福井でホームページを作りながら、Kindleで自分の本を50冊ほど出しています。小説、怪談、実用書、漫画、塗り絵。リフロー型も固定レイアウト型も、電子書籍もペーパーバックも、ひと通り作ってきました。
そのうえで、お預かりした原稿を紙の本にする仕事を始めました。最初の1件で、8つの不具合が出ました。
どれも電子書籍のデータをそのまま紙に回したせいです。そして、どれも入稿する前には見えませんでした。組み上がってから1ページずつ目で見て、はじめて分かったものばかりです。
同じところで止まる方がいると思うので、全部書きます。
■ 先に結論
電子書籍のデータは、紙の本のデータではありません。
電子書籍は、読む人の端末で文字の大きさが変わります。だから「何ページ目に何がある」という考え方がそもそもありません。紙は逆で、1ページに入るものが全部決まります。
この違いから、次の8つが出ます。
■ 1 白いページが増える
何も印刷されていないページが、本の途中に何枚も入りました。原因は3つあって、それぞれ直し方が違います。
ひとつめは、写真と写真のあいだ。絵の高さの上限を決めていたのですが、その上限に「絵と文字のあいだのアキ」を足し忘れていました。合計すると1ページの高さをわずかに超えます。超えた絵は次のページへ送られ、元いた場所が白く残ります。
ふたつめは、章の切れ目。改ページのために中身の空っぽな箱を置いていました。中身の無い箱は、ページの終わりに来ると次のページへ送られます。そこで改ページが効くので、1枚まるごと白くなります。高さを0にしても直りません。箱をやめて、次の見出しのほうに「このページから始める」と書くのが正解でした。
みっつめは、横組みの箱のあと。横組みの箱はページをほぼ占めるので、そのあとは自然に改ページされます。そこへ改ページの指示を重ねると、1枚余計に送られます。
白いページは、刷り上がったあとに「ここ、どうなってるんですか」と言われる類のものです。墨の量を測れば機械で見つかります。
■ 2 リンクが生きたまま紙に出る
電子書籍では、青い文字をタップすると飛びます。紙は飛びません。URLが文字として見えていなければ、読者はどこにも行けません。
厄介だったのは、リンクの数を数え違えたことです。本文には51か所のリンクがありましたが、最初に数えたときは6件しか拾えていませんでした。囲み枠の中に入っているリンクを見ていなかったからです。
あやうく「リンクは6件ありました」とお伝えするところでした。45か所が、紙の上で行き先の分からない文字になるところでした。
■ 3 原稿に残っていたコメントが、紙に印刷される
HTMLのコメント——画面には出ない、書き手のメモです——が、囲みのタグごと本文に印刷されました。
電子書籍では見えません。紙にすると出ます。コメントは「文字」として扱われないので、文字を拾う処理を素通りしていました。
自分で書いた原稿なら気づけます。人からお預かりした原稿では、そこにメモが残っていること自体を知りません。
■ 4 扉と奥付が二重になる
EPUBから起こす原稿は、たいてい中表紙と奥付を自分で持っています。そこへ組版の側が「紙の本なら扉と奥付が要るだろう」と自動で足すと、2枚ずつになります。
残すなら原稿のほうです。発行日とCopyrightが入っています。
■ 5 縦組みの中の英数字が寝る
縦書きの本で、半角の英数字はそのまま置くと90度寝ます。立たせる道は3つあります。全角にして正立させる、1〜2桁の数字は縦中横にする、全角の無い文字はCSSで回す。
問題は、通し忘れた場所だけが寝ることです。本文は全部きれいなのに、目次のページ番号だけが全部寝ていたことがありました。原稿をいくら読んでも見つかりません。組んだ結果にしか現れないからです。
そして、全角にするとページが増えます。3文字の英字は、寝たままなら1文字分の幅ですが、全角にすると3文字分を食います。132ページだった本が136ページになりました。
ページ数が変われば背幅が変わります。背幅が変われば、表紙も作り直しです。
なお、英文(単語が3つ以上つながっているところ)はわざと寝かせます。1文字ずつ縦に積むと読めません。「…」や「→」も、回転してはじめて縦組みの形になります。寝ていることが正しい文字があるので、「寝ている字を全部立てる」は間違いです。
■ 6 裏表紙が虹色の縞になる
電子書籍の表紙は表1(おもて)だけです。紙は、裏表紙と背と表1がつながった1枚が要ります。
足りない裏表紙を、表紙の右端1列を横に引き伸ばして作っていました。グラデーションの表紙なら段差は出ません。ところが写真を並べた表紙だと、写真ごとに色が変わって、裏表紙が虹色の横縞になりました。
色のばらつきが大きいときは、引き伸ばすのをやめて、ふちの平均色で塗りつぶします。
■ 7 表紙の文字が、断裁で切れる
KDPの決まりでは、文字は仕上がりから3.2mm内側(安全域)に入れます。背文字は背の左右に1.6mmずつ空けます。79ページ以上ないと背文字は入れられません。断裁は1〜2mmずれる前提の数字です。
ある表紙で、いちばん下の行が仕上がり線から0.12mmのところにありました。KDPの画面では審査が通ります。画面を見ているだけでは気づけません。
いまは、仕上がり線を赤、安全域を緑で引いた見本の画像を作って、目で見るようにしています。機械では「端まで届いているのが写真か文字か」を見分けられません。写真は端まであってよいのです(断ち落としに要ります)。だから線を引いて人が見ます。
■ 8 目次が無い本になる
EPUBの目次は、ページ番号を持っていません。読む人の端末で変わるからです。
そのまま紙にすると、目次の無い実用書ができあがります。紙の目次はページ番号が要るので、一度組んでページを確定させてから、もう一度組み直して作ります。
■ 印刷代が、2ページで1,050円跳ねることがある
締切のある本を印刷通販に出すとき、料金表が20ページ刻みのことがあります。139ページなら9,200円、141ページだと10,250円。2ページ増えただけで1,050円上がります。
「目次を入れましょう」「巻末に一覧を足しましょう」と提案する前に、この段差を伝えるべきでした。
KDP自体の印刷費は、固定費+ページ数×単価です(黒インク110ページ以上なら206円+1ページ2円、プレミアムカラーなら206円+1ページ4円)。こちらは段差がありません。
■ 著者用コピーは、人に見せる見本には使えない
これは組版の話ではありませんが、締切のある方に関わるので書いておきます。
出版前に頼める校正刷りには、表紙に「Not for Resale」の透かしが入ります。ISBNも印刷されません。
出版後に印刷コストだけで買える著者用コピーにも、帯が入ります。英語ではなく日本語で「再販禁止」。斜めの半透明の帯が表紙に4本ほど重なり、絵にも題字にもかかります。自分の本の実物で確認しました。
イベントで並べる見本や、人に渡す1冊には使えません。
あわせて、Amazon.co.jpの審査は5日です(Amazon.comは72時間以内)。印刷と配送の日数は公表されておらず、注文の最終画面で出る見積もりで決まります。締切のある現物は、同じ入稿データから印刷通販で別に刷って、KDP版は締切と切り離すのが確実です。
■ 出す前に数えていること
いまは、組み上がったら次の6つを機械で数えています。
1 まっ白なページ(墨の量が一定以下のページを拾う)
2 HTMLのタグが本文に出ていないか
3 扉と奥付が2枚ずつになっていないか
4 裏表紙を画像にして見る
5 外部リンクの数を、元のHTMLと突き合わせる
6 1行だけのページ
ただし、はっきり書いておきます。機械で見つかったのは半分くらいです。
残りの半分は、全ページを縮小した一覧を1枚の画像にして、目で追って見つけました。写真が全部そろって小さくなっていたことがあります。倍率は0.881倍。CSSの上限も余白も字の大きさも変わっておらず、写真の刷り上がりだけが小さくなっていました。手がかりはページ数が減ったことだけでした。
■ まとめ
電子書籍のデータをそのまま紙に回すと、出るのはこういうものです。
・白いページ
・飛べないリンク
・紙に出たメモ
・二重の扉と奥付
・寝た英数字
・虹色の裏表紙
・切れる表紙の文字
・目次の無い本
どれも、中身の良し悪しとはまったく関係のないところで起きます。そして、入稿する前には見えません。
紙にするときは、組み上がったものを1ページずつ見てください。それが一番確かです。
----------
ペーパーバックの組版をお引き受けしています。上に書いたところは、こちらで全部見ます。
・Kindle本を紙の本(ペーパーバック)にします
・Kindle出版用に原稿を電子書籍EPUB化します
ご質問だけでもお気軽にどうぞ。