「あの子さえいなかったら」
「私の人生、このまま犠牲にするしかないのでしょうか」
精神科で長く働く中で、ご家族から、こうした思いを聞いてきました。
ご本人がいる前では、なかなか口にできない気持ちです。
そして本音を話したあと、
「こんなことを思ってしまう自分は、ひどい家族なのではないか」
と、自分を責めてしまう方もいます。
私は、こうした気持ちを聞いても、すぐに助言することはありません。
まず、その方の話を聞きます。
なぜ、そこまで思うようになったのか。
その言葉だけでは分からないことが、たくさんあるからです。
ご本人がいないからこそ、話せることがある
もう関わりたくない。
自分の人生はどうなるんだろう。
そう思っていても、家族だからこそご本人には言えない。
親戚や友人に話そうとしても、
「家族なんだから」
と思われるのではないか。
そんな心配から、誰にも話せずにいることもあります。
ご本人が病気であることは分かっている。
つらいのはご本人だということも理解している。
それでも毎日の生活の中では、腹が立つことも、疲れ果ててしまうこともあるでしょう。
そして、そんな気持ちを抱いた自分を責めてしまう。
私は、そこに出てきた言葉だけを取り上げて、
「そんなことを思ってはいけない」
とは考えません。
まず、そこまでの話を聞きます
あの子がいなかったら。
そう考えるほどの気持ちが出てくるまでに、何があったのか。
それは、話を聞かなければ分かりません。
これまでどんなことがあったのか。
何に困ってきたのか。
何を我慢してきたのか。
こちらの答えを先に伝えるのではなく、その方が話す時間を大切にしてきました。
ご本人とは、別の人生です
一通り話を聞いたあと、ご家族に伝えてきたことがあります。
「ご自身の人生を犠牲にしないでください」
「ご本人とは、別の人生です」
もちろん、いつもこの言葉をそのまま伝えるわけではありません。
その方が置かれている状況や、それまでの話を聞いたうえで、言葉を選びます。
家族だから、できることはしてあげたい。
病気だから、自分が支えなければと思う。
そうして自分のことを後回しにしてきた方もいます。
けれど、ご本人の人生と、ご家族の人生は同じではありません。
家族が自分の人生を生きることと、ご本人を見捨てることは、別のことだと私は考えています。
誰にも言えないことを、話せる場所として
私の相談サービスでは、最初から「こうしたほうがいい」と助言することはしていません。
まず、今まで何があったのか。
何に困っているのか。
今、どんな気持ちでいるのか。
そこから聞かせてください。
言葉にするのをためらうような気持ちであっても、その一言だけであなたを判断することはありません。
必要であれば、話を聞いたうえで、精神科看護の経験からお伝えできることを一緒に考えていきます。
ご本人にはご本人の人生があり、あなたにはあなたの人生があります。
誰にも言えずに抱えていることがあれば、ここで話してください。
精神疾患のあるご家族との関わりについて、精神科看護の経験をもとにお話を伺っています。