障害福祉サービスのカスハラ対策|障害特性による言動との線引きをどう決めるか

障害福祉サービスのカスハラ対策|障害特性による言動との線引きをどう決めるか

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法律・税務・士業全般
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)への防止措置が、すべての事業主の義務になります。改正労働施策総合推進法によるもので、従業員が1人でも対象です。障害福祉サービス事業所も、当然この対象に含まれます。
ただ、一般の店舗や会社向けに作られたカスハラ対策の雛形を、そのまま障害福祉の現場に持ち込むことはできません。理由ははっきりしていて、行為者が「お客様」ではなく「支援の対象者」である場合があるからです。
この記事では、障害福祉サービス事業所が10月までに決めておくべき「線引き」の考え方を整理します。

なぜ障害福祉だけ、線引きが難しいのか

理由は三つあります。
一つ目は、行為者が支援の対象でもあること。一般の店舗なら「対応をお断りする」で終わる場面でも、障害福祉サービスでは支援を続けることが前提にあります。切り離せません。
二つ目は、特性に起因する言動が多いこと。大声、強いこだわり、繰り返しの要求、パニックに伴う他害。これらは意図的な攻撃ではなく、特性や環境要因から生じている場合があります。まとめて「カスハラ」の枠に入れて排除してしまうと、本来やるべき支援の見直しが止まります。
三つ目は、線を引くこと自体への不安。「断ったら合理的配慮の不提供になるのでは」という迷いが、職員を我慢させる方向に働きます。実務ではここが一番のブレーキになります。
なお、合理的配慮は「要求の中身」に関するものです。要求の伝え方や手段が社会通念を超えている場合、それを制止することは配慮の不提供にはあたりません。中身は検討する、手段は制止する。この二つを分けて考えると判断が進みます。

まず「誰の言動か」で分ける

分類の入口は、行為者が誰かです。ここを分けずに考えると、必ず混乱します。
・利用者ご本人/原則としてカスハラとして扱わず、まず支援課題として検討する。使う枠組みは個別支援計画・アセスメント・虐待防止委員会
・ご家族・保護者/一般のカスハラと同じ物差しで判断してよい。使う枠組みはカスハラ対策方針・相談窓口
・成年後見人等/同上。ただし代理権の範囲を確認する必要がある
・相談支援専門員・他事業所/管理者間の調整を基本とする
・実習生・見学者・来訪者/一般のカスハラと同じ
ご本人以外は、一般の事業所と同じ考え方で対応できます。難しいのは、ご本人の言動をどう扱うかに絞られます。

ご本人の言動は、三つに分ける

A・B・Cの三つに切り分けます。
A:支援課題(特性・環境に起因する)
意図的な攻撃ではなく、特性や環境の変化から生じている言動です。感覚過敏、見通しが立たない不安、言葉で表現できない不快さが行動に出ているケース。動かす仕組みは、個別支援計画の見直しとアセスメントの再実施。対応の主体はサービス管理責任者と支援チームです。
B:カスハラ(意図的で、手段が社会通念を超えている)
特性で説明がつかず、要求を通す手段として社会通念上の範囲を超えている言動です。特定の職員を狙って繰り返し人格を否定する、要求を通すために職員の私物や身体に危害を加える、「役所に言う」「SNSに書く」と繰り返し圧をかける、といった形をとります。動かす仕組みは、カスハラ相談窓口への報告と、対応範囲の明示。対応の主体は窓口担当と管理者です。
C:併存(背景に特性があるが、手段が超えている)
実務でいちばん多いのがここです。どちらか一方に決めようとすると、必ず行き詰まります。支援計画の見直しと、職員の安全確保を両方進めてください。「背景に特性がある」ことと「職員を守らなくていい」ことは、まったく別の話です。この二つを混ぜると、どちらも中途半端になります。

判断の五ステップ

現場でその場で使える順番にすると、こうなります。
1. 安全が先。身体的な危険が及んでいるなら、分類より先に距離を取る、他の職員を呼ぶ、場所を変える、必要なら110番。この段階で分類を考える必要はありません。
2. ご本人か、それ以外か。ご本人以外なら、カスハラ対策方針とフローにそのまま乗せます。
3. これまでのアセスメントで説明がつくか。つくならA。つかないならステップ4へ。
4. 要求を通す手段が、社会通念上の範囲を超えているか。超えていなければA。超えていればBまたはCです。
5. 同じ言動が繰り返され、複数の職員に向けられているか。はいならB寄り。カスハラ窓口に上げ、対応範囲を明示します。いいえならC。支援計画の見直しを軸にしつつ、記録を残します。
大事なのは、その場で正解を出さないことです。これは「あとで検討できる形に整理する」ためのステップにすぎません。分類を間違えても、記録さえ残っていればサービス管理責任者や委員会で修正できます。記録がなければ修正できません。

絶対にやってはいけないこと二つ

一つ目は、カスハラを理由にサービス提供を打ち切ること。
障害福祉サービスの運営基準では、正当な理由のないサービス提供の拒否が禁じられています。一般の店舗向けの方針文には「対応をお断りする場合がございます」という一文がよく入っていますが、これをそのまま持ち込むと基準に抵触しかねません。
サービスの中止や変更が避けられない場合に備えるなら、あらかじめ契約書・重要事項説明書にその前提を記載しておき、実際に判断する段階では所轄の指定権者に相談してください。
二つ目は、「カスハラ対応だから」と記録を残さないこと。
障害者虐待防止法では、虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに市町村へ通報する義務を負います。「確定してから」ではなく、疑いの段階で発生する義務です。通報したことを理由に、その職員が解雇その他の不利益な取扱いを受けることもありません。
カスハラ対応の名のもとに職員の行為が強くなり、それが記録に残っていないという状態は、事業所にとって最も危険です。分類がAでもBでもCでも、書くことは同じです。いつ・どこで・誰が・何をして・どう対応したか。

既存の体制と、どう役割を分けるか

多くの事業所には、すでに苦情解決体制(苦情受付担当者・苦情解決責任者・第三者委員)と虐待防止委員会があります。ここにカスハラ窓口を足すと、三つになります。新しく委員会を作る必要はありません。決めるのは、どの事案をどこに上げるかだけです。
・A(支援課題)/第一報はサービス管理責任者へ。支援会議・個別支援計画の見直しで扱う
・B(カスハラ)/第一報はカスハラ相談窓口担当者へ。管理者が検討し、必要に応じて法人・外部窓口へ
・C(併存)/サービス管理責任者とカスハラ窓口の両方へ。支援会議と職員の安全確保の検討を並行して進める
・職員に怪我が及んだ場合/管理者へ即時。労災対応を含む。虐待の可能性があれば虐待防止委員会にも情報共有
・職員から利用者への不適切な対応が疑われる場合/管理者・虐待防止責任者へ即時。あわせて市町村へ通報し、虐待防止委員会で扱う
一点だけ注意があります。職員が相談する窓口は、虐待防止委員会とは別に置いてください。委員会に管理者や内部の職員が入っている場合、職員が自分のことを話す場としては使いにくくなります。相談が上がってこない窓口は、あってもないのと同じです。

掲示物は、一般向けのものが使えない

玄関や相談室に掲示するポスターも、一般向けのものをそのまま使うことはできません。理由は前述のとおりで、「対応をお断りする場合があります」という表現が、提供拒否の禁止と衝突するためです。
障害福祉サービスで掲示するなら、次の三つを1枚にまとめるのが現実的です。
・ご意見・ご要望の窓口(苦情受付担当者・苦情解決責任者・第三者委員・市町村窓口・運営適正化委員会)
・職員が安心して働ける環境づくりへのご協力のお願い
・ご意見をいただいたことを理由に、サービスの提供をお断りすることはない、という明示
三つ目を入れることで、一つ目と二つ目が両立します。運営基準で求められる苦情受付窓口の掲示も兼ねられます。

10月までにやる三つ

長い準備は要りません。最低限これだけです。
1. 方針文を1枚作り、代表者名で確定して全職員に配る。配った日付と対象者を記録に残してください。この記録が、義務を果たした証拠になります。
2. 相談窓口を社内1名+社外1つ決めて、職員に知らせる。社外は、各都道府県労働局の総合労働相談コーナーを「案内先」として明示するだけでも形になります。
3. A・B・Cの分類と、上げ先の一覧を決めて紙にする。決めるのに30分、使うのは何年もです。
義務を果たしたかどうかは、「作ったか」ではなく「周知し、その記録があるか」で判断されます。3つ目まで進んだら、1つ目の記録に戻ってください。ここだけは飛ばさないでほしいところです。

※本記事は制度の概要を整理したものであり、個別の法的助言ではありません。個別支援計画の作成・変更、虐待防止委員会の運営、指定基準の解釈については所轄の指定権者(都道府県・市町村)に、就業規則への位置づけは社会保険労務士に、個別の紛争対応は弁護士にご相談ください。制度・法令は改正される可能性があります。運用開始前に厚生労働省および所轄労働局の最新情報をご確認ください。

この記事で整理した判断基準と対応フロー、役割整理表は、出品中の「2026年10月施行|カスハラ対策7点を納品します」の障害福祉向けオプションに、そのまま記入できる形で収録しています。就労継続支援B型の事業所様への納品実績があります。
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