第16回【ペイハラ事例】初期対応を検証する〜「最初の⼀⼿」がその後を決める

第16回【ペイハラ事例】初期対応を検証する〜「最初の⼀⼿」がその後を決める

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法律・税務・士業全般
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皆さん、こんにちは。
ペイシェントハラスメントシリーズも⼀区切りつき、8⽉はお休みをいただいておりました。

8月は私も長いシリーズ投稿が完結したことと、夏季休暇を取得できるメインの月ということもあり、少し緩やかな気持ちで9月からのブログ再開に向けて原稿のストックをつくれたらなぁ…と考えていました。

しかし実際には、次々と案件が入ってきて、結局予定していた夏季休暇も取得できず、ブログの原稿もようやく更新予定日の前日にせっせと作成しております。

今回からは長かったペイハラシリーズの話の流れをベースに、テーマごとに検証をしていこうと思います。

そしてブログ再開の初回のテーマは、「初期対応」です。

私はこれまで、医療現場で2,000件以上のクレームやカスタマーハラスメントへの対応に携わってきました。
その中には、最初は⼩さな苦情だったものが、対応を誤ったことで⼤きなトラブルに発展したケースもあれば、逆に、初期段階で適切な対応を⾏ったことで、それ以上の拡⼤を防ぐことができたケースもあります。
先⽇まで連載していたペイハラの事例も、まさにその⼀つでした。

今回は、この事例を振り返りながら、「初期対応では何を⾒るべきなのか」について考えてみたいと思います。

【最初に⾒るべきものは「苦情の内容」だけではない】

医療機関に患者さんやご家族から苦情が⼊った場合、まずその内容を確認することになります。

「説明が不⼗分だった」「待ち時間が⻑かった」「職員の態度が悪かった」「診療内容に納得できない」など、様々な訴えがあります。

もちろん、これらの内容を確認することは重要です。しかし、危機管理の観点からすると、私はもう⼀つ確認しなければならないものがあると考えています。

それは、「この⼈は、何を求めているのか」ということです。

そして、もう⼀歩踏み込むなら、「この⼈との話し合いによって、問題を解決することができる状態なのか」ということです。

これは⾮常に重要です。
なぜなら、通常の苦情対応であれば、
「事実を確認する」→「説明する」→「必要であれば謝罪する」→「改善する」
という流れで解決できます。

ところが、相⼿が「解決」ではなく、「謝罪させること」「相⼿を屈服させること」「組織を疲弊させること」などを⽬的としている場合、この通常の苦情対応が通⽤しなくなるからです。
ペイハラの事例でも、途中から私はこの点を強く意識するようになりました。

【初期段階では「事実」と「評価」を分ける】

もう⼀つ、私が初期対応で⼤切にしていることがあります。
それは、事実と評価を混ぜないことです。

例えば、「B⽒は 悪質なクレーマーである」という記録を最初から残すのではなく、
「○⽉○⽇○時、○○という 発⾔があった」
「説明後、同じ質問を○回繰り 返した」
「回答した内容について、別の論点を提⽰した」
「職員に対して⼤声で○○と 発⾔した」
というように、まずは確認できた事実を記録します。

その上で、
「職員に対する威圧⾏為と判断」
「通常の苦情対応の範囲を超えていると判断」
「今後も同様の⾏為が継続する可能性があると判断」
という判断を別に記録する。

私は、この「事実」と「判断」を分けて記録することが⾮常に重要だと思っています。

後になって誰かが記録を読んだとき、「なぜ、この時点でこの判断をしたのか」が分かるからです。

【初期対応で「最悪」を想定する】

危機管理では、「最悪の事態を想定する」ということがよく⾔われます。
しかし、これは「最悪の事態が必ず起こる」と考えることではありません。

例えばB⽒のケースであれば、「この⼈は警察に⾏くと⾔っている」「弁護⼠に相談すると⾔っている」「病院を訴えると⾔っている」という⾔葉を、そのまま真に受ける必要はありません。

⼀⽅で、「もし本当に警察から連絡が来たら?」「もし本当に弁護⼠から通知が来たら?」「もし次回の来院時に職員への暴⼒⾏為があったら?」ということは考えておく必要があります。

そして、
「その場合、誰が対応するのか」
「誰に連絡するのか」
「どの資料を出すのか」
「現場職員はどう動くのか」
を事前に考えておく。

これが危機管理だと思っています。

【「やりすぎ」ではなく「準備しておく」】

B⽒の 転院後、当院では、
・関係部⾨への情報共有
・窓⼝の⼀本化‧電話対応のルール設定
・メールによる対応‧顧問弁護⼠への相談
・警察への相談‧必要に応じた警察への協⼒要請など、
かなり厳格な対応⽅針を決めました。

結果だけを⾒ると、その後B⽒からの攻撃は鳴りを潜めました。

「そこまで準備する必要があったのか?」と思われるかもしれません。
しかし、私はそうは考えていません。
危機管理では、「⼤きくとらえて、⼩さくまとめる」という考え⽅があります。
最初から「たいしたことはない」と考えてしまうと、本当に問題が⼤きくなったときに対応できません。

逆に、最悪を想定して必要な準備をしておけば、事態が⼩さかった場合には、その準備を使わなければいいだけです。

これは警察時代の危機管理でも、現在の医療現場でも、基本的には同じだと私は考えています。

【初期対応で⼀番怖いのは「担当者⼀⼈の問題」にしてしまうこと】

そして、医療現場のカスハラ対応で私が特に危惧しているのが、「担当者⼀⼈に抱え込ませること」です。

最初に苦情を受けた職員が、
そのまま何度も対応する。
その職員に直接電話が⼊る。
その職員が⼀⼈で回答を考える。
相⼿からさらに質問される。
また調べて回答する。
さらに新しい質問が来る。

この状態になると、いつの間にか、「患者さんと病院の問題」ではなく、「患者さんと担当者個⼈の問題」になってしまいます。


B⽒のケースでも、私は途中からこれを避けることをかなり意識していました。
担当者を守ることは、単にその職員を守るだけではありません。
組織として⼀貫した対応をするためにも必要なことなのです。

【初期対応で残すべき記録】

最後に、⾮常に実務的なお話をします。
カスハラや重⼤な苦情が疑われる事案では、「後で誰かに説明できる記録」を残してください。

最低限、
・いつ、誰が、誰から、何を⾔われたのか
・こちらは何を回答したのか
・相⼿はどう反応したのか
・その時点で何を問題と判断したのか
・誰に報告したのか
・その後どう対応したのか
を残します。

そして、可能であれば、「なぜ、その対応を選択したのか」も記録しておくことをお勧めします。
これは後になって⾮常に重要になります。

当時は当たり前だと思っていた判断でも、数週間、数か⽉後に振り返ると、「なぜこの対応をしたんだ?」ということがあります。
そのときに、「この時点では○○という 事実がありした」、△△になる可能性を考えたため、この対応を選択と記録されていれば、第三者にも判断の合理性が理解できます。

【初期対応に「唯⼀の正解」はない】

今回、B⽒の 事例を 連載してきて、改めて感じたことがあります。
それは、カスタマーハラスメントやペイシェントハラスメントへの対応には、唯⼀の正解がないということです。

患者さんやご家族の状況、医療機関の体制、職員の配置、問題となっている⾏為の程度などによって、取るべき対応は変わります。

ただし、「何を基準に判断したのか」という軸を持っておくことはできます。

そして、その判断を記録し、組織で共有する。
これが、私は「ブレない対応」につながるのだと思います。

B⽒の事例は、 結果的には⼤きな事件に発展することなく終わりました。

しかし、そこに⾄るまでには、「何が起こるか分からない」という前提で、かなり慎重に初期対応を積み重ねました。

もし、このブログを読んでいただいている医療・介護・福祉の現場の皆さんが、今後「ちょっと気になる患者さんやご家族」に遭遇したとき、「このケース、どこまで想定しておけばいいだろう?」と考えるきっかけになれば幸いです。
それでは、今回はこのあたりで。また次回、お会いしましょう。

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