介護施設の防災、「人が足りない」を前提に計画を作り直す6つの視点

介護施設の防災、「人が足りない」を前提に計画を作り直す6つの視点

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皆様、こんにちは。スマート危機管理コンサルティングの久保です。

介護施設の管理者の方からご相談をいただくとき、ほぼ必ず出てくる言葉があります。

「防災が大事なのは分かっています。でも、今の人数では正直そこまで手が回りません」

日々のシフトを埋めることで精一杯。訓練の日程を組もうにも、現場を抜けられる職員がいない。分厚い消防計画は数年前に作ったきりで、書かれている担当者はもう退職している——。

この記事では、人員不足を前提にした消防計画・防災マニュアルの作り方をご紹介します。あわせて、「計画の見直しだけでは人手不足は解決しない」という当たり前のことも、正直に書いておきます。

1. 人員不足は、防災体制のどこに効いてくるのか

人が足りない施設で起きていることを整理すると、だいたい次の5つに集約されます。

・訓練が形式化する……年2回の法定訓練を「実施したことにする」記録だけが残る
・マニュアルが読まれない……100ページの計画書を、夜勤帯の職員が火災時に開くことはない
・想定が日勤帯前提……計画上は10名で動く手順なのに、現実の夜間は2名
・更新が負担になる……異動・退職のたびに氏名を書き換える作業が発生し、結局放置される
・管理者に後ろめたさが残る……「不備を分かっていながら手をつけられていない」という感覚

最後の項目が、実は一番重いのではないかと感じています。責任者として、事故が起きたときに説明できる状態にないという不安。これは人員配置表を眺めていても解消しません。

2. 発想の転換:「人がいる前提の計画」から「今の人数で回る計画」へ

多くの消防計画は、ひな形をベースに「あるべき体制」を書いて作られています。自衛消防組織に通報連絡班・初期消火班・避難誘導班・搬出班……と並び、それぞれに担当者名が入る。

しかし、夜間2名の施設に4つの班は存在しません。存在しない体制を書いた計画は、いざというとき役に立たないだけでなく、実態と乖離した書類を抱え続けるリスクにもなります。

省力化のポイントは3つです。

1. 重複をなくす(同じ情報を何度も書かない・更新しない)
2. 判断を減らす(現場で考える場面をあらかじめ潰しておく)
3. 探す時間をなくす(必要な情報を1枚に集約する)

3. 具体的な改善ポイント6つ

① 消防計画・避難確保計画・BCPを一本化する

介護施設には、性格の異なる3つの計画が課せられています。消防計画(消防法)、避難確保計画(水防法・土砂災害防止法)、そしてBCP(介護報酬上の義務)。

これらを別々に作ると、入所者名簿・緊急連絡網・備蓄品一覧・地域の協力先が三重管理になります。1か所変更があるたび、3冊を開いて直す。当然、続きません。

共通部分を一本化し、提出先ごとに必要な編だけを抜き出せる構成にしておく。これだけで更新作業は3分の1になります。提出先が消防署長・市町村長・保険者と分かれるため、「編」を分けて、それぞれ単独で提出可能な形に整えるのがコツです。

② 「氏名」ではなく「役割」で分担を書く

「○○太郎——通報連絡担当」と書くから、退職のたびに改訂が必要になります。

「その時間帯の責任者が通報を行う」「入居者に最も近い位置にいる職員が初期対応を行う」——このように機能で記述すれば、人事異動があっても計画は生き続けます。兼務を前提に、一人が複数の役割を担う設計にしておくことも重要です。

③ 「最少人数」を設計の基準にする

日勤帯を基準に作った手順を夜間に流用するのではなく、逆にします。

まず夜間・休日の最少人数で成立する手順を作る。それを標準版とし、日勤帯は「人手に余裕がある応用版」と位置づける。こうすると、最も危険な時間帯に最も具体的な手順が用意されることになります。

④ 現場用は「A4・1枚」のアクションカードに

分厚い計画書は、法令上の根拠と体制を示す書類として保管しておけばよいものです。現場に必要なのは、発災後5分でやることだけを時系列で並べた1枚。

チェックボックス形式にして、通報・初期消火・避難誘導の順で並べる。各フロアの防災設備の位置と入居者の避難優先順位(自力歩行可/要介助/要担送)を裏面に。これがナースステーションの壁に貼ってあるかどうかで、初動は変わります。

⑤ 訓練を「15分×複数回」に分解する

全職員を一度に集める訓練は、人員不足の施設では実施困難です。

法定回数を満たす全体訓練は年2回として、それとは別にシフト単位・15分の部分訓練を組み込む。「今日は通報訓練だけ」「今日は夜勤2名で避難誘導の動線確認だけ」。記録様式も1枚にして、その場で書いて終わり。

積み上げれば、全職員が年間を通じて全項目を経験することになります。一度に集まらなくても、訓練は成立します。

⑥ 更新作業を「年1回・30分」に圧縮する

変わる情報(職員名簿、緊急連絡先、備蓄品リスト、入居者の避難区分)を、すべて巻末の別表に集約します。本文には別表を参照させるだけ。

年1回、別表だけを差し替える。この設計にしておけば、計画の維持管理は30分の作業になります。

4. ただし——マニュアルの改善だけで人員不足は解決しません

ここは正直に書いておきます。

省力化された計画は「限られた人数で被害を最小化する」ためのものであって、人手そのものを生み出すものではありません。夜勤2名で入居者50名を垂直避難させるという物理的な壁は、紙の上では越えられません。

ですので、計画の整備は次の取り組みと必ずセットで進めてください。

・地域・近隣との応援協定……自治会、近隣事業所、消防団、家族会。「誰に何を頼むか」を計画本文に書き込む
・法人内の応援体制……他事業所からの参集ルールと、参集所要時間の実測(想定ではなく実測が重要です)
・家族への事前依頼……安否確認の方法と引き取りの役割分担を、平時に文書で合意しておく
・設備・ICTによる代替……緊急連絡システム・安否確認システム。人手で補っている部分を機械に置き換える
・採用・定着の取り組み……「災害時にどう動くかが明確な職場」であることは、職員の安心につながり、定着要因にもなります

そして重要なのは、整った計画は外部の応援を引き出すための共通言語になるということです。

「いざというとき助けてください」とだけ伝えられても、頼まれた側は何をすればよいか分かりません。「発災時、●●様(車椅子)の搬送を2名でお願いしたい」「参集場所は正面玄関前」——ここまで書かれていて初めて、協定は機能します。

計画づくりは、人手不足の"言い訳"を整えることではなく、足りない人手をどこから調達するかを設計する作業でもあるのです。

5. 進め方の目安(4ステップ)

1. 現状の棚卸し……既存の3計画を並べ、重複箇所と、人員が最も薄くなる時間帯を洗い出す
2. 統合・再構成……共通部分を一本化し、提出先ごとに抜き出せる構成へ
3. 図上での検証……夜間想定でシナリオを流し、手順が成立するか確認する(ここで大半の穴が見つかります)
4. 短時間訓練で運用開始……15分訓練で回しながら、年1回の別表差し替えへ

おわりに

「人が足りない中で、できる範囲を明確にする」ことは、手抜きではありません。曖昧なまま不安を抱え続けるより、対応できる範囲を決め、足りない部分を外部に頼む設計に変える。これは管理者としての責任の果たし方の一つだと考えています。

ご相談について

私は自治体の防災担当として避難確保計画を審査する側の業務と、市立病院でBCP・消防計画を作成する側の業務、その両方に携わってきました。

・「提出したら受理される計画」ではなく、「実際に動ける計画」にしたい
・3つの計画がバラバラで、更新作業が負担になっている
・夜間想定で手順を組み直したいが、進め方が分からない

こうしたご相談に対応しています。現在お使いの計画書を拝見して、統合・省力化の余地がどこにあるかをお示しするところから始められます。まずはお気軽にメッセージをお送りください。

 私の提供するサービスでは、消防法・水防法・厚労省の全法的要件を満たしつつ、各計画に共通する指揮命令系統や避難誘導などを整理し、1つの「総合防災計画」に一本化いたします。 
 迷いのない初動: 見るべきファイルが1つになり、判断の遅れをゼロにします。
 事務負担の半減・属人化防止: 担当者が辞めても、職員の異動や連絡先の変更時、複数のファイルを直す手間が1回で済みます。 

 実効性のある訓練: 統一された計画による、シンプルで実戦的な訓練が可能になります。 
 あの激しい揺れの報道を見て、「うちの計画は形骸化しているかもしれない」と少しでも不安を感じた施設長様。
手遅れになる前に、プロの目による「既存計画の無料健康診断」をご活用ください。

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