今日、私は一つの安堵とともにこの文章を書いています。
私の実体験をベースにした連載「ロストフロンティア」はひっそりと完結を迎えました。長い年月をかけて自分の中で反芻し続けてきた、あの記録。21歳で年商100億という巨大な看板を背負い、そしてすべてを失った「津田誠」という男の物語を、ようやく書き終えることができました。
正直に申し上げれば、連載中の反響は、お世辞にも大きいとは言えませんでした。「スキ」の数が劇的に増えるわけでもなく、コメント欄が賑わうこともありません。静かな、あまりに静かな独白のような時間でした。
しかし、その静寂があったからこそ、私は誰に阿(おもね)ることなく、自分の内面にある最も暗く、冷たい場所にまで潜り込むことができたのかもしれません。誰にも注目されていない場所で、かつての自分と対話を続ける。それは、私にとって必要な通過儀礼だったのだと感じています。
この連載を大幅に加筆・修正し、このたび『問いを失った経営者へ ロストフロンティア』というタイトルでKindleにて出版いたしました 。
「なぜ、書籍にする必要があったのか」
その答えは、ここで描ききれなかった「その先」にあります。この物語(第Ⅰ部)は、会社という形が消滅し、一人の男が剥き出しの個体に戻るところで終わります。しかし、本当に大切なのは、なぜあれほど誠実に、正しくあろうとした経営者が失敗したのかという「構造」を解剖することです。
書籍版では、以下の二つの大きな柱を新たに書き加えました。
第Ⅱ部「構造(解剖)」では、誠が陥った罠を客観的に分析しています 。 「会社のため」という言葉が、いかに個人の良心を思考停止させる「翻訳装置」として機能してしまうのか。積極的に嘘をつくのではなく、真実を言わないことを選び続ける「不作為の嘘」が、どのように組織を浸食していくのか。会計士や銀行といった専門家たちが、それぞれの「正論」を述べながら、いかに無責任の連鎖を生んでいくのか 。これらのメカニズムを、あの日、冷たい床に座り込んだ私自身の視点から徹底的に解剖しました。
第Ⅲ部「問い(実践)」では、孤独な経営者がいかにして「問い」を取り戻すべきかを綴っています 。 「どうするか(戦術)」ばかりを追い求め、「なぜ、何のために(存在意義)」を忘れた瞬間、経営者の死は、会社の終わりよりも先に訪れます。あの日、21歳だった私に、今の私ならどんな言葉をかけるのか。専門家の言葉に依存せず、組織の沈黙から真実を読み解くための「鏡」としての問い方を提示しました 。
この連載は、私にとっての「旅の記録」でした。そして今回のKindle版は、同じように孤独の暗闇で足掻いている経営者、あるいはリーダーの方々に手渡したい「一振りの道具」です。
この連載を、読み続けてくださった「あなた」へ。 皆さんの静かな眼差しがあったからこそ、この物語は迷子にならずに結末に辿り着くことができました。本当に、ありがとうございます。
物語の結末は、新たな問いの始まりでもあります。 「あなたの会社で、本当のことを言える人間は何人いるか。そして、あなた自身は、その一人か。」 もしこの問いが、あなたの心に小さな波紋を広げたなら、ぜひ書籍版も手にとってみてください 。
「ロストフロンティア」は、今、新しい名前とともに動き始めました。