家づくりの相談を受けていると、こんな言葉をよく聞きます。
「細かいことは、契約してからゆっくり考えようと思っています」
その気持ち、よく分かります。決めることが山ほどある中で、すべてを契約前に固めるのは大変ですから。
そして、これだけは先にお伝えしておきます。すべてを決めてから契約する必要は、まったくありません。 家づくりは、進めながら一緒に考えていくものです。最初から完璧である必要はないのです。
ただ、25年この仕事をしてきて、ひとつだけ「これだけは契約前に整理しておくと安心ですよ」とお伝えしていることがあります。
今日は、不安を煽るためではなく、肩の力を抜いて家づくりに臨んでいただくために、その「ひとつ」をお話しします。
後から変えやすいもの、変えにくいもの
まず知っておいてほしいのが、家づくりには「契約後でも変えやすいもの」と「変えにくいもの」がある、ということです。
これを分けて考えられるだけで、契約前に何を急いで、何はゆっくりでいいのかが、ぐっと見えやすくなります。
比較的、後から変えやすいもの
• 壁紙(クロス)の柄や色
• 照明器具
• カーテン
• 設備の色や面材
• コンセントの位置(着工前なら、ある程度)
こうした「仕上げ」に近い部分は、打ち合わせを重ねる中で、後からでも調整しやすいものです。ですから、契約の時点で完璧に決まっていなくても、心配いりません。
変えにくいもの
• 建物の大きさ
• 間取りの基本的な考え方
• 構造の計画
• 窓の配置
• 階段の位置
• 土地と建物の関係
こうした「家の骨格」にあたる部分は、後から大きく変えようとすると、費用も時間も余分にかかってしまうことがあります。変えられないわけではありませんが、変えるほど負担が大きくなる、と覚えておいてください。
よくある「あとで変えたかった」の声
実際の相談でも、こんな声は少なくありません。
• 「もう少し収納が欲しかった」
• 「リビングをもっと広くしたかった」
• 「洗濯動線を変えたい」
どれも、暮らしの根っこに関わる部分です。そして、こうした要望が出てくるのは、たいてい間取りがある程度固まったあと。その段階になると、簡単には変えられないことがあります。
ここで大切なのは、これは「確認を怠ったから」ではない、ということです。多くの場合、契約前に「自分たちがどう暮らしたいか」が、まだ言葉になっていなかっただけなのです。
契約前に整理したいのは「間取り」ではなく「暮らし方」
では、契約前に何を考えておけばいいのか。
答えは、間取りそのものではありません。暮らし方です。
意外に思われるかもしれません。でも、間取りは暮らし方が決まれば、プロが形にしてくれます。逆に、暮らし方があいまいなまま間取りを決めると、後から「やっぱりこうしたい」が次々と出てきてしまうのです。
具体的には、こんなことを思い浮かべてみてください。
• どこで洗濯をして、どこに干して、どこにしまうのか
• 何を、どこに収納したいのか
• 子どもは、どこで勉強するのか
• 将来、子ども部屋はどう使い、使わなくなったらどうするのか
• 親が泊まりに来ることはあるか
• 在宅で仕事をする時間はあるか
難しく考える必要はありません。「我が家の一日」「我が家の10年後」を、ざっくり思い描いてみるだけで十分です。
暮らし方が見えると、優先順位が見えてくる
不思議なもので、暮らし方が見えてくると、間取りの優先順位も自然と見えてきます。
「家事をとにかくラクにしたい」のか。「家族が集まるリビングを大切にしたい」のか。「将来の変化に対応できる家にしたい」のか。
ここがはっきりしていると、打ち合わせで迷ったときの判断基準ができます。「これは我が家の優先順位に合っている?」と考えるだけで、選択がスムーズになるのです。
逆に、ここが曖昧なまま進むと、目に入る情報すべてが魅力的に見えて、「あれも、これも」と要望がふくらみ、収拾がつかなくなってしまいます。
あるお客様の家で起きたこと
以前、「間取りはお任せします。とにかく早く進めたい」とおっしゃるご家族がいました。
私は契約を急ぐより先に、こうお願いしました。「一度だけ、ご家族で『どんな一日を過ごしたいか』を話してみてもらえますか?」と。
数日後、お母さんがメモを手に来られました。「話してみたら、夫が在宅勤務を始めることが分かって。あと、私の親がよく泊まりに来るんです」と。
ご本人たちも、話すまで言葉にしていなかったそうです。この時点で分かったおかげで、在宅ワーク用の小さな個室と、来客が泊まれる和室を、最初の間取りに組み込めました。
もし契約後に気づいていたら、間取りを大きく変えることになっていたかもしれません。「先に話しておいて、本当によかった」と喜んでいただけました。
特別なことは、何もしていません。ただ、契約前に家族で暮らしを話した。それだけで、後悔の芽をひとつ摘めたのです。
完璧でなくていい。でも「家族会議」だけは
ここまで読んで、「やっぱり契約前に全部決めなきゃ」と気負う必要はありません。
くり返しますが、家づくりは進めながら考える部分がたくさんあります。仕上げや設備は、後からゆっくり選べばいい。完璧である必要は、まったくないのです。
ただ、契約前に一度だけ、家族で暮らし方を話し合う時間を持ってみてください。立派な会議でなくていいんです。食卓で「どんな家に住みたい?」と話すだけで十分です。
何を大切にしたいのか。何を優先したいのか。それが少し整理できるだけで、契約後の「こんなはずじゃなかった」は、驚くほど減ります。
その話し合いの内容は、住宅会社の担当者や設計者に伝えるほど、提案が的確になります。プロは、あなたの暮らしの解像度が上がるほど、力を発揮してくれるのです。
契約前に確認するべきは、設備よりも「暮らし」
契約前に確認するべきなのは、設備のグレードや、壁紙の色だけではありません。
これから始まる、暮らしそのものです。
設備は後からでも選べます。でも、「どう暮らしたいか」という土台だけは、早い段階で家族の中にあると、その後のすべての選択がぶれなくなります。
だから、契約の前に一度だけ。
ぜひ、ご家族で「どんな暮らしをしたいか」を話してみてください。
その何気ない会話が、後悔の少ない家づくりの、いちばん確かな第一歩になるはずです。
家づくりに正解はありません。
ご家族によって大切にしたいことも違いますし、土地や予算によっても答えは変わります。
だからこそ、SNSやネットの情報だけで判断するのではなく、ご自身の家づくりに当てはめて考えることが大切だと思っています。
今回の記事が、後悔しない家づくりの参考になれば幸いです。
もし、
・自分たちの場合はどう考えればいいのか分からない
・今の間取りで本当に大丈夫なのか不安
・契約前に第三者の意見を聞いてみたい
・住宅会社には聞きにくいことがある
という方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。
設計歴25年、累計1000組以上の家づくりに携わってきた現役プランナーとして、中立的な立場からお手伝いさせていただきます。
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