認知症なら「仕方ない」、認知症でなければ「わがまま」?

認知症なら「仕方ない」、認知症でなければ「わがまま」?

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学び
介護現場で起こる“見方の違い”

介護施設で働いていると、時々こんな場面に出会います。

認知症のあるAさんが、

「今日はお風呂に入りたくない」

と言いました。

職員は、

「今日はそんな気分じゃないのかな」
「何か不安があるのかな」
「少し時間を置いてみようか」

と考えます。

一方、認知症の診断がないBさんが同じように、

「今日はお風呂に入りたくない」

と言ったとします。

すると、

「またBさんのわがままが始まった」
「自分の好きなことばかり言う」

そんな言葉が出てしまうことがあります。

もちろん、すべての介護現場がそうだという話ではありません。

でも私は、この違いが以前から気になっています。

同じ「入りたくない」という意思表示なのに、なぜ私たちの受け止め方が変わるのでしょうか。

■ 認知症という「理由」があると、背景を探そうとする

認知症のある方が介助を拒否した時、私たちは研修などで、

「なぜ拒否しているのだろう?」

と考えるよう学びます。

認知症によって説明が十分伝わっていないのかもしれない。

何をされるのか分からず怖いのかもしれない。

過去の記憶や生活習慣が関係しているのかもしれない。

あるいは、痛み、疲労、眠気、羞恥心、周囲の騒がしさなどが影響しているかもしれません。

つまり、

「その行動には何か理由があるのではないか」

と考えます。

これは認知症ケアにとって、とても大切な視点です。

ところが、認知症ではない方の場合はどうでしょう。

「ちゃんと分かっているはず」

「説明すれば理解できるはず」

という前提があるため、職員の提案を受け入れないと、

「分かっているのに言うことを聞かない」

と感じやすくなります。

すると行動の理由を探す前に、

「頑固な人」

「要求が多い人」

「わがままな人」

という、その人自身への評価に変わってしまうことがあります。

■ 「わがまま」という言葉で、理由探しが終わってしまう

ここで一番注意したいのは、

「わがまま」という言葉を使った瞬間に、その行動の理由を考えなくなってしまうことです。

たとえば、

「今日は食べたくない」

という言葉にも、

食欲がない。
口の中が痛い。
料理が好みではない。
気分が落ち込んでいる。
今は食べる気分ではない。
自分で食べる時間を決めたい。

いろいろな可能性があります。

これは認知症がある人だけの話ではありません。

私たち自身も、

「今日は食べたくない」

「今はお風呂に入りたくない」

「一人でいたい」

と思う日があります。

ところが施設という集団生活の中では、

食事時間、入浴時間、職員配置、業務の流れがあります。

そのため本人の希望と施設側の都合がぶつかった時、

いつの間にか、

「施設の予定どおりに動かない人=困った人」

になってしまうことがあります。

ここは介護する側が一度振り返ってみてもよいところだと思います。

■ 認知症があるから「本人の意思が弱くなる」わけではない

ここにはもう一つ、大切な視点があります。

厚生労働省の「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)」では、認知症の人についても、本人が意思決定しながら尊厳をもって暮らすことを重視しています。

本人の意思を支援者側の価値観だけで評価するのではなく、本人が表明した意思を確認し、必要に応じて表情や言葉以外の反応、生活歴や価値観なども手がかりにすることが示されています。

つまり、

認知症があるから職員が決める

のではありません。

むしろ、

どうすれば本人が理解し、選び、自分の意思を伝えやすくなるのかを考える。

これが支援になります。

そして、この考え方を少し広げてみると面白いことに気づきます。

■ 認知症ケアで学んだ視点を、すべての利用者さんへ

認知症ケアでは、

「行動には理由がある」

「否定せず、まず気持ちを受け止める」

「本人の立場から考える」

「伝わりやすい方法を探す」

ということを学びます。

では、この視点を認知症のない方にも向けてみたらどうでしょう。

「わがままだから」ではなく、

「この人は、なぜそう言っているのだろう?」

「頑固だから」ではなく、

「この人にとって何が大切なのだろう?」

「言うことを聞かない」ではなく、

「こちらの都合を押しつけていないだろうか?」

見える景色が少し変わってきます。

認知症のある方への対応を厳しくしよう、という話ではありません。

逆です。

認知症ケアで大切にしている「理由を考える」という視点を、認知症のない方にも向けてみる。

それだけです。

■ ただし、何でも本人の希望どおりにするという意味ではない

もちろん、

「本人が嫌だと言ったから、すべてそのままでいい」

ということでもありません。

転倒や生命に関わる危険がある場合、健康状態への重大な影響が予想される場合など、専門職として対応しなければならない場面があります。

厚生労働省のガイドラインでも、本人の意思を尊重しながら、理解できるよう説明することや、意思形成・意思表明・意思実現を支援するプロセスが示されています。

大切なのは、

「本人の希望」か「職員の判断」かの二択にしないこと。

なぜ嫌なのか。

何なら受け入れられるのか。

時間を変えられないか。

方法を変えられないか。

もう一度分かりやすく説明したらどうか。

その間を一緒に探すことも、介護の専門性だと思います。

■ 「伝えた」のに伝わらないこともある

そして、認知症ケアではもう一つ考える必要があります。

職員が、

「ちゃんと説明しました」

と思っていても、本人には十分伝わっていない場合があります。

認知症では、記憶だけでなく、注意、言葉の理解、判断などさまざまな認知機能が影響を受けることがあります。

そのため、

一度にたくさん説明する。

急いで返事を求める。

遠くから声をかける。

「それ」「あっち」など曖昧な表現を使う。

こうした何気ない声かけが、本人にとって理解しにくい場合があります。

だから私は、

「言ったか」ではなく、「伝わったか」

を見ることが大切だと思っています。

本人が理解しにくかったことを、

「言うことを聞かない」

「拒否が強い」

と評価してしまえば、本当の原因から離れてしまいます。

■ 明日から一つだけ変えるなら

利用者さんから何かを拒否された時、

すぐに、

「認知症だから」

「頑固だから」

「わがままだから」

と理由を決める前に、

一度だけ、

「なぜ、この人はそう言っているのだろう?」

と考えてみる。

そしてもう一つ、

「私の声かけは、本当にこの人に伝わっていただろうか?」

と振り返ってみる。

この二つだけでも、利用者さんの見え方は変わるかもしれません。

認知症がある人も、ない人も、

「介護される人」である前に、一人の人です。

その人の言葉の奥にある理由を考えること。

私はそこから、良いケアが始まるのではないかと思います。

関連する職員研修資料

今回の記事で触れた、

「言った」ではなく「伝わったか」を考えること

を、実際の介護場面で職員と一緒に学べる研修資料を作成しています。

30分でできる認知症ケア研修③|伝わる声かけ

認知症によって、なぜ言葉が伝わりにくくなるのかを整理し、「一度に一つ」「短く具体的に」「反応を待つ」などの具体的な声かけを、事例ワーク・確認テストとともに学べる内容です。

関連する職員研修資料はこちら|30分でできる認知症ケア研修③「伝わる声かけ」



参考文献

・厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)」
・厚生労働省「認知症施策推進基本計画」
・厚生労働省「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」

厚生労働省「認知症施策関連ガイドライン」




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