「もう辞めたい」と思った職員が、それでも続ける施設とは?

「もう辞めたい」と思った職員が、それでも続ける施設とは?

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学び
― 介護のやりがいと、辞める職場・続ける職場の違いを考える ―

介護の仕事をしていると、
「もう辞めたい」
と思うことがあります。
人が足りない。
休憩も十分に取れない。
職員同士でうまくいかない。
一生懸命対応しても、家族から厳しい言葉を受ける。
事故が起きれば、
「自分の対応はこれでよかったのか」
と考えることもあります。
それでも翌日になれば、また出勤する。
いつもの入居者から、
「今日はあんたがいるんだね」
と言われる。
なかなか食事が進まなかった方が、自分が声をかけると少し食べてくれる。
ご家族から、
「ここに来てから表情が穏やかになりました」
と言ってもらえる。
そんなことがあると、
「大変だけど、もう少しやってみようかな」
と思うことがあります。
介護を長くしている人なら、似たような経験があるかもしれません。
では、同じように「辞めたい」と思っても、続ける人と、本当に辞めていく人がいます。
その違いは何なのでしょうか。

「介護を辞めたい」のか、「この施設を辞めたい」のか

仕事を辞めたくなる理由には、介護も他の仕事とそれほど変わらない部分があります。
給与に納得できない。
仕事量が多い。
人間関係がうまくいかない。
上司に相談しても聞いてもらえない。
頑張っても評価されない。
この先ここで働いている自分を想像できない。
こうしたことは、介護だけの問題ではありません。
日本の高齢者施設で働く直接介護職6,428人を対象にした研究では、現在の施設を辞めたいという意向には、仕事の要求度が高いこと、自分の能力や技能を生かしにくいこと、上司との関係などが関連していました。サイエンスダイレクト
だから職員が辞めるたびに、
「介護は大変な仕事だから仕方ない」
で終わらせてしまうと、見えなくなるものがあります。
介護を辞めたいのか。
それとも、この施設を辞めたいのか。
ここは分けて考えた方がよいと思います。
実際、現場では、
「介護は好きなんです。でも、ここではもう続けられません」
という言葉を聞くことがあります。
もしそうであれば、施設側に考えられることがまだ残っています。

介護には、「辞めたいのに離れにくい」理由もある

一方、介護には少し特徴的なところもあります。
辞めようと思ったときに、入居者の顔が浮かぶことです。
「あの方は大丈夫かな」
「最近やっと関係ができてきたのに」
「自分が辞めたら、残った職員が大変になるな」
もちろん、ほかの仕事でも顧客や同僚との関係はあります。
ただ介護では、同じ人の生活に毎日関わります。
食事を手伝う。
排泄を支える。
入浴を介助する。
眠れない夜にはそばにいる。
認知症のある方なら、何度も関わる中で少しずつ安心してもらえることもあります。
そうしてできた関係は、単純に「仕事だから」と切り離しにくいものがあります。
2025年の介護職の離職意向に関する統合レビューでも、職場環境やリーダーシップ、仕事への満足などとともに、入居者とのつながりが関連する要因の一つとして整理されています。PubMed
ここに、介護という仕事の難しさと、やりがいの両方があるように思います。

「この人の役に立てた」は、やはり大きい

介護の仕事の成果は、数字だけでは見えにくいものです。
拒否の強かった方が、今日は入浴できた。
落ち着かなかった方が、自分と話しているうちに穏やかになった。
食事が進まなかった方が、少し食べてくれた。
家族が安心した表情で帰っていった。
大きな出来事ではありません。
でも、その一つ一つに、
「自分の関わりが、この人の生活に少し役立った」
と感じる瞬間があります。
給料とは違うところで、これが介護を続ける理由になることがあります。
だから、「介護のやりがい」は、単なるきれいごとではないと思います。
実際に現場にあるものです。
ただし、ここで一つ分けて考えておきたいことがあります。

やりがいと我慢は、同じではない

「利用者さんのためだから」
「人がいないから」
「みんな頑張っているから」
そう思って、無理をしてしまうことがあります。
本当は限界なのに、
「あの方を置いて辞められない」
と思っているのであれば、それを「やりがい」と呼んでよいのかは考える必要があります。
施設側も、
「介護はやりがいのある仕事だから」
という言葉だけで、職員に頑張ってもらうわけにはいきません。
給与や勤務条件も大切です。
休めることも必要です。
人間関係や上司との関係もあります。
そして、困ったときに助けてもらえることも必要です。
やりがいは、待遇や職場環境の代わりにはならない。
ここは大切にしたいところです。

「もう無理です」と言った後に何が起きるか

同じように忙しい施設でも、職員が続くところと、次々辞めていくところがあります。
その違いは、大きな制度だけではないのかもしれません。
たとえば職員が、
「最近、本当にきついです」
と言ったとします。
「みんな大変だから」
で終わるのか。
それとも、
「何が一番きつい?」
と聞いてもらえるのか。
事故が起きたとき、
「なんでこんなことをしたの?」
と責められるのか。
「何が重なって起きたんだろう」
と一緒に振り返ってもらえるのか。
改善案を出したとき、
「昔からこうだから」
で終わるのか。
「それなら一度試してみようか」
と言ってもらえるのか。
一回だけなら、小さな違いかもしれません。
でも、それが毎日のように積み重なると、
「ここでは何を言っても無駄だ」
になるのか、
「困ったときは相談できる」
になるのか。
その違いは大きくなります。

給料だけでも、やりがいだけでもない

もちろん給与は大切です。
生活がありますから、そこを「やりがい」で補うことはできません。
ただ、介護職の離職意向を扱った研究を見ても、関係しているのは一つの要因だけではありません。
2025年のレビューでは、個人要因だけでなく、仕事・組織要因、さらに社会・政策・環境に関する要因まで整理され、仕事への満足、キャリア形成、職場環境、リーダーシップ、エンパワメント、入居者とのつながりなどが挙げられています。PubMed
ナーシングホームの看護師を対象とした別のシステマティックレビューでも、離職意向には個人的要因と組織的要因の双方があり、その中でも仕事満足度が重要な要因として報告されています。PubMed
だから、
「何があれば職員は辞めないのか」
という一つの答えを探すより、
「この職員は、何がつらくて辞めようとしているのか」
を見る方が大切なのだと思います。

「辞めたい」と言われたとき、まず引き止める前に

管理する立場では、職員から、
「辞めようと思っています」
と言われると焦ります。
一人辞めれば勤務表が組みにくくなる。
夜勤が足りなくなる。
また採用しなければならない。
残った職員の負担も増える。
そうなると、まず、
「何とか残ってもらえないか」
と考えます。
でも、その前に聞いてみたいことがあります。
「何が一番つらかった?」
です。
勤務なのか。
人間関係なのか。
上司との関係なのか。
介護そのものに自信をなくしたのか。
頑張っても何も変わらないと感じたのか。
家庭など、職場とは別の事情なのか。
ここが分からなければ、引き止めても同じことが繰り返されます。
そして、すべての退職を止める必要もありません。
その人にとっては、環境を変える方がよい場合もあります。
大切なのは、
「辞めさせないこと」ではなく、「働き続けられる職場になっているか」を見ること。
なのだと思います。

職員が変わることは、入居者の生活が変わることでもある

介護施設では、職員の退職は人事だけの問題ではありません。
昨日まで毎日いた職員がいなくなる。
また新しい職員が入る。
声のかけ方が変わる。
介助の仕方が変わる。
その人のことをよく知っていた職員がいなくなれば、新しい職員はまた関係をつくっていくことになります。
米国の13,826のナーシングホームを対象とした研究では、同一施設内でも職員の入れ替わりが多い時期ほど、検査時の指摘や複数のケア品質指標の悪化と関連していました。これは観察研究なので「離職が直接ケア悪化を引き起こした」とまでは言えませんが、職員の定着とケアの質を考えるうえで参考になる結果です。ジャーナルオブアメリカンメディカルアソシエーション
そして忘れたくないのは、
施設は職員にとっては「職場」ですが、
入居者にとっては「生活の場」
だということです。
職員の入れ替わりは、入居者にとって毎日の生活環境の変化でもあります。
だからこそ、職員が長く働けることには意味があります。

「辞めたいと思わない施設」でなくてもいい

介護は楽な仕事ではありません。
人を相手にする仕事ですから、思った通りにならないこともたくさんあります。
「今日はもう嫌だ」
と思う日があっても不思議ではありません。
だから目指すのは、
誰も「辞めたい」と思わない施設
ではないのだと思います。
「もう無理です」
と言ったときに、
「みんな大変だから」
ではなく、
「どうした?」
と聞いてくれる人がいる。
失敗したときに、責めるだけではなく、一緒に考えてくれる。
頑張ったことを見てもらえる。
休むときには休める。
そして、ときどき、
「この仕事をやっていてよかったな」
と思える瞬間がある。
そんなことの積み重ねが、
「もう少し、ここで働いてみよう」
につながるのではないでしょうか。
介護のやりがいを、職員を引き止めるための言葉にはしない。
でも、介護だからこそ感じられるやりがいも大切にする。
そして、入居者を支える職員自身も支える。
職員が長く働ける施設とは、特別なことをしている施設というより、
大変なときに、一人にしない施設なのかもしれません。

参考文献・参考資料
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・O'Keefe B, Yuen E, Dow B, et al. Understanding Factors Influencing Personal Care Workers Intentions to Leave: A Systematic Integrative Review. The Gerontologist. 2025;65(5):gnaf055. doi:10.1093/geront/gnaf055. PubMed
・Shen K, McGarry BE, Gandhi AD. Health Care Staff Turnover and Quality of Care at Nursing Homes. JAMA Internal Medicine. 2023;183(11):1247–1254. doi:10.1001/jamainternmed.2023.5225. ジャーナルオブアメリカンメディカルアソシエーション
・Lee J. Nursing home nurses' turnover intention: A systematic review. Nursing Open. 2022;9(1):22–29. doi:10.1002/nop2.1051. PubMed
※離職に関する研究の多くは、離職意向や離職と職場要因との「関連」を調べたものです。特定の条件によって必ず辞める・辞めないという因果関係を示すものではありません。また、海外研究は日本とは制度や労働環境が異なるため、介護施設を考えるための参考として使用しています。
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