「さっきも言ったのに…」
介護現場で働いていると、こんな経験はないでしょうか。
「今日のお昼は何?」
「12時ですよ」
少しすると、また、
「今日のお昼は何時?」
答えた直後なのに、同じ質問が繰り返される。
最初は穏やかに答えていても、忙しい時間帯に何度も続くと、
「さっきも説明したのに…」
そんな気持ちになることがあります。
そして、その後で、
「こんなことでイライラするなんて、介護職としてダメなのかな」
と自分を責めてしまう人もいます。
でも、私はまず、イライラしたという感情そのものを否定しなくてもいいと思っています。
大切なのは、その感情を利用者さんにぶつけることではなく、
「なぜ利用者さんは繰り返すのか」
「なぜ自分はイライラしたのか」
この両方を考えてみることです。
なぜ同じことを繰り返すのでしょうか
認知症、特にアルツハイマー型認知症では、新しい出来事を覚え、保持し、後から思い出すことが難しくなることがあります。
研究でも、認知症にみられる反復質問にはエピソード記憶の障害などが関係していることが指摘されています。
つまり、
職員:「さっき説明した」
利用者さん:「説明されたこと自体が残っていない」
ということが起こります。
職員にとっては「5回目の質問」。
でも利用者さんにとっては、その都度「初めて聞いている質問」なのかもしれません。
ここに、職員と利用者さんの認識のズレが生まれます。
でも、分かっていてもイライラする
ここが介護の難しいところです。
「認知症だから仕方ない」
頭では理解していても、忙しい勤務中に同じ質問が何度も続けば、疲れたり、余裕がなくなったりすることがあります。
認知症介護では、介護する側の心理的ストレスや負担が大きな問題になることも多くの研究で報告されています。
ですから、
「イライラしてはいけない」
だけで終わらせてしまうと、今度は職員自身が苦しくなります。
必要なのは、感情をなくすことではなく、
「あ、自分はいま余裕がなくなっているな」
と気づくことではないでしょうか。
「また聞かれた」から「安心したいのかな」へ
例えば、
「ご飯は何時?」
と何度も聞く利用者さん。
質問そのものだけを見ると、
「また同じ質問だ」
となります。
でも少し視点を変えて、
「お腹が空いているのかな」
「時間が分からなくて不安なのかな」
「次に何が起こるか確認して安心したいのかな」
と考えてみます。
反復質問には、記憶だけでなく注意の問題や、その人を取り巻く状況など、さまざまな要因が関係する可能性があります。
すると、
「質問を止める」ことよりも「安心できる方法を探す」
というケアに変わってきます。
明日からできる小さな工夫
例えば、
「昼食12時」
と本人から見える場所に書いておく。
予定表や時計を一緒に確認する。
長い説明ではなく、短く分かりやすく伝える。
質問されたら、まず
「気になりますよね」
と気持ちを受け止めてから答える。
そして職員自身も、
「今日はちょっと余裕がない」
と思ったら、可能であれば他の職員に少し代わってもらう。
一人で抱え込まず、
「○○さん、今日は同じ質問が多いね。何か不安があるのかな」
とチームで共有する。
利用者さんだけでなく、職員にも余裕を作ることが、結果として良いケアにつながると思います。
イライラする自分も、利用者さんも責めない
認知症ケアでは、
「利用者さんに優しくしましょう」
という言葉をよく聞きます。
もちろん大切です。
でも、私はそれだけでは十分ではないと思っています。
利用者さんの行動には背景があります。
同時に、職員の感情にも背景があります。
だから、
利用者さんを責めない。
職員も責めない。
「どうしてこうなったのだろう?」
と一緒に考える。
その積み重ねが、利用者さんにとっても職員にとっても、少し過ごしやすい介護現場につながるのではないでしょうか。
ケアのよりどころ
介護現場で起こる「あるある」を、経験だけで終わらせず、心理学・科学・介護の視点から一緒に考えていきます。
参考にした考え方・文献
今回は、前回よりも本文と直接対応する文献に絞りましょう。
① Hamdy RC, et al. (2018)
Repetitive Questioning Exasperates Caregivers.
Gerontology & Geriatric Medicine, 4.
→ 認知症における反復質問、記憶障害、介護者への影響について。
② Gilhooly KJ, et al. (2016)
A meta-review of stress, coping and interventions in dementia and dementia caregiving.
BMC Geriatrics, 16, 106.
→ 認知症介護におけるストレスと対処についてのメタレビュー。
③ Tu JY, et al. (2022)
Caregiver Burden and Dementia: A Systematic Review of Self-Report Instruments.
Journal of Alzheimer's Disease, 86(4), 1527–1543.
→ 認知症介護における介護負担についての系統的レビュー。