深夜の静寂の中、モニターの冷たい光だけが部屋を照らしている。
現在進行中の新曲制作。
しかし、タイムラインはちょうど半分まで進んだところで、まるで息絶えたかのようにぴたりと止まってしまった。
構成は悪くない。メロディも理論上は破綻していない。
だが、何かが足りない。
どうしても自分の奥底にある熱狂とリンクしないのだ
焦燥感に急かされるように現実逃避のツールとして格闘技の映像を漁り始めるととまらんくなる
そして、まんまとキルギスからやってきたあの「理不尽なまでの暴力の塊」に見入ってしまった
ラジャブアリ・シェイドゥラエフ。
今日は少し彼の常軌を逸したヤバさと
そこから痛感させられたビジネスやモノづくりへの強烈な危機感について書き残しておこうと思う
ブランディングと文脈を粉砕する本物の暴力
格闘技というジャンルは、とにかく物語(ストーリー)が重視される世界だ
選手が背負っている過去、交差する因縁、ファンの熱量、そして大会に向けて完璧に作り上げられたプロモーション
そういった無数の文脈が絡み合い、リング上の熱狂を生み出していく
だが、シェイドゥラエフのリングには、そんなお膳立てなど一切通用しない
武田光司の泥臭いガッツ、立ち技最強の称号をかつて獲た久保裕太、
かつてベラトールでも上位にいたアーチュレッタ、
一時期誰も勝てないという偉大な柔術幻想をまとっていたクレベル・コイケ
海外勢の中でも相当強いという呼び声の高いビクターコレスニク
そして昨年末の大晦日、日本格闘技界の最大のアイコンである朝倉未来が背負っていた巨大なオーラと幻想。
錚々たるトップファイターたちが積み上げてきた文脈を彼はまるで子供の砂城を蹴り崩すかのように、ほぼ1Rで無慈悲に粉砕していった
あの光景を見ていて心の底から震え上がったのは本物が現れた瞬間それまでのストーリーやブランディング、小手先のマーケティングは一切の無力になるという残酷すぎる事実だ!!
相手がどれだけ感動的な背景を持っていようが彼には関係ない
ゴングが鳴れば、ただ無表情で距離を詰め圧倒的なフィジカルと剥き出しの殺意でキャンバスに沈め首を刈り取るだけだ
彼が提示するのは共感ではない
純度100パーセントの圧倒的な強さという完成されたプロダクトそのものである
「社長の右腕」として見る、現代ビジネスの虚構
俺はこれまで13年間にわたり、ビジネスの修羅場で様々な有象無象を見てきた。現在もココナラで「社長の右腕/現場の味方」として、多くのクライアントの裏方に回り実務や戦略のサポートをしている
その中で嫌というほど目にするのが中身の伴わないガワだけを綺麗に装飾しようとする風潮だ
これからは共感マーケティングだストーリーテリングでファンを創ろう——耳障りの良い言葉が飛び交い、薄っぺらい物語の包装紙でプロダクトの凡庸さを隠そうとする
もちろん、見せ方の工夫は必要だ
だが、肝心の中身(基礎体力)がスカスカな状態でどれだけ綺麗なメッキを塗ってもシェイドゥラエフのような「圧倒的な地肩の強さ」を持った競合が現れれば、一撃で市場から退場させられる
誰もが魔法の杖やショートカットを求めているが結局最後にモノを言うのは、基礎という名の腕力なのだ
相手の頭蓋骨を叩き割るような、圧倒的で理不尽なまでの実力
それがない限り、どれだけ綺麗な言葉を並べてもいざという時のスクランブルで競り負ける
大衆の心を鷲掴みにするための劇薬
翻って、自分のクリエイティブはどうだろうか
画面の中で止まっている新曲や作りかけの同人作品
俺はいつの間にか綺麗にまとめることや楽をしてそれっぽく聴こえることに逃げていなかったか
他人の顔色をうかがいマーケティングの教科書通りのコード進行をなぞり、ただ消費されるだけの無難なBGMを作ろうとしていなかったか
大衆の心を鷲掴みにするクリエイティブというのはそんなぬるま湯からは絶対に生まれない
それは、相手の呼吸を奪い、逃げ場をなくし圧倒的な力でねじ伏せるシェイドゥラエフのジャーマンスープレックスと同じ次元にあるべきなの
来月開催されるRIZIN LANDMARK 13
再度戦う打撃の天才・久保優太という究極のスペシャリスト相手にシェイドゥラエフがどうやってその理不尽な強さを押し付けるのか
今から楽しみで仕方がない。純粋な技術と純粋な暴力の衝突がまた新しい真実を見せてくれるはずだ
彼がリングの中で見せるあの絶対的な支配力こそが今の俺が目指すべき最終形態だ
言い訳を許さず、結果だけで世界を沈黙させる芸術
時計を見ればもう外は明るくなり始めている
そろそろ俺のリングに戻ろう
お遊戯会はもう終わりだ
無難にまとまりかけていた曲の後半戦一度すべて白紙に戻す
俺が抱えている焦燥も、世間の虚構への苛立ちも己への怒りもすべて猛毒の劇薬に変えてタイムラインにぶち込んでやる
「けらP」の真髄はここからだ
聴く連中の鼓膜と常識を破壊する準備を始めよう
誰にも媚びない!!誰の顔色もうかがわない!!
俺だけの完全なオリジナルを世界に叩きつけるのだ……ピコン
静まり返った部屋に、無機質な通知音が鳴り響く
画面の隅に表示されたポップアップである
メッセージを受信しました
「お世話になっております。資料ですが、やっぱり背景をピンクにして文字を可愛い丸ゴシックにしてもらえませんか?申し訳ないのですが本日の夜には納品して欲しいです!」
……俺はスッと息を吸い込み、爆速でタイピングを始めた
「いつもお世話になっております!承知いたしました!すぐに対応させていただきますね!」
社長の右腕は、今日も現場で泥水をすすっています
劇薬どころか、今は可愛い丸ゴシックの甘いシロップを全力で精製中です
対戦ありがとうございました