ここ数年、平屋の人気は本当に高くなりました。
私のところへ相談に来られる方の中でも、「できれば平屋にしたいんです」という方は、年々増えています。
人気の理由は、よく分かります。平屋には、たくさんの魅力があるからです。
階段がない。だから老後も安心。家事動線が短くてすむ。家族の気配を感じやすい。ワンフロアならではの心地よさが、確かにあります。
私自身、平屋は好きです。うまくはまれば、これほど豊かな暮らしを生む形はありません。
ただ——平屋を希望される方のお話を聞いていると、ひとつだけ気になることがあるのです。
それは、「平屋にすれば、全部うまくいく」と思っている方が、意外と多いということです。
今日は、平屋に憧れている方にこそ読んでほしい、「平屋だからこそ考えておきたいこと」をお話しします。
なぜ、平屋はこれほど人気になったのか
まず、人気の背景を少し整理しておきましょう。
ひとつは、暮らしの変化です。年齢を重ねても階段の上り下りがなく、長く住み続けられる。これは、これからの暮らしを見据える方にとって、大きな安心材料になりました。
もうひとつは、価値観の変化です。広さや部屋数を競うより、家族が同じフロアでゆるくつながり、シンプルに暮らす。そんな住まい方への憧れが高まっています。SNSやテレビで、おしゃれな平屋の実例を目にする機会が増えたことも、後押ししているでしょう。
人気には、人気になるだけの理由があります。平屋は、今の時代の気分によく合った、魅力的な選択肢なのです。
ただ、その「平屋ならうまくいく」というイメージだけで進めてしまうと、思わぬ落とし穴が待っていることがあります。
意外と難しい「収納計画」
平屋の弱点として、まず知っておいてほしいのが収納です。
当たり前のことですが、平屋には2階がありません。ということは、2階建てなら2階に置いていた物も、すべて1階に収める必要があるということです。
来客用の布団、季節家電、子どもの思い出の品、使う頻度の低い物——これらの「行き場」を、すべて同じフロアで考えなければなりません。
その結果、収納計画が意外と難しくなります。居住スペースを圧迫しないように収納を確保するには、最初の段階でしっかり「何を、どこにしまうか」を決めておく必要があるのです。「平屋はすっきり暮らせる」というイメージとは裏腹に、収納の段取りはむしろ丁寧さが求められる、と覚えておいてください。
「採光」と「プライバシー」という見落とし
次に、光の問題です。
平屋は、横に広がる形になります。すると、家の中心部分に光が届きにくくなることがあります。2階がない分、上から光を取り込めないため、間取りによっては中央が暗くなりがちなのです。
対策はあります。中庭を設けたり、高い位置に窓を取ったり、天窚を使ったり。ただ、これらは最初の設計段階で計画しておく必要があります。後から「中央が暗い」と気づいても、簡単には直せません。
そして、もうひとつ見落とされやすいのが、プライバシーです。
2階建てなら、寝室や子ども部屋を2階に配置することで、家族それぞれにほどよい距離感を作れます。来客時も、生活空間を2階に隠せます。
一方、平屋はすべての部屋が同じフロアにあります。家族構成や生活時間によっては、音や気配、生活リズムの違いが気になることもあります。たとえば、夜勤のある方と早起きの子どもが、同じフロアで暮らす——そんな場面では、間取りの工夫が欠かせません。
「土地」と「コスト」の現実も知っておく
形の話だけでなく、現実的な条件も押さえておきましょう。
平屋は、同じ床面積でも広い土地が必要になります。2階建てなら上に積めるところを、平屋はすべて1階に並べるからです。土地の広さや形によっては、希望する間取りが入りきらないこともあります。
そして、建築費です。意外に思われるかもしれませんが、平屋は2階建てより割高になりやすい傾向があります。同じ延床面積なら、屋根と基礎の面積が大きくなるためです。さらに、外壁や屋根といった外周部分が増えるため、将来のメンテナンスのかかり方も2階建てとは変わってきます。
これらは、平屋の魅力を打ち消すものではありません。ただ、「知らずに進めて、あとで驚く」ことのないよう、最初に把握しておきたいポイントです。
あるお客様の家で起きたこと
以前、「絶対に平屋がいい」と希望されたご家族がいました。
私はひとつだけお聞きしました。「平屋にすると、土地や予算の都合で、部屋数か収納のどちらかは少し控えめになるかもしれません。それでも大丈夫ですか?」と。
ご夫婦はしばらく話し合い、「子どもが独立したあとの二人暮らしを考えると、部屋数は少なくていい。その分、平屋でゆったり暮らしたい」と。優先順位がはっきりしたのです。
そこで、部屋数を絞り、中央に光を取り込む工夫をした、おおらかな平屋にしました。住み始めてから、「自分たちの暮らしに、ぴったり合っている」と喜んでいただけました。
一方で、別のご家族は、平屋に憧れていたものの、土地の広さと将来の部屋数を考えて、最終的に2階建てを選ばれました。「憧れだけで決めなくてよかった」と、こちらも納得の選択でした。
どちらも正解です。違うのは、暮らしに何を求めたか、それだけなのです。
平屋が正解の家族も、2階建てが正解の家族もいる
ここまでお読みいただいて、お伝えしたかったのは「平屋はやめた方がいい」ということでは、まったくありません。
平屋だからこそ実現できる、豊かな暮らしはたくさんあります。ワンフロアの心地よさ、家族の近さ、将来の安心——どれも本物の魅力です。
ただ、それと同じように、2階建てにも2階建てのよさがあります。どちらが優れているという話ではないのです。
大切なのは、平屋という「形」に憧れることではなく、自分たちの暮らしに合っているかを考えること。土地の条件、予算、家族構成、これからの暮らし方——それらと照らし合わせて初めて、答えが見えてきます。
こうした条件は、住宅会社の担当者や設計者に伝えるほど、提案が的確になります。「我が家はこう暮らしたい」という思いがあれば、プロは平屋と2階建ての両面から、最適な道を一緒に探してくれます。
平屋か2階建てか、ではなく
家づくりで本当に大切なのは、流行に合わせることではありません。
自分たちの暮らしに合わせることです。
平屋を検討するときは、メリットだけでなく、平屋だからこそ考えておきたいこと——収納、採光、プライバシー、土地、コスト——も一緒に整理してみてください。そのうえで「それでも平屋がいい」と選べたなら、その家はきっと、住んでからも満足できるはずです。
平屋か、2階建てか。
その問いの前に、まずはこう考えてみてください。
我が家は、どんな暮らしをしたいんだろう?
その答えが見えてくると、平屋か2階建てか、という問いにも、自然と答えが見つかるはずです。形から入るのではなく、暮らしから考える。それが、後悔の少ない家づくりの、いちばん確かな出発点だと思います。
家づくりに正解はありません。
ご家族によって大切にしたいことも違いますし、土地や予算によっても答えは変わります。
だからこそ、SNSやネットの情報だけで判断するのではなく、ご自身の家づくりに当てはめて考えることが大切だと思っています。
今回の記事が、後悔しない家づくりの参考になれば幸いです。
もし、
・自分たちの場合はどう考えればいいのか分からない
・今の間取りで本当に大丈夫なのか不安
・契約前に第三者の意見を聞いてみたい
・住宅会社には聞きにくいことがある
という方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。
設計歴25年、累計1000組以上の家づくりに携わってきた現役プランナーとして、中立的な立場からお手伝いさせていただきます。
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