業務の自動化を相談されるとき、よく聞かれることがあります。
「事前に何を準備しておけばいいですか?」
正直に答えると、準備はほとんど要りません。 ただ、これがあると話が一気に早く進む、というものが2つだけあります
売り込みではなく、依頼する側の判断材料として書きます。読んだうえで「これなら自分でできそう」と思われたら、それが正解だと思っています。
決めなくていいこと:「何をどう自動化するか」
いちばん多い誤解がこれです。
「うちの何をAIにさせればいいか分からないので、まだ相談できません」
これは逆で、分からない状態で相談してもらって問題ありません。
「毎日これが面倒なんですよね」という愚痴レベルの話から始めて、どの工程に何分かかっているかを一緒に分解していけば、自動化すべき場所はたいていその場で浮かび上がります。実際、依頼者側が事前に決めていなかったせいで詰まった、という経験はほとんどありません。
どのAIが何をできるかも、こちら側が把握しておくべきことです。
あると一気に早く進むもの:2つだけ
1つ目は、改善したい業務が「1つ」決まっていること。
「これを楽にしたい」がはっきりしていると、話が「それはAIでできるのか、できないのか」の一点に絞れます。 何から手をつけるかを探す時間が丸ごと要らなくなります。
「全体的に効率化したい」でも構いませんが、その場合はまず棚卸しから始まるので、単純に時間はかかります。
2つ目は、いま使っている様式やデータの実物。
申請書、記録票、日報、集計表。未記入の様式で構いません(個人情報や取引先名が入ったものは、むしろ不要です)。
これがあると、どういう作業をどういう流れでやっているかが一目で分かります。口頭の説明だけだと「たぶんこういうことだろう」という推測が混ざるので、そこが消えるだけで精度が変わります。
この2つ以外に「これが無いと絶対に進まない」というものは、正直ありません。
むしろ決めるべきは「自動化しないこと」のほう
意外かもしれませんが、事前に考えておいてほしいのはこちらです。
私自身、自動化できると分かっていて、あえてやめた業務があります。カウンセリングの時間です。
会話を録音して、自動で文字起こしして、そのまま記録に反映する。技術的には可能ですし、一度は本気で作ろうと考えました。時間は確実に減ります。
でもやめました。人と人とが向き合っている時間の中身は、自動で流すより、自分の記憶に残したほうがいいと判断したからです。
録音に任せた瞬間、聞く側の集中は落ちます。「あとで文字起こしを見ればいい」と思いながら聞く話は、聞き方そのものが変わってしまう。そこで失うもののほうが、削れる時間より大きいと考えました。
自動化の目的は、時間を減らすことそのものではありません。人がやるべきことに時間を回すことです。だとすれば、人がやるべきことまで機械に渡すのは本末転倒になります。
「ここは人の手に残す」を先に決めておくと、あとの判断がぶれません。
使われなくなる仕組みには、共通点があります
社内でいろいろ作ってきましたが、定着せずに元に戻ったものも正直たくさんあります。
原因はだいたい同じで、新しすぎるツールを使ったときです。
仕組みとして正しく動いていても、現場からすると「また新しいものを覚えるのか」となる。浸透に時間がかかり、そのうち誰も開かなくなります。
なので今は、普段から使っているツールの上で、できるだけ簡単なものから作るようにしています。見た目が地味でも、そのほうが生き残ります。
依頼する側としては、「うちのスタッフは新しいものを覚えるのが得意ではない」と正直に伝えてください。 隠さずに言ってもらったほうが、設計が変わります。
自分で作るか、人に頼むか
私の結論は、自分で作れるものは自分で作ったほうがいいです。直したいときにすぐ直せますし、費用もかかりません。
ただ、ここには前提があります。
AIを使った効率化は、得意な人と苦手な人がはっきり分かれます。 分かれ目は知識の量ではなく、AIを触ること自体が好きかどうかです。
「こう使えば効率化できる」と知っていても、好きでない人がそれを形にしようとすると、驚くほど時間がかかります。試行錯誤の往復が必要な作業なので、その往復が苦痛な人には向いていません。
触るのが苦にならない人 → 自分で作ったほうがいい
そうでない人 → 好きな人間に任せたほうが、結果的に早くて安い
自分がどちらかは、たぶんご自身がいちばん分かっているはずです。
費用は「作る値段」ではなく「使い続ける値段」で比べる
比べる相手を間違えている方が多い印象です。
業務用の管理システムは、月額1万円から2万円ほどかかるものが少なくありません。年間で十数万円、しかも自社に要らない機能もセットで払っています。
既製品を使うと、自社の業務のほうをシステムに合わせにいくことになります。 そこで発生する「慣れるまでのコスト」は請求書に出てこないだけで、確実に払っています。
自分たちの仕様で作れば、要る機能だけを入れられるぶん、覚えることが減ります。ページを1枚作るような制作物も、業者に頼むと数十万円かかるものが、AIを使えば数万円で収まることがあります。
ただし、継続して運用していく必要があるものは別です。作って終わりのものと、ずっと育てていくものは、分けて考えたほうがいいと思います。
まずは「要らないツールを使っていないか」から
持ち帰っていただきたいのは1つだけです。
いま使っているツールの中に、要らないものが混ざっていないか。
自動化の相談というと「新しく何を足すか」の話になりがちですが、実際に伺っていくと、すでに払っているものを減らすだけで解決するケースがかなりあります。使っていない月額サービス、機能の1割しか使っていないシステム、紙とデータで二重管理になっている記録。
足す前に、減らす。そのほうが、たいてい早く効果が出ます。
現役の鍼灸師として現場に立ちながら、こうした仕組みを自分の職場で作ってきました。何を自動化すべきで、何は人の手に残すべきか。その線引きも含めて、お気軽にご相談いただければと思います。
「うちの場合はどうだろう」という段階で構いません。いま使っているものをどう効率化できるか、一緒に見ていきます。