「一度、病院で相談してみようか」
不登校が続く子どもにそう声をかけると、「行かない」と返ってくる。
朝は起きられず、頭痛や腹痛もある。体調が心配で受診を勧めても、病院の話になると機嫌が悪くなり、会話が終わってしまう。
何度も勧めれば、ますます嫌がり、受診の話をいつ、どう切り出せばいいのか迷うことがあります。
そんなときは、受診するかどうかを決めることと、受診への負担を減らすことを分けて考えてみませんか。
📌結論
子どもが受診を嫌がるときは、「行くかどうか」の前に、何が負担なのかを確かめます。
嫌がっている部分がわかると、親が準備できることや、本人が選べることも見えてきます。
🎈「春名しずくの不登校相談室」では、子どもの状態と環境、親の不安と関わり、学びと進路の選択をテーマに、迷いやすい場面を一つずつ考える記事をお届けしています。
✅「病院が嫌」の中身を分けて聞く
「病院なんて行かない」
そう言われると、親は受診の必要性を説明したくなります。
「体調が心配だから」
「先生に相談したら楽になるかもしれないよ」
けれど、子どもが気にしているのは、受診の必要性とは別のことかもしれません。
例えば、
「学校に行くように言われそう」
「知らない人に自分のことを話したくない」
「何を聞かれるのかわからない」
「病気だと決めつけられそう」
同じ「行かない」でも、気になっていることは違います。
そこで、受診を勧める会話から、負担を確かめる会話に変えてみます。
「病院の話をすると嫌そうだけど、先生と話すのが嫌? それとも、何をされるかわからないのが心配?」
選択肢を出しても答えにくそうなら、その日はそこで終えます。
本人が「学校のことを聞かれるのが嫌」と話したら、次にするのは説得ではなく、相談先への確認です。
「学校の話をどこまで聞かれるか、先に病院に聞いてみようか」
子どもの不安を一つ具体的にすると、親が確認できることも一つ決まります。
✅「受診するか」より先に、本人が選べることをつくる
受診を嫌がる子どもにとって、病院へ行くことは、一度にいくつもの負担を引き受けることかもしれません。
親には「一度相談するだけ」に見えても、子どもには大きな予定です。
そこで、受診するかどうかをすぐに決める代わりに、子どもが取り組めそうなことから選べるようにします。
例えば、
「病院のホームページを一緒に見る?」
「先生に聞きたいことをメモしてみる?」
「最初は私が相談して、どんなところか聞いてこようか」
本人が「それならいい」と思えるところから始めます。
ここで大切なのは、選択肢を並べて受診の約束を取りつけることではありません。
自分の知らないところで話が進む不安を減らし、受診までの過程に本人の意思を入れることです。
親だけで相談する場合も、
「朝の体調が心配だから、私が相談先に話を聞いてみるね。あなたが何を話すかは、そのあと一緒に考えよう」と伝えられます。
受診への気持ちは、親が説明を重ねることだけで変わるわけではありません。本人が「ここなら話せそう」「この方法なら試せそう」と思える条件を、一緒に探すことです。
✅「行ってみようかな」が出たら、初診の負担を小さくする
子どもが少し受診に前向きになっても、当日が近づくと不安が強くなることがあります。
どのくらい時間がかかるのか。
親は一緒に診察室へ入るのか。
当日の流れがわかると、子どもも心の準備をしやすくなります。
予約するときに、親から医療機関へ確認してみます。
「初診は、どのくらい時間がかかりますか」
「診察では、どんなことを聞かれますか」
「本人がうまく話せない場合、事前にメモを渡せますか」
「診察に親が同席するかどうかは、子ども本人の希望に合わせてもらえますか」
確認した内容は、子どもが気にしていることを中心に、短く伝えます。
例えば、親の同席について相談できるとわかったら、「一緒に診察室に入るかどうかは、希望を聞いてもらえるって」と伝えられます。
そのうえで、「先生に先に伝えておきたいことはある?」と聞いてみます。
例えば、
「質問されても、すぐには答えられないかもしれない」
「最初はお母さんから話してほしい」
「学校のことは、まだ聞かないでほしい」
といった希望です。
本人の希望を聞いておくことも、安心して受診するための準備の一つです。
初診では、すべてを説明しようとしなくても大丈夫です。「この先生なら、次も相談できそう」と本人が感じられることを大切にします。
なお、食事や水分が十分に取れない、強い痛みが続くなど、体調に心配な変化があるときは、受診への気持ちが整うのを待たずに医療機関へ相談してください。
自傷や「死にたい」という言葉、差し迫った危険がある場合は、安全の確保と緊急の相談を優先してください。
📌まとめ
・「病院が嫌」の中で、何が負担なのかを具体的に聞く
・受診までの準備に、本人が選べることをつくる
・初診の流れを確認し、話しやすい方法を用意する
「行かない」という言葉が変わるのを待つだけでなく、親が先に確かめられることがあります。
まずは、子どもが病院の何を気にしているのか、一つ聞いてみることから始めてみてください。
親として、支援者として
看護師・助産師として約30年、病院や行政で子どもと家族に関わってきました。NPOでの心理支援や自殺対策の相談も経験し、相談支援はのべ3,000件を超えます。
それでも、ASD・ADHDの息子が不登校になったときは、体調や将来のことが心配でした。息子は5年間の不登校を経て、現在は全日制高校に通っています。
親が心配する気持ちも、子どもが受診をためらう気持ちも、どちらも大切にしながら、相談につながる方法を考えていきたいと思います。