相談室」(電話・無料・匿名可)を「案内先」として明示するだけでも形になります。
3.相談を受けたときの記録様式を用意して、現場に置く
いつ・どこで・誰が・何をして・どう対応したか。この5つが書ければ十分です。エクセルでも紙でも構いません。
大切なのは、事が起きてから様式を考えないことです。現場に置いてあることに意味があります。
やりがちな失敗3つ
「相談は直属の上司へ」とだけ書く。上司が問題の相手であるケースは多く、これでは相談が上がってきません。上司を飛ばして相談できる経路を必ず用意してください。
「とりあえず様子を見よう」。放置は最も多い失敗です。措置がすぐに決まらなくても、「いつまでに何をするか」を伝えるだけで、相談者の受け止め方は変わります。
記録を残さない。「言った・言わない」になると、行政も弁護士も動きにくくなります。受付票を1枚残すだけで大きく違います。
2時間の割り振り
・方針文を自社用に書き換えて確定する 30分
・お客様向けの掲示を1枚用意して貼る 5分
・記録様式を印刷して現場に置く 10分
・判断フローを1枚にまとめて事務室に貼る 5分
・30分の朝礼または説明会で全員に説明し、実施日を記録する 30分
・窓口担当と管理職が手順を読み合わせる 40分
合わせて2時間ほどです。10月1日まで、まだ間に合います。
最後に
制度・法令は改正される可能性があります。運用開始前に厚生労働省および所轄労働局の最新情報をご確認ください。本記事は制度の概要を整理したものであり、個別の法的助言ではありません。就業規則への位置づけは社会保険労務士に、個別の紛争対応は弁護士にご相談ください。
なお、この記事で触れた方針文・対応マニュアル・記録シート・研修スライド・掲示ポスター・判断フローは、そのまま書き換えて使える形の7点セットにまとめて、出品しています。「自分たちで作る時間がない」という場合はご覧ください。障害福祉サービス事業所様には、専用の追加資料もご用意しています。