「変わってないわよ」

記事
ライフスタイル
仕事の帰り道、目の前に楽しそうに話している二人の女性がいた。年齢は60代くらいだろうか。
横を通り過ぎたとき、会話がふと耳に入ってきた。
「久しぶり。こんなところで会うなんて、びっくりしたー」
「でも、よくわかったねぇ」
「いやー、変わってないわよ」
「そうよね」
『その姿!!』
笑い合うその二人が、なんだか微笑ましかった。
連絡も取らなくなった人と、たまたま会えることがあるんだな、と感心した。それよりも、昨日の晩ごはんすら怪しいのに、あっという間に記憶が戻ってくる——あの感じがおもしろかった。懐かしさというのは、いったいどこに仕舞われているのだろう。
二人がどんな関係だったのかはわからない。昔の同級生か、以前の職場の仲間か、若い頃の近所の誰かか。ただ、長い時間が流れていたことだけは伝わった。そしてその時間を飛び越えて会えたことを、二人ともちゃんと嬉しそうにしていた。
変わってないわよ。
その言葉が、通り過ぎたあとも少し残った。

人は変わる。歳を重ねるし、顔つきも変わる。生活も変わる。あの頃のままでいる人なんて、きっといない。
それなのに、久しぶりに会った相手には「変わっていない」と見えることがある。
顔や声ではなく、その人がそこにいるときの空気みたいなものかもしれない。見た目は変わっても、その人らしさだけは残る——あるいは、自分がそう見たいだけなのかもしれない。

そんなことを考えながら、私の中にも顔のぼやけた懐かしさが浮かんだ。
当時、とても好きだった人。絶対に忘れないと思っていた。けれど今となっては、顔も曖昧だ。声も思い出せない。どんな匂いだったかも、もうわからない。
忘れてしまった、というより、フィルターをかけたみたいにぼやけた感じに近い。それでも、不思議と印象だけは残っている。
もし今、どこかで偶然すれ違ったら、気づけるだろうか。たぶん気づける気がする。でも、それは本当にその人を見つけるというより、昔の自分に反応してしまうだけかもしれない。
懐かしい、と思うのは——相手に対してなのか。それとも、その人と一緒にいた頃の自分に対してなのか。

記憶は、細かな情報から先に消えていく。顔立ちや声や、会話の内容から。
最後まで残るのは、感情のほうだ。
嬉しかったこと。苦しかったこと。揺れたこと。どうしようもなく心が動いたこと。
人を覚えているというのは、姿を覚えていることではなく、その人によって動いた自分を覚えていること——なのかもしれない。

そんなことを少し考えながら、私はいつもの道を歩いて家に帰った。甘さのような余韻を、ポケットにそっとしまいながら。
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら