1. 今、暗闇の中にいるあなたへ
「未来に希望なんて持てない」
「いっそ、このまま消えてしまいたい」
今、あなたの心はそんな深い暗闇の中にいるのかもしれません。
明日が来るのが怖くて、先のことを考えるだけで息が詰まりそうになってしまう。
それほどまでに、あなたはこれまで一生懸命に生き、周囲に気を配り、心が擦り切れるまで頑張ってきたのですよね。
まず、あなたに一番に伝えておきたいことがあります。 今は、未来のことなんて何も考えなくて大丈夫です。
前を向こうとしなくていいし、元気を出そうとする必要もまったくありません。
「早く元気にならなきゃ」
「みんなに迷惑をかけているのではないか」
と、自分を責める必要もありません。
心が疲れ果ててしまったときは、ただ暗闇の中でじっと身体を休めることが、何よりも大切な心の治療になります。
ただ息をして、そこにいてくれること。今のあなたにとっては、それだけで十分に、100点満点のがんばりです。まずはその傷ついた心と身体を、毛布で包むようにそっと休ませてあげてください。
2. 私たちが無意識に自分にかける「言葉の呪い」
少しずつ時間が経ち、ほんの少しだけ心に隙間ができたとき、私たちの頭の中ではある変化が起き始めます。それは「無意識のひとりごと(セルフトーク)」です。
心理学の研究によると、人間は1日に約3万回から6万回もの思考を頭の中で巡らせていると言われています。そして悲しいことに、そのうちの約8割はネガティブな内容になりがちです。
特に心が弱っているときは、
「やっぱりダメだった」
「どうせ私なんて」
「なんであの時」
といった自己否定の言葉が、24時間体制で頭の中をループしてしまいます。
これは例えるなら、自分で自分に毎日、何万回も「小さな呪いの言葉」を浴びせ続けているようなものです。
これでは、心の体力が回復しようとしても、削られていく一方になってしまいます。
私たちが「現実が辛いから、ネガティブな言葉が出る」と思っている現象は、実は逆かもしれません。
毎日つぶやき続ける「ネガティブな言葉」が、私たちの現実をさらに暗く、息苦しいものに縛り付けている可能性があるのです。
この「言葉による心の縛り」を解き、自分自身を解放していくための技術が、今回ご紹介する「アファメーション」です。
3. 脳の思い込みを書き換える「アファメーション」の科学
アファメーションとは、直訳すると「肯定的宣言」。簡単に言えば「自分自身に、心強い味方になる言葉をかけてあげる技術」のことです。
ここで多くの人が、「それって、ただのポジティブシンキング(前向きな綺麗事)でしょ?」「そんな言葉だけで現実が変わるなら苦労しない」と思ってしまいます。
しかし、アファメーションは単なる精神論ではなく、脳科学的な裏付けがある「脳のハッキング」なのです。
人間の脳には、「RAS(網様体賦活系:もうようたいふかつけい)」という、情報を選別する高性能なフィルター機能が備わっています。
世界にあふれる無数の情報から、「自分にとって重要なもの」だけをピックアップして認識させるシステムです。
例えば、あなたが「新しい車が欲しいな」と思い始めた途端、街中でその車種ばかりが目に付くようになった、という経験はありませんか?
車が急に増えたわけではありません。
あなたの脳のフィルター(RAS)が「この車は重要だ」と認識したため、今まで見落としていた情報を自動的にスカウトしてきたのです。
言葉の力も、これとまったく同じです。
日常的に「もうダメだ」と言っていると、脳は「ダメな証拠」や「絶望的な未来の理由」ばかりを一生懸命に集めてきてしまいます。
逆に、ほんの少しずつでも自分を肯定する言葉を脳にインプットしていくと、脳のアンテナが「安心できる証拠」や「小さな希望の兆し」の方角へと、意図的にチューニングし直されるのです。
言葉が変わるから、脳のアンテナが変わる。アンテナが変わるから、見え方が変わる。これが、アファメーションが「言葉の魔法」と呼ばれる仕組みです。
4. 心が拒絶しない、正しい「お守り」の作り方
しかし、ここで非常に重要な注意点があります。
アファメーションの本をめくると、よく
「私は大成功している!」
「私は最高に愛されていて幸せだ!」
といった、現状とかけ離れた強い言葉が推奨されています。
ですが、心が深く傷ついているときに、そんな嘘のような言葉をかけられても、脳の防衛本能が「そんな訳ない、現実はこんなに辛いのに!」と猛反発を起こしてしまいます。
これを心理学で「認知の不協和」と呼び、無理なポジティブはかえって心を深く傷つける原因になってしまいます。
今のあなたに必要なのは、自分を奮い立たせるための眩しすぎる太陽のような言葉ではありません。
暗闇をそっと静かに照らしてくれる、「お守り」のような優しくて誠実な言葉です。
嘘をつく必要は一切ありません。「今、この瞬間」のあなたを、そのまま認めてあげる言葉から始めてみましょう。
ポイントは、語尾を「〜しているところだ」「〜してもいい」という現在進行形や許可の形にすることです。
「私は今、ゆっくり休んでエネルギーを溜めているところだ」
「私は、私のペースで、少しずつ良くなりつつある」
「今日がどんな一日でも、私は私を責めなくていい」
「私は生きているだけで、誰かの大切な存在だ」
「〜しなきゃ」というトゲのある言葉を、少しだけ丸い言葉に変えてみる。これだけで、脳は「あぁ、今は休んでいていいんだ」と安心モードに入ることができます。
この「安心感」こそが、心が回復するための何よりの土壌になります。
5. 心を育てるのは、植物を育てる日々の水やり
心の回復は、ある日突然カチッとスイッチが切り替わるようには進みません。それはまるで、小さな種に毎日少しずつお水をあげて、ゆっくりと芽が出るのを待つ「植物の成長」にとてもよく似ています。
あなたが自分にかける優しい言葉は、その乾いた心の土壌に注ぐ、一滴の澄んだお水です。
最初は何も変わらないように思えるかもしれません。「本当に意味があるのかな」と不安になる日もあるでしょう。
時には、昨日は調子が良かったのに、今日はまた起き上がれない……という「一歩進んで二歩下がる」ような日も必ず訪れます。
そんな時こそ、お守りの言葉の出番です。
「あぁ、今日は下がってしまう日なんだね。それだけ昨日がんばったんだね。休んでいいよ」と、その状態すらも言葉で包み込んであげてください。
その足踏みすらも、脳と心が新しい健やかなバランスを取ろうと、一生懸命に汗をかいている証拠なのです。
あなたが自分自身に向ける言葉が、少しずつトゲのない、優しいものに変わっていったとき。
気づけば、あんなに真っ暗で出口が見えなかった未来の景色に、ほんの少しだけ柔らかな光が差し込み、新しい芽が顔を出しているはずです。
言葉は、あなたが今この瞬間から、自分自身にプレゼントできる一番優しい特効薬。
誰かと比べる必要はありません。
あなたの味方は、いつでもあなたの中にいます。 焦らず、ゆっくり、あなたのペースで、新しい未来を一緒に言葉で描いていきましょう。