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音声・音楽
物語タイトル『蛍色メロディーズ』/オリジナル曲
コンテンツ
音声・音楽
河崎ゆう
2026/07/27 06:40
サブタイトル〜雨上がりのステージへ〜
メインキャラクター
① 星宮 ひかり(主人公)
高校1年生
アニメ大好き
内向的
作詞担当
蛍が好き
「好きなアニメの主題歌みたいな曲を作りたい」
② 雨宮 しずく
高校2年生
ギター担当
クール系
雨の日が好き
③ 夏川 ほたる
高校1年生
ベース担当
元気娘
ムードメーカー
④ 月城 レイナ
高校2年生
ドラム担当
生徒会所属
負けず嫌い
ライバルバンド
「Black Lily」
県内大会常連。
リーダー
神崎 美月
圧倒的実力を持つギターボーカル。
最初は敵だが後半で良きライバルになる。
この小説から5曲誕生しました。
🎸 1. 蛍色メロディーズ(始まり)
🌦️ 2. 雨上がりスターライト(成長)
🎤 3. 蛍色メロディ(文化祭初ライブ)
🔥 4. 放課後☆RIOT PARTY!!(番外編・最高に楽しい時間)
🌇 5. また明日、この空で(未来へ続くエンディング)
🎸 1. 蛍色メロディーズ(始まり)
🌦️ 2. 雨上がりスターライト(成長)
🎤 3. 蛍色メロディ(文化祭初ライブ)
🔥 4. 放課後☆RIOT PARTY!!(番外編・最高に楽しい時間)
🌇 5. また明日、この空で(未来へ続くエンディング)
第1章 蛍が導く出会い
第1節 雨上がりの蛍公園
六月。
雨上がりの空は、まだ少しだけ泣き顔を残していた。
夕暮れの雲の隙間から差し込む光が、濡れたアスファルトを淡く照らしている。
「はぁ……」
星宮ひかりは、学校からの帰り道を一人歩いていた。
肩にはアニメキャラクターのキーホルダーが揺れるスクールバッグ。
その手には、今朝買ったばかりのアニメ雑誌。
表紙には今季話題のバンドアニメが大きく掲載されていた。
「いいなぁ……」
ひかりは雑誌を見つめながら呟く。
「みんなでバンド組んで……文化祭でライブして……」
少しだけ笑う。
そしてすぐに視線を落とした。
「私には無理だけどね……」
誰もいない帰り道。
その言葉だけが静かに消えていった。
ひかりは昔から音楽が好きだった。
歌うことも好き。
アニメも大好き。
主題歌が流れるだけで胸が熱くなる。
エンディングで泣くことだってある。
だけど。
「友達いないしなぁ……」
ぽつり。
自虐気味に笑う。
「はは……言ってて悲しくなる……」
学校でも目立つタイプではない。
休み時間は本を読むかスマホでアニメ動画を見るか。
クラスメイトと話すことはあっても深く仲良くなることはなかった。
そんな自分がバンドなんて。
夢のまた夢。
「でも……」
空を見上げる。
「いつか、アニメの主題歌みたいな曲を作れたらなぁ……」
その時だった。
風が吹いた。
雨上がりの匂い。
濡れた草木の香り。
そして――
ぽろん。
「え?」
ひかりは足を止めた。
今。
確かに音がした。
ギターの音。
ぽろん。
ぽろん。
遠くから聞こえる優しい旋律。
「ギター……?」
住宅街の向こう。
小さな公園の方から聞こえてくる。
ひかりは思わず歩き出していた。
「誰か弾いてるのかな……?」
胸が少し高鳴る。
知らない音。
だけど不思議と惹かれる音だった。
公園へ続く石畳を進む。
そこは町外れにある小さな公園。
地元では『蛍公園』と呼ばれている場所だった。
初夏になると蛍が現れる。
ひかりのお気に入りの場所だ。
「わぁ……」
思わず声が漏れる。
雨粒が葉に残り、夕陽を受けてきらきら輝いていた。
まるで宝石のようだ。
そして。
ぽろん。
ぽろん。
音はさらに近づく。
「誰だろう……」
ひかりはそっと足音を殺した。
公園の奥。
大きな桜の木の下。
そこに一人の少女がいた。
制服姿。
長い黒髪。
ギターを抱えている。
その横顔はどこか寂しそうで。
でも。
演奏だけは優しかった。
「きれい……」
思わず漏れた言葉。
すると。
演奏が止まった。
「誰?」
少女が振り向く。
ひかりは飛び上がった。
「ひゃっ!?」
「……」
「ご、ご、ごめんなさい!」
「え?」
「盗み聞きするつもりじゃなくて!」
「いや、別に怒ってないけど」
少女は少し首を傾げた。
「そんなに慌てなくても」
「すみません……」
「面白い子ね」
くすっと笑う。
ひかりはさらに赤くなった。
(やばい……絶対変な子だと思われた……)
少女はギターを抱え直す。
「音楽好きなの?」
「え?」
「さっき、『きれい』って言ったでしょ」
「そ、それは……」
ひかりは勇気を振り絞った。
「すごく素敵な音だったから……」
少女は少し驚いた顔をした。
「そう」
その表情が少し柔らかくなる。
「ありがとう」
その一言だけなのに。
なぜかひかりの胸は高鳴った。
夕暮れ。
雨上がり。
蛍が飛び始める季節。
まだ名前も知らない少女との出会い。
それが――
すべての始まりだった。
第2節 あのメロディの正体
「ありがとう」
少女がそう言ったあと。
二人の間には少しだけ沈黙が流れた。
雨上がりの風。
葉の雫がぽたりと落ちる。
ひかりは何を話せばいいのかわからなかった。
(どうしよう……)
(帰った方がいいかな……)
(でも、もっと話してみたい……)
少女が先に口を開いた。
「あなた、この辺の学校?」
「え?」
「制服」
「あっ、はい!」
ひかりは慌てて頷く。
「桜ヶ丘高校です!」
「私も」
「えっ!?」
思わず大きな声が出る。
「同じ学校!?」
「うん」
少女は少し笑った。
「二年生だけど」
「せ、先輩だったんですか!?」
「そんなに驚く?」
「だって学校で見たことなくて……」
「私もあなた見たことない」
「ですよね……」
ひかりは肩を落とした。
少女はまた小さく笑う。
「名前は?」
「あ、星宮ひかりです!」
「ひかり」
少女はその名前を口の中で転がすように呟いた。
「私は雨宮しずく」
「しずく先輩!」
「先輩はいらない」
「え?」
「しずくでいい」
「で、でも……」
「いいから」
「は、はい!」
しずくはギターを抱き直した。
「それで?」
「え?」
「何でここに来たの?」
「ギターの音が聞こえたから……」
「そんな理由で?」
「すごく綺麗な音だったんです」
ひかりは少し照れながら言った。
「なんだか……アニメのワンシーンみたいで」
その瞬間。
しずくの目が少し大きくなる。
「アニメ?」
「はい!」
ひかりの声が弾む。
「私アニメ大好きなんです!」
「へぇ」
「毎クール十本以上見ます!」
「それは多い」
「今季なら『スターライト・メロディ』とか最高で!」
「知ってる」
「えっ!?」
ひかりの目が輝いた。
「知ってるんですか!?」
「オープニング曲が好き」
「ですよね!?」
「サビの転調が綺麗」
「わかります!!」
ひかりは思わず前に出た。
「あと第八話のライブ回!」
「文化祭の話?」
「そうですそうです!」
「良かった」
「神回ですよね!?」
「うん」
しずくは静かに頷いた。
ひかりは感動していた。
学校でアニメの話をできる人はほとんどいない。
なのに。
この人は全部わかる。
「嬉しい……」
「何が?」
「アニメの話ができる人初めてかも」
「そんなに?」
「はい」
しずくは少し考える。
「私もあんまりいないかな」
「本当ですか?」
「ギターの話ならいるけど」
「ギター……」
ひかりはそっとケースを見る。
「しずくさんってバンドやってるんですか?」
「昔少し」
「え?」
「中学の頃」
「そうなんですか!」
「今は一人」
その言葉には少し寂しさが混じっていた。
ひかりは聞くべきか迷う。
しかし。
しずくは自分から話した。
「メンバーが引っ越したから」
「あ……」
「自然消滅」
「そうだったんですね……」
「だから今はここで弾いてる」
しずくは空を見上げた。
「ここ、落ち着くから」
ひかりも見上げる。
夕焼けが少しずつ夜に変わっていた。
その時。
小さな光が現れる。
ふわり。
ふわり。
「え……」
ひかりは息を呑んだ。
「蛍……」
一匹。
また一匹。
淡い緑の光が公園を漂う。
まるで星が地上に降りてきたようだった。
「綺麗……」
「この公園の名前の由来」
しずくが言う。
「毎年この時期になると出る」
「初めて見ました……」
「本当に?」
「はい」
「じゃあ運がいい」
蛍の光が二人の間を通り過ぎる。
静かな時間。
まるで世界が止まったようだった。
しずくはギターを構える。
「聴く?」
「え?」
「さっきの続き」
「いいんですか!?」
「うるさくないなら」
「絶対うるさくしません!」
しずくは苦笑する。
そして。
優しいアルペジオが流れ始めた。
雨の匂い。
蛍の光。
夕暮れの風。
すべてが音楽に溶け込んでいく。
ひかりは夢中で聴いた。
曲が終わる。
「どう?」
「すごいです……」
「そう?」
「まるでアニメのエンディングみたい」
しずくは少し驚いた顔をした。
「面白い感想」
「本当です!」
ひかりは真剣だった。
「主人公たちがライブを終えて」
「うん」
「みんなで帰り道を歩いて」
「うん」
「そして未来へ続いていく感じ」
しずくは静かに笑う。
「それ、いいかも」
「え?」
「そんな曲作ってみたい」
ひかりの胸が高鳴る。
「曲を……?」
「うん」
しずくはひかりを見る。
「ひかり」
「はい!」
「アニメ好きなんでしょ?」
「大好きです!」
「じゃあ今度」
しずくは少しだけ笑った。
「一緒に曲作ってみる?」
「えっ……?」
突然の言葉だった。
ひかりは目を丸くする。
「私と……ですか?」
「嫌ならいいけど」
「い、嫌じゃないです!」
しずくは頷いた。
「じゃあ決まり」
蛍が夜空を舞う。
その光は。
まだ小さな夢の始まりを照らしていた。
後に『蛍色メロディーズ』と呼ばれることになる物語は――
この約束から動き始めるのだった。
第3節 放課後の空き教室
翌日。
昼休み。
ひかりは何度もスマホを見ていた。
「……」
画面には昨日交換した連絡先。
雨宮しずく。
その名前を見るだけで少し緊張する。
(本当に曲作りするんだ……)
(夢じゃなかった……)
その時。
スマホが震えた。
『放課後、旧校舎三階の音楽準備室』
『来れる?』
ひかりは飛び上がりそうになった。
「き、来た!」
慌てて返信する。
『行きます!!』
送信。
三秒後。
『!が多い』
「うっ……」
思わず机に突っ伏した。
クラスメイトが不思議そうに見る。
「星宮さん大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
全然大丈夫じゃなかった。
心臓がうるさい。
放課後が待ち遠しいなんて初めてだった。
◇
放課後。
旧校舎。
生徒の少ない廊下。
少し古い木の床がきしむ。
「ここか……」
音楽準備室。
小さなプレートが掛かっている。
ひかりは深呼吸した。
コンコン。
「失礼します……」
扉を開ける。
「遅い」
しずくだった。
窓際に座りギターを抱えている。
「ご、ごめんなさい!」
「五分前」
「え?」
「まだ約束の時間じゃない」
「じゃあ遅れてない!?」
「うん」
「紛らわしいです!」
しずくは小さく笑う。
それだけで少し嬉しい。
部屋の中には古い楽器や譜面台が並んでいた。
「ここ、使っていいんですか?」
「先生公認」
「そうなんですね」
「音楽部が使わなくなった部屋」
「秘密基地みたい」
「ちょっとわかる」
ひかりは部屋を見回した。
胸がわくわくする。
まるでアニメの秘密結社みたいだ。
「それで」
しずくが切り出した。
「昨日の話」
「曲作り……ですよね」
「うん」
「でも私、楽器弾けませんよ?」
「知ってる」
「え?」
「雰囲気でわかる」
「そんなぁ」
しずくは少し考える。
「ひかりは言葉が得意そう」
「言葉?」
「昨日の感想」
「感想?」
「エンディングみたいってやつ」
「あ……」
「普通あんな表現出てこない」
ひかりは照れた。
「アニメいっぱい見てるからです」
「それ才能」
「そうですか?」
「少なくとも私は思う」
その言葉が嬉しかった。
今まで誰にも言われたことがない。
「何か書いてみて」
「え?」
「歌詞」
「いきなり!?」
「いきなり」
しずくはノートを差し出した。
「ほら」
「うぅ……」
ひかりは受け取る。
白いページ。
ペン。
何を書けばいいのかわからない。
しかし。
昨日の蛍。
雨上がりの公園。
ギターの音。
それを思い出した瞬間。
自然とペンが動いた。
――雨上がりの空に
小さな光が揺れていた
君と見上げた夜は
未来へ続くメロディ――
「……」
しずくが黙る。
ひかりは急に恥ずかしくなった。
「やっぱり変ですよね!?」
「変じゃない」
「本当に?」
「むしろ悔しい」
「え?」
「私こんなの書けない」
ひかりは目を丸くした。
「それ褒めてます?」
「かなり」
その時だった。
ガラッ!!
突然扉が開く。
「しずく先輩いるー!?」
元気いっぱいの声。
ひかりはびくっとした。
入ってきたのはポニーテールの少女だった。
「いたー!!」
「うるさい」
「わー!また冷たい!」
少女は勝手に部屋へ入る。
そして。
ひかりを見た。
「おおっ!?」
「え?」
「新入部員!?」
「違います!」
「じゃあ隠し子!?」
「もっと違います!!」
「漫才?」
しずくが呆れた声を出した。
少女は笑う。
「初めまして!」
元気よく敬礼。
「夏川ほたるです!」
「星宮ひかりです」
「知ってる!」
「えっ!?」
「一年生でしょ?」
「な、なんで?」
「見たことあるから!」
ほたるは人懐っこく笑う。
まるで太陽みたいだった。
「しずく先輩の友達?」
「ち、違うというか……」
「友達」
しずくが言う。
「えっ」
ひかりは固まった。
「とも……だち……」
「嫌だった?」
「嫌じゃないです!!」
ほたるは爆笑した。
「なにそれ可愛い!」
「うぅ……」
顔が熱い。
しずくは平然としている。
ほたるは机の上のノートを見つけた。
「ん?」
ぱらり。
「あっ」
ひかりが止める間もない。
「歌詞!?」
「返してくださいー!!」
「待って!」
ほたるは読み始める。
数秒後。
目を輝かせた。
「すごい!」
「え?」
「これ書いたの?」
「はい……」
「めちゃくちゃ青春じゃん!」
ひかりは固まる。
ほたるはさらに叫んだ。
「決めた!!」
「何をですか?」
「バンドやろう!!」
「へ?」
「バンド!」
「え?」
「私ベース弾ける!」
「ええっ!?」
「しずく先輩ギター!」
「うん」
「ひかりちゃん作詞!」
「えぇぇぇ!?」
ほたるは両手を広げる。
まるでライブ会場の中心に立つように。
「絶対面白いじゃん!!」
ひかりはしずくを見る。
しずくも少し驚いていた。
だが。
完全には否定していない。
窓の外では夕陽が傾いていた。
まだ冗談みたいな話。
だけど。
この瞬間。
『蛍色メロディーズ』の未来は、
確かに動き始めていた。
そして次に必要なのは――
四人目の仲間だった。
第4節 四人目の鼓動
翌日の昼休み。
「つまり!」
ほたるが机を叩いた。
「あと一人集まればバンド完成!!」
「声大きい……」
しずくが呟く。
「だってワクワクするじゃないですか!」
「まだ決まってない」
「決まってます!」
「決まってない」
「決まってる!」
「決まってない」
「決まってる!」
「小学生?」
しずくの一言でほたるが黙った。
ひかりは思わず吹き出した。
「ふふっ」
「ひかりちゃん笑った!」
「ご、ごめん」
「今のしずく先輩面白かった!」
「面白くない」
「ツンデレだ!」
「違う」
そんなやり取りをしていると。
廊下から規則正しい足音が聞こえた。
コツ。
コツ。
コツ。
ほたるが急に背筋を伸ばす。
「来た」
「え?」
「誰?」
ひかりが聞く。
ほたるは真顔になった。
「生徒会最終兵器」
「怖い」
「歩く校則」
「もっと怖い」
ガラッ。
扉が開いた。
入ってきたのは長い黒髪を後ろで束ねた女子生徒だった。
凛とした雰囲気。
背筋が真っ直ぐ伸びている。
「夏川さん」
「はい!」
ほたるが反射的に立つ。
「ここは音楽準備室です」
「そうですね!」
「昼休みに騒がない」
「はい!」
「机を叩かない」
「はい!」
「廊下を走らない」
「はい!」
「寄り道してクレープを食べない」
「なんで知ってるの!?」
「見たからです」
ほたるが撃沈した。
ひかりは笑いを堪える。
「ぷっ……」
しずくも少し口元が緩んでいた。
女子生徒がこちらを見る。
「そちらは?」
「ひゃい!」
思わず変な返事が出た。
「ひゃい?」
「はいです!」
「落ち着いてください」
「すみません!」
女子生徒は小さくため息をつく。
「私は月城レイナ」
「星宮ひかりです!」
「一年生ですね」
「はい!」
「覚えました」
「記憶力いい!」
レイナは無表情のまま頷いた。
「生徒会なので」
「なるほど!」
よく分からないが納得した。
その時。
ほたるがニヤニヤし始める。
「レイナ先輩」
「何ですか」
「ドラムやりません?」
沈黙。
部屋の空気が止まった。
「嫌です」
即答だった。
「はやっ!」
ほたるが叫ぶ。
「まだ一秒!」
「嫌なものは嫌です」
「そんなぁ!」
レイナは冷静だった。
「私は忙しいので」
「昔やってたじゃないですか」
「それは昔です」
「全国大会行ったじゃないですか」
「昔です」
「ドラム超上手いじゃないですか」
「昔です」
「全部昔で逃げた!」
ひかりは目を丸くした。
(全国大会!?)
(この人そんな凄い人なの!?)
レイナは視線を逸らす。
少しだけ表情が曇った。
「もうやりません」
「なんで?」
「理由はありません」
「絶対ある!」
「ありません」
「ある!」
「ありません」
「しずく先輩!」
「また始まった」
しずくが呆れる。
どうやらいつものことらしい。
ほたるは突然レイナの腕を掴んだ。
「来て!」
「離してください」
「いいから!」
「引っ張らないでください!」
「一曲だけ!」
「聞きません!」
「聞いてから断って!」
「聞きません!」
「頑固!」
「あなたもです!」
ついにレイナがツッコんだ。
ひかりは笑ってしまう。
「仲良いですね」
「良くないです!」
レイナとほたるの声が揃った。
「揃った!」
ひかりが言うと。
今度はしずくまで吹き出した。
「ふっ……」
「しずく先輩笑った!?」
ほたるが驚く。
「珍しい」
「今日は雪かな」
「六月です」
レイナが即座に返した。
なんだか。
この部屋だけ少し温かい。
昨日まで一人だった自分が。
今はみんなと笑っている。
それが不思議だった。
しずくがギターを手に取る。
「レイナ」
「何ですか」
「一曲だけ」
「……」
「聞いて」
レイナは黙る。
しずくは続けた。
「ひかりが歌詞を書いた」
「え?」
レイナの視線がひかりに向いた。
「あなたが?」
「は、はい」
「初心者ですけど……」
「見せてください」
ノートを渡す。
レイナは静かに読み始めた。
数十秒。
部屋が静まる。
やがて。
レイナが顔を上げた。
「綺麗な言葉ですね」
ひかりは固まった。
「え?」
「雨と光景が見える」
「ほ、本当ですか?」
「はい」
生まれて初めてだった。
こんな風に言葉を褒められたのは。
胸が熱くなる。
しずくがギターを鳴らす。
ほたるが机を叩いてリズムを作る。
「ドラム代わり!」
「机を叩かない」
レイナが言った。
しかし。
その直後。
机の上を指先で軽く叩いた。
タン。
タン。
タン。
一定のリズム。
正確で美しい。
ほたるが目を輝かせる。
「乗った!!」
「違います」
「乗った!」
「違います」
「乗った!」
「……少しだけです」
ほたるがガッツポーズした。
ひかりは笑う。
しずくも笑う。
レイナだけが少し照れていた。
四人の音。
まだ未完成。
まだバラバラ。
だけど。
その瞬間。
確かに一つの鼓動が生まれていた。
夕陽が差し込む音楽準備室。
ほたるが両手を高く上げる。
「よーし!」
「何ですか」
レイナが聞く。
ほたるは満面の笑みで宣言した。
「今日から私たちは――」
一拍置く。
「ガールズバンドです!!」
「まだ名前がありません」
レイナが言う。
「じゃあ考えよう!」
「急ですね」
「だってアニメならここで決まる!」
「メタ発言やめて」
しずくが呟く。
ひかりは窓の外を見る。
夕暮れ。
雨上がりの空。
そして遠くで揺れる小さな光。
あの日見た蛍を思い出した。
「……蛍色」
「え?」
三人が振り向く。
ひかりは少し恥ずかしそうに言った。
「蛍色メロディーズ……とか」
静寂。
そして。
ほたるが叫んだ。
「それだーーーーっ!!」
こうして――
四人の少女たちの青春物語、
『蛍色メロディーズ』
が始まったのだった。
第2章 初夏のリズム
第1節 はじめてのスタジオ
バンド結成から一週間後。
放課後。
音楽準備室。
「重大発表があります!」
ほたるが机の上に立った。
「降りてください」
レイナが即座に言う。
「まだ何も言ってない!」
「机に乗るなと言っています」
「細かい!」
「校則です」
「歩く校則来た!」
「誰がですか」
「目の前に」
「降りなさい」
「はい」
ほたるが即座に降りた。
ひかりは笑いを堪える。
最近ずっとこんな感じだった。
「それで?」
しずくが聞く。
ほたるは胸を張った。
「スタジオ予約しました!」
沈黙。
三秒。
「え?」
ひかりが固まる。
「スタジオ?」
「うん!」
「本物の?」
「本物の!」
「ライブハウスとかにある?」
「そう!」
「えええぇぇぇ!?」
ひかりの声が裏返った。
「早くない!?」
「早くないよ!」
「結成一週間!」
「勢い大事!」
「初心者なんだけど!?」
「気にしない!」
「気になるよ!?」
ほたるは満面の笑みだった。
レイナが頭を押さえる。
「予約金いくらですか」
「三千円」
「払ったんですか」
「払った!」
「勝手に?」
「うん!」
「相談してください」
「結果オーライ!」
「アウトです」
ほたるは全く反省していなかった。
しずくがぼそりと呟く。
「行くだけ行こう」
「しずく先輩まで!?」
ひかりが叫ぶ。
「本気ですか?」
「練習になる」
「でも私何もできません!」
「歌詞書ける」
「それだけ!」
「十分」
ひかりは少し照れた。
しずくはこういう時だけ真っ直ぐ褒めてくる。
心臓に悪い。
◇
土曜日。
市内の音楽スタジオ。
「うわぁ……」
ひかりは建物を見上げた。
「本当に来ちゃった……」
入口には有名バンドのポスター。
ライブ告知。
機材広告。
全部が眩しい。
「帰る?」
しずくが聞く。
「帰りません!」
「即答」
「ここまで来たら!」
その時。
後ろから元気な声が飛んだ。
「おはようございまーーーす!!」
ほたるだった。
そして。
「朝から元気ですね」
レイナもいる。
「だって初スタジオだよ!?」
ほたるが跳ねる。
「青春だよ!?」
「近所迷惑です」
「まだ叫んでない!」
「十分うるさいです」
いつものやり取りだった。
◇
スタジオ内。
「すごい……」
ひかりは感動していた。
防音室。
アンプ。
ドラムセット。
マイク。
本物だ。
完全にアニメの世界だった。
「触っていい?」
「壊さないなら」
しずくが言う。
ひかりはマイクを持った。
「てすてす」
スピーカーから声が響く。
「おぉぉぉ!」
「感動してる」
しずくが笑う。
ほたるは既にベースを抱えていた。
「見て!」
「どうしたの?」
「かっこいい!?」
「うん」
「写真撮って!」
「自撮りしなよ」
「角度が大事なの!」
その横で。
レイナは黙々とドラムの高さを調整していた。
プロっぽい。
「レイナ先輩」
ひかりが話しかける。
「はい」
「緊張しないんですか?」
「します」
「え?」
「心拍数上がっています」
「全然見えない!」
「表に出ないだけです」
ほたるが割り込む。
「レイナ先輩昔大会出てたもんね!」
「昔です」
「また出た!」
「昔です」
「便利な言葉!」
「便利なので」
◇
練習開始。
しずくがカウントを取る。
「ワン、ツー、スリー、フォー」
ギター。
ベース。
ドラム。
そして――
ドガァン!!
ベン!!
ガシャーン!!
「ぎゃーーー!!」
ひかりが悲鳴を上げた。
全員止まる。
「何これ!?」
「音楽」
しずくが言う。
「違う!」
「音楽です」
「工事現場だった!」
ほたるが吹き出した。
レイナも肩を震わせている。
「まだ合ってない」
しずくが言う。
「全然!」
「初心者だから」
「安心した!」
ひかりは胸をなで下ろした。
ほたるが言う。
「もう一回!」
「おー!」
「待って!」
ひかりが止める。
「何ですか?」
レイナが聞く。
「今の録音されてないよね?」
「されてません」
「良かった……」
しかし。
ほたるがスマホを掲げた。
「してるよ!」
全員が固まる。
「は?」
しずくが言う。
「記念に!」
「消して」
「え?」
「今すぐ」
「え?」
「今すぐ」
しずくの圧が凄かった。
ほたるは震えながら削除した。
「ひぃぃぃ!」
「英断です」
レイナが頷く。
◇
二時間後。
汗だく。
へとへと。
でも。
少しだけ音が揃い始めていた。
しずくがギターを置く。
「どう?」
ほたるが聞く。
ひかりは笑った。
「楽しい」
「だよね!」
「すごく楽しい」
本当にそうだった。
一人でアニメを見ていた頃には知らなかった感覚。
みんなで一つの音を作る。
失敗して。
笑って。
またやり直す。
それが嬉しかった。
窓の外。
雨上がりの空に夕陽が差し込む。
しずくが静かに言った。
「もっと上手くなりたい」
ほたるが頷く。
「なろう!」
レイナも言う。
「やるなら本気です」
ひかりも拳を握った。
「私も!」
まだ未熟。
まだ下手。
だけど。
四人の夢は少しずつ音になり始めていた。
そしてその頃――
彼女たちはまだ知らない。
県内最強ガールズバンド
『Black Lily』
との運命的な出会いが、
すぐそこまで迫っていることを。
第2章 初夏のリズム
第2節 それぞれの夢
スタジオ練習から数日後。
放課後。
音楽準備室。
外ではしとしと雨が降っていた。
六月らしい空模様。
ひかりはノートに歌詞を書いていた。
すると。
ガラッ!
「大ニュースです!!」
ほたるだった。
「毎日大ニュース」
しずくが言う。
「今回は本物!」
「前回も言ってた」
「今回は超本物!」
「信用度ゼロ」
「ひどい!」
ほたるが机に突っ伏した。
レイナが冷静に聞く。
「内容は?」
ほたるは顔を上げた。
「私たち、バンドっぽくなってきた!」
沈黙。
三秒。
五秒。
七秒。
「帰っていい?」
しずくが言った。
「なんでぇ!?」
「聞く価値なかった」
「あるよ!」
「ない」
「ある!」
「ない」
「ある!」
「また始まった」
レイナが呟く。
ひかりは笑いを堪えながら言った。
「でも少し分かるかも」
「でしょ!?」
ほたるが食いつく。
「最初より仲良くなったし」
「うん」
「確かに」
しずくも頷く。
レイナも否定しなかった。
すると。
ほたるが急にニヤリと笑った。
嫌な予感しかしない。
「じゃあさ」
「何ですか」
レイナが聞く。
「質問大会しよう!」
「嫌です」
「即答!?」
「嫌な予感しかしません」
「大丈夫!」
「大丈夫じゃない時に言うやつです」
「レイナ先輩詳しい!」
「あなたで慣れました」
ひかりが吹き出した。
「ふふっ」
ほたるは構わず続ける。
「まずは!」
指をしずくに向けた。
「しずく先輩!」
「何」
「なんでギター始めたの?」
少しだけ。
しずくの表情が変わった。
窓の外を見る。
雨音が聞こえる。
「兄」
「お兄さん?」
「うん」
「へぇ!」
「昔、よく弾いてた」
しずくは静かに言った。
「小さい頃、隣で聴いてた」
「それで?」
「気付いたら自分も弾いてた」
ほたるが笑う。
「かっこいい!」
「そう?」
「アニメなら完全に回想シーン!」
「またアニメ基準」
レイナが呆れる。
しずくは少し笑った。
「でも」
「?」
「今は自分のために弾いてる」
その言葉には強さがあった。
ひかりは少し見惚れてしまう。
(かっこいいなぁ……)
「次!」
ほたるが今度はレイナを指差す。
「レイナ先輩!」
「嫌です」
「まだ聞いてない!」
「どうせドラムの話です」
「正解!」
「帰ります」
「待ってぇ!」
レイナが立ち上がる。
ほたるが腕を掴む。
ひかりは笑いが止まらない。
「仲良しだね」
「違います」
二人同時だった。
「また揃った!」
「揃ってません」
「揃ってるよ!」
レイナは諦めたように座り直した。
「少しだけですよ」
「やったー!」
ほたるがガッツポーズ。
「私の家、音楽一家なんです」
「へぇ」
ひかりが聞く。
「父がドラマー」
「えっ!?」
「母がピアノ講師」
「すごい!」
「幼稚園からドラム叩いてました」
「だから上手いんだ」
レイナは少しだけ視線を落とした。
「でも」
「?」
「上手いだけじゃ駄目だと知りました」
部屋が静かになる。
「昔のバンドで」
レイナは続けた。
「私だけが勝ちにこだわってた」
誰も喋らない。
「気付いたら」
「うん」
「誰も笑ってなかった」
ひかりの胸が少し痛くなる。
「だから辞めたんです」
「レイナ先輩……」
ほたるが珍しく真面目な顔をした。
すると。
レイナは続けた。
「それなのに」
「?」
「今は毎日うるさい人がいます」
「誰のこと!?」
「心当たりあるんですか」
「いっぱいある!」
全員吹き出した。
空気が軽くなる。
さすがレイナだった。
◇
「じゃあ次!」
ほたるが胸を張る。
「私!」
「誰も聞いてない」
しずくが言う。
「聞いて!」
「どうぞ」
「ありがとう!」
ほたるは咳払いした。
そして。
真顔になる。
「私ね」
「うん」
「友達いなかった」
沈黙。
「え?」
ひかりが固まる。
「嘘!?」
「みんなそう言う!」
ほたるが笑った。
「小学校の頃は人見知りだったんだよ」
「信じられない」
「自分でも信じられない!」
「説得力ゼロ」
しずくが言う。
ほたるは頷いた。
「でも本当」
「へぇ……」
「音楽始めてから変わった」
「どうして?」
「話すきっかけができたから」
ひかりは少し考えた。
確かにそうかもしれない。
好きなものがあると人と繋がれる。
「だからね」
ほたるが笑う。
「音楽に感謝してる」
その笑顔は本物だった。
◇
最後。
みんなの視線が集まる。
「ひかりちゃん」
「え?」
「次はひかりちゃん!」
「私!?」
逃げ場がなかった。
「えっと……」
「うん」
「私は……」
少しだけ考える。
窓の外の雨を見る。
「友達が少なくて」
「うん」
「アニメばっかり見てた」
「うん」
「主題歌が好きだった」
しずくが静かに聞いている。
「オープニングを聴くと」
「うん」
「主人公になれた気がした」
誰も笑わない。
「だから」
ひかりは少し照れながら言った。
「いつかそんな曲を作りたいと思った」
静かな時間。
そして。
しずくが言った。
「作れる」
ひかりが顔を上げる。
「え?」
「絶対」
レイナも頷いた。
「私もそう思います」
ほたるは立ち上がった。
「じゃあ決定!」
「何が」
しずくが聞く。
ほたるは満面の笑みで宣言した。
「未来のアニメ主題歌バンド!」
「気が早い」
「でもいいかも」
ひかりが笑った。
しずくも笑う。
レイナも少しだけ笑った。
雨音はいつの間にか止んでいた。
窓の外には薄い夕焼け。
それぞれ違う夢。
違う過去。
だけど。
四人の進む方向は少しずつ重なり始めていた。
そして次の雨の日。
彼女たちは運命の出会いを迎える。
県内最強のガールズバンド――
『Black Lily』
との出会いを。
第3節 雨宿りセッション
六月。
放課後。
空は朝から曇っていた。
そして。
予想通り。
ザーーーーッ!!
「うわぁぁぁぁ!!」
ほたるが叫んだ。
「降ってきたーーー!!」
「天気予報通りです」
レイナが言う。
「予報士すごい!」
「そこ?」
ひかりは笑いながら窓を見る。
大粒の雨。
まるで空がひっくり返ったみたいだった。
「今日は帰れないかも」
しずくが呟く。
「じゃあ練習だ!」
ほたるが拳を上げる。
「元気ですね」
「青春だから!」
「便利な言葉」
レイナがため息をついた。
◇
音楽準備室。
ギター。
ベース。
ドラムパッド。
そして歌詞ノート。
いつもの場所。
いつもの四人。
「よし!」
ほたるが立ち上がる。
「今日の目標!」
「何ですか」
レイナが聞く。
「完璧な演奏!」
沈黙。
「無理」
しずく。
「無理ですね」
レイナ。
「無理だね」
ひかり。
「みんな酷い!」
ほたるが机に突っ伏した。
その時だった。
廊下の向こうから音が聞こえた。
ジャーン。
「ん?」
しずくが顔を上げる。
ジャカジャカジャーン。
ベース。
ドラム。
キーボード。
そして歌。
明らかに自分たちより上手い。
「誰?」
ひかりが呟く。
ほたるは立ち上がった。
「偵察だ!」
「やめなさい」
レイナが止める。
「大丈夫!」
「大丈夫じゃない」
「大丈夫!」
「だから」
しかし。
もう遅かった。
ほたるは廊下へ飛び出した。
「行っちゃった……」
ひかりが苦笑する。
「追う?」
しずくが聞く。
「行かないと何するかわからない」
レイナが即答した。
◇
音楽室前。
ほたるが扉に張り付いていた。
「うおぉ……」
「何してるんですか」
レイナが呆れる。
「すごい」
「だから何が」
「すごい」
語彙力が消失していた。
しずくがそっと扉の小窓から覗く。
そして。
少しだけ目を見開いた。
「……」
「しずく先輩?」
ひかりも覗く。
次の瞬間。
言葉を失った。
音楽室の中。
四人組のガールズバンド。
演奏が圧倒的だった。
息が合っている。
音が生きている。
楽しそうなのに隙がない。
まるでプロみたいだった。
「すごい……」
ひかりが呟く。
その時。
ボーカルの少女が歌い終えた。
拍手。
歓声。
そして。
「そこ」
声が飛んだ。
「覗き見は感心しないな」
「ひぇぇぇ!?」
ほたるが飛び上がる。
見つかった。
完全に。
◇
数分後。
音楽室。
なぜか全員正座。
「ごめんなさい」
ほたる。
「ごめんなさい」
ひかり。
「ごめんなさい」
しずく。
「私は止めました」
レイナ。
「裏切った!?」
ほたるが叫ぶ。
「事実です」
「ひどい!」
向かい側にいた少女が笑った。
長い黒髪。
鋭い目。
圧倒的な存在感。
「面白い子たちだね」
ほたるが小声で聞く。
「誰?」
レイナが答えた。
「知らないんですか」
「うん」
「県大会優勝候補」
「え?」
「Black Lily」
ほたるが固まった。
「え?」
「え?」
「ええぇぇぇ!?」
今度は全員が耳を塞いだ。
「うるさい」
しずくが言う。
「ごめん!」
ほたるが小さくなる。
黒髪の少女が笑った。
「私は神崎美月」
「神崎……美月」
ひかりは名前を繰り返す。
なんだろう。
オーラが違う。
まるでアニメのライバルキャラだ。
「君たちは?」
「蛍色メロディーズです!」
ほたるが即答した。
「結成二週間!」
「言わなくていい」
しずくが頭を抱える。
美月は少し笑った。
「なるほど」
「まだ初心者です!」
「言わなくていい!」
「全部言う!」
「やめて!」
漫才が始まった。
Black Lilyのメンバーが吹き出している。
◇
その後。
なぜか交流会になった。
「曲作ってるの?」
美月が聞く。
「はい」
ひかりが答える。
「歌詞担当です」
「そうなんだ」
「まだ下手ですけど……」
「下手じゃない」
突然。
しずくが言った。
ひかりが固まる。
「しずくさん?」
「下手じゃない」
二回言った。
レイナが小さく笑う。
「珍しいですね」
「事実」
ひかりは顔が熱くなった。
◇
すると。
美月が立ち上がった。
「せっかくだ」
「?」
「一緒に音出してみる?」
全員固まる。
「え?」
ほたる。
「え?」
ひかり。
「え?」
しずく。
「え?」
レイナ。
「全員同じ反応」
美月が笑う。
◇
数分後。
即興セッション開始。
美月のギター。
しずくのギター。
ほたるのベース。
レイナのドラム。
ひかりは歌詞ノートを抱えて見守る。
そして。
音が鳴った瞬間。
全員が理解した。
レベルが違う。
圧倒的だった。
音楽で会話しているみたい。
「すごい……」
ひかりは呟く。
悔しい。
でも。
楽しい。
そして。
憧れる。
演奏が終わる。
静寂。
美月が言った。
「君たち」
「はい」
「面白い」
ほたるが喜ぶ。
「やったー!」
「でも」
空気が変わった。
美月の瞳が真剣になる。
「今のままじゃ勝てない」
誰も喋らない。
「もっと上を目指しな」
静かな言葉だった。
だけど。
強く胸に残った。
雨はいつの間にか止んでいた。
窓の向こう。
夕焼けが広がっている。
ひかりは空を見る。
悔しい。
だけど。
その何倍も。
ワクワクしていた。
いつか。
あの人たちと同じステージに立ちたい。
いつか。
あの人たちに追いつきたい。
その想いが。
四人の心に初めて生まれたのだった。
第4節 蛍色の誓い
Black Lilyとの出会いから数日後。
音楽準備室。
「よし!」
ほたるが叫んだ。
嫌な予感しかしない。
「今度は何ですか」
レイナが聞く。
「決めました!」
「だから何を」
「私たち!」
胸を張る。
「文化祭ライブ出ます!!」
沈黙。
三秒。
五秒。
八秒。
「誰が決めた」
しずくが聞く。
「私!」
「帰れ」
「ひどい!」
ほたるが机に突っ伏した。
ひかりは吹き出す。
「ふふっ」
「笑わないで!」
「ごめん!」
しかし。
レイナが一枚の紙を手に取った。
「……」
「どうしたの?」
ひかりが聞く。
「文化祭ステージ募集要項です」
全員が固まる。
「え?」
「え?」
「え?」
「本当に持ってきたの!?」
ほたるが胸を張った。
「当然!」
「当然じゃない!」
「行動力!」
「暴走力です」
レイナが訂正した。
◇
募集要項にはこう書かれていた。
『文化祭メインステージ出演バンド募集』
「うわぁ……」
ひかりの声が震える。
本当にある。
アニメで見たやつだ。
「出たい?」
しずくが聞く。
ひかりは紙を見る。
ステージ。
照明。
観客。
ライブ。
夢みたいな場所。
「出たい」
自然と言葉が出た。
「私も!」
ほたる。
「異議なし」
レイナ。
全員の視線がしずくへ向く。
しずくは少しだけ笑った。
「出よう」
その一言で決まった。
◇
しかし。
問題があった。
「曲がない」
レイナが言う。
全員沈黙。
「そうだった」
ほたる。
「忘れてた」
しずく。
「忘れないで!?」
ひかりが叫んだ。
「ライブって曲必要なの!?」
「必要です」
レイナが即答する。
「重大案件だ!」
ほたるが騒ぐ。
「今気付いたんですか」
「うん!」
「元気に言わない」
◇
その後。
四人は作戦会議を始めた。
「まずテーマ」
しずく。
「青春!」
ほたる。
「雑」
レイナ。
「じゃあ友情!」
ほたる。
「雑」
レイナ。
「じゃあ恋!」
ほたる。
「誰の」
レイナ。
「知らない!」
「却下」
即終了だった。
ひかりは笑いながらノートを開く。
「私ね」
「うん」
「雨上がりって好きなんだ」
「ほう」
しずくが聞く。
「あと蛍」
「ほう」
「友達」
「ほう」
「音楽」
「ほう」
「アニメ」
「最後だけ趣味」
レイナが突っ込んだ。
◇
ひかりは少し考える。
そして。
ノートに書いた。
『雨上がりの空の下』
『小さな光を追いかけて』
『迷いながら進む』
『私たちのメロディ』
部屋が静かになる。
しずくが頷いた。
「いい」
「本当?」
「うん」
レイナも微笑む。
「私も好きです」
ほたるは感動していた。
「ひかりちゃん天才!」
「そこまでじゃないよ!」
「天才!」
「違う!」
「天才!」
「だから!」
「また始まった」
しずくが呟く。
◇
夕方。
雨は止んでいた。
空には夕焼け。
そして。
小さな光。
「蛍だ」
ひかりが言った。
窓の外。
数匹の蛍が飛んでいる。
「綺麗」
ほたるが呟く。
珍しく静かだった。
「最初に会った日も」
しずくが言う。
「蛍がいた」
ひかりは笑った。
「覚えてるんだ」
「覚えてる」
短い言葉。
でも嬉しかった。
◇
レイナが立ち上がる。
「そろそろ帰りますか」
「待った!」
ほたるが叫んだ。
「まだある!」
「何ですか」
「円陣!」
全員が固まった。
「円陣?」
ひかり。
「円陣」
ほたる。
「部活じゃない」
しずく。
「でも青春です!」
ほたる。
「便利な言葉ですね」
レイナ。
◇
結局。
四人は輪になった。
「なんでやってるんだろう」
しずく。
「青春だから!」
ほたる。
「またそれ」
ひかりが笑う。
「じゃあ」
ほたるが手を差し出した。
「文化祭ライブ成功させるぞー!」
「おー!」
ひかり。
「おー」
しずく。
「おー」
レイナ。
そして最後。
ほたるが叫ぶ。
「いつかBlack Lilyに勝つぞー!!」
「それはまだ早い」
しずく。
「気持ちは大事!」
ほたる。
「まず演奏を合わせてください」
レイナ。
「正論やめて!」
ほたる。
全員が笑った。
夕焼けの中。
蛍の光が揺れる。
まだ未熟な四人。
だけど。
夢だけは誰よりも大きかった。
こうして――
『蛍色メロディーズ』
最初の目標。
文化祭ライブへの挑戦が始まるのだった。
そしてその頃。
誰も知らない場所で。
Black Lilyの神崎美月は静かに呟いていた。
「面白いな」
窓の外の夕焼けを見る。
「あの子たち」
ライバルの物語もまた。
少しずつ動き始めていた。
第3章 ライバルという光
第1節 Black Lily
文化祭まで一か月。
放課後。
音楽準備室。
「大変です」
レイナが言った。
全員固まる。
なぜなら。
レイナが「大変です」と言う時は本当に大変だからだ。
「なに!?」
ほたるが立ち上がる。
「隕石!?」
「違います」
「宇宙人!?」
「違います」
「校長先生が実はロボット!?」
「それは少し見たい」
しずくが言った。
「見たいんかい!」
ひかりがツッコむ。
レイナは咳払いした。
「文化祭ライブ出演バンド一覧です」
沈黙。
「……」
「……」
「……」
「それ早く言って!」
ほたるが叫ぶ。
◇
紙が机の上に置かれる。
出場バンド名。
参加団体。
出演順。
そして。
全員の目が止まった。
『Black Lily』
「うわぁ……」
ひかりが呟く。
「同じだ」
しずくも言う。
「出るんですね」
レイナ。
ほたるだけ異様に興奮していた。
「うおおおおお!!」
「静かに」
レイナ。
「ライバル!」
「まだ向こうは認識してません」
「ライバル!」
「聞いてください」
「ライバル!」
「会話にならない」
◇
その日の練習。
なぜか全員少し気合いが入っていた。
「もう一回」
しずく。
「おー!」
ほたる。
「はい」
レイナ。
「頑張る!」
ひかり。
演奏開始。
ジャーン!
ベン!
ドン!
ガン!
ピタッ。
止まった。
「なんで!?」
ほたるが叫ぶ。
「今ズレた」
レイナ。
「どこ!?」
「全部です」
「全部!?」
しずくが笑いを堪えている。
◇
一時間後。
二時間後。
三時間後。
「疲れたぁぁぁ……」
ほたるが床に転がった。
「床に寝ない」
レイナ。
「魂が抜けるぅぅ……」
「抜けません」
「抜ける!」
「抜けません」
いつものやり取りだった。
ひかりは少し笑った。
しかし。
しずくだけは窓の外を見ていた。
「しずくさん?」
「ん?」
「どうしたの?」
しずくは少し考えた。
そして。
ぽつりと言った。
「悔しい」
部屋が静かになる。
「……」
「……」
「……」
珍しかった。
しずくがそんな感情を口にするのは。
「Black Lily?」
ひかりが聞く。
しずくは頷いた。
「上手かった」
「うん」
「悔しい」
短い言葉。
でも重かった。
◇
翌日。
文化祭説明会。
体育館。
生徒が大勢集まっていた。
「人多い!」
ほたる。
「大声出さない」
レイナ。
「わくわくする!」
「それは分かります」
珍しくレイナが同意した。
ひかりは周囲を見回す。
すると。
見つけた。
「あ」
しずくも気付く。
体育館後方。
Black Lily。
神崎美月。
相変わらず存在感が凄い。
「本当にいた……」
ひかりが呟く。
「そりゃいる」
しずく。
「参加者だから」
◇
その時だった。
「やあ」
声がした。
全員振り向く。
「ひぇっ!」
ほたる。
神崎美月だった。
「反応が面白いな」
「びっくりした!」
「知ってる」
美月が笑う。
「元気?」
「元気!」
「結成二週間バンドです!」
沈黙。
しずくが頭を抱えた。
「もう一か月」
「細かい!」
「そこ大事」
レイナが頷く。
◇
美月は笑っていた。
「練習してる?」
「してます!」
ほたる。
「毎日!」
ひかり。
「頑張ってます」
レイナ。
美月は満足そうに頷く。
「そうか」
そして。
少しだけ真剣な顔になった。
「じゃあ楽しみにしてる」
「え?」
ひかり。
「文化祭」
「……」
「……」
「……」
その一言で。
空気が変わった。
遊びじゃない。
本気なんだ。
「私たちも負けない」
しずくが言った。
全員が驚く。
美月も少し目を見開いた。
そして。
笑った。
「いいね」
その笑顔は嬉しそうだった。
◇
説明会終了後。
帰り道。
夕焼け。
初夏の風。
四人は並んで歩いていた。
ほたるが突然立ち止まる。
「決めた」
「何ですか」
レイナ。
「文化祭」
「うん」
「Black Lilyを驚かせる」
「どうやって」
しずく。
ほたるは胸を張った。
「まず私が空を飛ぶ」
沈黙。
三秒。
五秒。
「却下」
レイナ。
「早い!」
「人類です」
「夢がない!」
「重力があります」
「強い!」
ひかりは笑いすぎて涙が出た。
しずくも珍しく声を出して笑った。
その笑い声は。
夕焼けの空へ溶けていく。
ライバルがいる。
追いかけたい背中がある。
だからもっと頑張れる。
だからもっと成長できる。
Black Lily。
それは越えるべき壁。
そして――
自分たちを照らしてくれる光でもあった。
第2節 届かない音
文化祭まで三週間。
音楽準備室。
「よし!」
ほたるが立ち上がった。
「今日は完璧!」
「毎回言ってる」
しずく。
「今日は違う!」
「昨日も言ってた」
レイナ。
「昨日とは今日の私が違う!」
「哲学ですか」
「青春!」
「便利な言葉ですね」
レイナが頷いた。
◇
演奏開始。
しずくがカウントを取る。
「ワン、ツー、スリー、フォー」
ジャーン!
ドン!
ベン!
そして――
ガチャッ!
止まった。
「なんでぇぇぇぇ!?」
ほたる。
「今のは私じゃない!」
「言ってない」
しずく。
「でも絶対私だと思った!」
「思った」
ひかり。
「思いました」
レイナ。
「裏切り者だ!」
◇
再開。
ジャーン!
ドン!
ベン!
ピタッ。
また止まる。
「今度は何!?」
ほたる。
レイナが冷静に言った。
「テンポ」
「テンポ?」
「走ってます」
「どこを!?」
「曲の中を」
「比喩だった!」
◇
さらに三十分後。
「もう一回」
しずく。
「はい」
レイナ。
「おー!」
ほたる。
「頑張る!」
ひかり。
演奏。
ジャーン!
今度は最後まで行った。
しかし。
静かだった。
誰も喜ばない。
「……」
「……」
「……」
「なんか違う」
ひかりが言った。
みんな頷く。
音は合っている。
間違ってはいない。
だけど。
何か足りない。
「Black Lilyなら」
ほたるが呟く。
「もっと凄いよね」
その言葉に。
全員が黙った。
◇
しずくがギターを置いた。
「悔しい」
またその言葉だった。
ひかりは少し驚く。
最近のしずくは以前より感情を口にするようになった。
「私たち」
しずく。
「全然届いてない」
「うん」
ひかり。
「分かる」
レイナ。
「私も」
ほたる。
珍しく全員同意だった。
◇
その時。
ほたるが突然立ち上がる。
「よし!」
嫌な予感。
「何ですか」
レイナ。
「Black Lilyの動画見よう!」
沈黙。
「勉強にはなる」
しずく。
「採用」
レイナ。
「やった!」
ほたる。
◇
数分後。
スマホの画面。
文化祭前年の映像。
Black Lily。
演奏開始。
そして。
全員固まった。
「うわぁ……」
ひかり。
「上手い」
しずく。
「上手いですね」
レイナ。
「上手い!」
ほたる。
語彙力が全滅した。
◇
動画終了。
静寂。
「勝てる気がしない」
ほたるが言った。
部屋が静かになる。
それは初めて聞く弱音だった。
「ほたる?」
ひかりが聞く。
「だってさ」
ほたるは笑った。
でも少し寂しそうだった。
「すごすぎるじゃん」
誰も否定できなかった。
◇
その時。
しずくが言った。
「勝つ必要ある?」
全員が見る。
「え?」
ほたる。
「勝つためにやってる?」
しずく。
「……」
「……」
「……」
誰も答えられない。
しずくは続けた。
「私は違う」
静かな声。
「楽しいから」
ひかりが微笑む。
その言葉はしずくらしい。
「私も」
ひかり。
「私もです」
レイナ。
「私も!」
ほたる。
少しだけ元気になった。
◇
しかし。
次の瞬間。
ほたるが立ち上がる。
「でも勝ちたい!」
全員吹き出した。
「どっち」
しずく。
「両方!」
「欲張り」
ひかり。
「青春だから!」
「またそれ」
レイナ。
◇
帰り道。
夕焼け。
四人は並んで歩いていた。
すると。
前方に人影が見えた。
「あ」
ひかりが止まる。
そこにいたのは――
神崎美月だった。
「こんばんは」
美月が言う。
「こんばんは!」
ほたる。
「声大きい」
しずく。
「元気だから!」
◇
美月は四人を見る。
そして。
ふと笑った。
「悩んでる?」
全員固まった。
「顔に出てる」
美月。
「そんなに!?」
ほたる。
「そんなに」
美月。
◇
少し沈黙。
そして。
美月は言った。
「一つ教えてあげる」
「?」
ひかり。
「私たちも最初は下手だった」
全員固まる。
「え?」
ほたる。
「嘘だ」
しずく。
「失礼だな」
美月が笑った。
「本当だよ」
◇
そして最後。
美月は歩きながら振り返る。
「届かないと思う日ほど」
夕焼けが彼女を照らす。
「伸びる時だから」
そのまま去っていく。
残された四人。
しばらく誰も喋らなかった。
やがて。
ほたるが言う。
「かっこいい……」
「うん」
ひかり。
「うん」
しずく。
「うん」
レイナ。
全員一致だった。
◇
そして次の瞬間。
ほたるが叫ぶ。
「私もあんなこと言いたい!」
「無理です」
レイナ。
「即答!?」
「まず空を飛んでください」
「覚えてたの!?」
ひかりは笑い転げた。
しずくも笑った。
夕焼けの空に。
四人の笑い声が響いていた。
だけど。
その胸の中には確かにあった。
悔しさも。
憧れも。
そして――
もっと上手くなりたいという気持ちも。
それがきっと。
成長の始まりだった。
第3節 はじめてのオリジナル曲
文化祭まで二週間。
音楽準備室。
「問題があります」
レイナが言った。
全員が振り向く。
「今度は何!?」
ほたる。
「隕石ですか?」
ひかり。
「宇宙人?」
しずく。
「なぜ毎回そこからなんですか」
レイナ。
◇
レイナは紙を見せた。
「文化祭まで十四日です」
「うん」
ほたる。
「オリジナル曲完成度三十パーセントです」
沈黙。
「え?」
ひかり。
「三十?」
ほたる。
「三十」
レイナ。
「やばい?」
ひかり。
「やばいです」
レイナ。
「やばい!」
ほたる。
「今気付きましたか」
◇
しずくがギターを抱える。
「やるしかない」
「そうだね」
ひかり。
「作ろう!」
ほたる。
「作りましょう」
レイナ。
珍しく全員の意見が一致した。
◇
数時間後。
「できない」
ほたる。
「早い」
しずく。
「まだ十分」
レイナ。
「十分で諦めた!」
ひかりが吹き出した。
◇
ひかりは歌詞ノートを眺める。
タイトル候補。
・雨上がりメロディ
・蛍色の空
・僕らのリズム
・放課後ランデブー
「最後だけ違う方向行ってる」
しずく。
「なんかオシャレかなって」
ひかり。
「デート感あります」
レイナ。
「却下!」
ほたる。
「まだ誰も採用してない」
◇
そこへ。
ほたるが突然立ち上がった。
「分かった!」
「何が」
しずく。
「足りないもの!」
「何ですか」
レイナ。
ほたるは胸を張った。
「インパクト!」
嫌な予感。
「具体的には?」
ひかり。
「曲の途中で空を飛ぶ!」
沈黙。
「まだ言ってる」
しずく。
「飛びたい!」
ほたる。
「重力があります」
レイナ。
「敵が強い!」
◇
結局。
真面目に話し合うことになった。
「この曲」
しずくが言う。
「何を伝えたい?」
部屋が静かになる。
ひかりは窓を見る。
夕焼け。
初夏の風。
雨上がり。
蛍。
みんなとの出会い。
全部が頭を巡った。
「私は」
ひかり。
「出会いかな」
「出会い?」
ほたる。
「うん」
「ほう」
しずく。
「アニメ好きで」
「うん」
「一人だった私が」
「うん」
「みんなと出会った」
静かな時間。
「それだ」
しずくが言った。
◇
ひかりは驚く。
「え?」
「それが曲」
しずく。
「出会い?」
「うん」
レイナも頷いた。
「私もそう思います」
「青春!」
ほたる。
「今回は合ってます」
レイナ。
「認めた!」
◇
そこからは早かった。
歌詞。
メロディ。
リズム。
少しずつ形になる。
ひかりが書く。
しずくが弾く。
レイナが組み立てる。
ほたるが――
「お腹すいた!」
「集中してください」
レイナ。
「ベース担当!」
「知ってます」
◇
夕方。
ついに。
一曲が完成した。
タイトル。
『蛍色メロディ』
「できた……」
ひかりが呟く。
「できた」
しずく。
「できましたね」
レイナ。
「できたーーー!」
ほたる。
◇
そして。
初演奏。
静かな緊張。
しずくが数える。
「ワン、ツー、スリー、フォー」
ギター。
ベース。
ドラム。
そして。
歌詞。
音が流れる。
今までとは違った。
上手いわけじゃない。
完璧でもない。
でも。
確かに自分たちの音だった。
◇
演奏終了。
誰も喋らない。
静寂。
そして。
「いい」
しずく。
「うん」
ひかり。
「はい」
レイナ。
「最高!」
ほたる。
「語彙力」
レイナ。
◇
ほたるは立ち上がる。
「よし!」
「何ですか」
レイナ。
「文化祭優勝!」
「順位ありません」
「え?」
「文化祭です」
「え?」
「コンテストではありません」
沈黙。
「今まで優勝目指してた!」
ほたる。
全員吹き出した。
「何と戦ってたの」
ひかり。
「自分!」
ほたる。
「急に深い」
しずく。
◇
その時だった。
廊下から拍手が聞こえた。
パチ。
パチ。
パチ。
全員が振り向く。
「え?」
そこに立っていたのは――
神崎美月だった。
「いい曲じゃん」
全員固まる。
「いつからいたの!?」
ほたる。
「途中から」
美月。
「聞かれてた!」
「聞いてた」
美月。
「恥ずかしい!」
ひかり。
◇
美月は少し笑った。
「前より良くなった」
「本当?」
ほたる。
「本当」
美月。
そして。
真剣な目になる。
「でも」
空気が変わる。
「まだ負けない」
その一言。
悔しい。
だけど嬉しい。
ライバルに認められた。
少しだけ近付いた。
そんな気がした。
◇
帰り道。
夕焼け。
蛍が舞う川沿い。
四人は並んで歩く。
ほたるが言った。
「あと二週間!」
「うん」
ひかり。
「練習」
しずく。
「頑張りましょう」
レイナ。
ほたるは拳を空へ突き上げた。
「文化祭ライブ成功させるぞーー!」
「おー!」
ひかり。
「おー」
しずく。
「おー」
レイナ。
そして最後。
ほたるが言った。
「そして空を飛ぶ!」
「飛びません」
レイナ。
即答だった。
夕焼けの空に。
四人の笑い声が響いていた。
『蛍色メロディ』
その最初の一曲は、
確かに四人の青春そのものだった。
第4節 文化祭前夜
文化祭前日。
音楽準備室。
空気が違った。
いつもの笑い声はある。
だけど。
どこか緊張していた。
「ついに明日ですね」
レイナが言う。
「うん」
ひかり。
「明日」
しずく。
「明日かぁ」
ほたる。
珍しく静かだった。
◇
沈黙。
五秒。
十秒。
十五秒。
「……」
「……」
「……」
「……」
そして。
ほたるが言った。
「逃げる?」
「逃げません」
レイナ即答。
「早い!」
「予想してました」
「読まれてた!」
◇
しずくが笑う。
「ほたる」
「なに?」
「今さら?」
「今さら!」
「正直」
「正直」
「ちょっと怖い」
部屋が静かになる。
ほたるが弱音を吐いた。
初めてだった。
◇
ひかりも小さく手を上げる。
「実は私も」
「え?」
ほたる。
「観客の前で歌うの初めて」
「そうだった!」
「忘れてたの!?」
「だってひかりちゃん普通に歌ってるし!」
「練習だけ!」
◇
レイナも頷いた。
「私も少し緊張しています」
全員が見る。
「レイナ先輩が!?」
ほたる。
「人間なので」
「ロボットじゃなかった!」
「校長先生じゃありません」
「誰も言ってない!」
◇
そして。
全員の視線がしずくへ向く。
「しずく先輩は?」
ほたる。
しずくは少し考えた。
そして。
「緊張してる」
「えぇぇぇ!?」
全員。
「するんだ!」
ほたる。
「する」
しずく。
「初めて知った」
ひかり。
「失礼」
しずく。
◇
なんだか少し安心した。
自分だけじゃない。
みんな怖いんだ。
みんな不安なんだ。
◇
すると。
ほたるが突然立ち上がった。
嫌な予感。
「決めた!」
「何ですか」
レイナ。
「明日!」
「うん」
「もし失敗したら!」
「うん」
「空を飛ぶ!」
沈黙。
◇
「飛びません」
レイナ。
「もうちょっと悩んで!」
「飛べないので」
「正論!」
◇
ひかりは笑いながら涙が出そうになった。
不思議だった。
さっきまで緊張していたのに。
今は少し楽になっている。
◇
その時だった。
コンコン。
扉がノックされた。
「?」
レイナが開ける。
そこにいたのは――
神崎美月だった。
「こんばんは」
「こんばんは!」
ほたる。
「声」
レイナ。
「大きい!」
ほたる。
◇
美月は苦笑する。
「相変わらずだね」
「元気です!」
「知ってる」
◇
美月は部屋を見回した。
そして。
『蛍色メロディ』
の譜面を見る。
「完成したんだ」
「うん」
しずく。
「頑張りました!」
ひかり。
「文化祭優勝します!」
ほたる。
沈黙。
◇
「だから順位ありません」
レイナ。
「また忘れてた!」
ほたる。
美月が吹き出した。
「ははっ」
◇
そして。
少し真面目な顔になる。
「明日」
「うん」
しずく。
「楽しみにしてる」
「……」
「……」
「……」
短い言葉。
でも。
とても嬉しかった。
◇
美月は帰り際。
振り返った。
「あと」
「?」
ひかり。
「勝負だから」
空気が変わる。
「本気で来て」
しずくが微笑む。
「もちろん」
その笑顔は以前よりずっと強かった。
◇
美月が去った後。
静かな時間。
ほたるが言う。
「かっこよかった……」
「うん」
ひかり。
「うん」
レイナ。
「うん」
しずく。
全員一致。
◇
夕方。
練習終了。
帰る時間。
しかし。
誰も動かなかった。
「帰りたくないな」
ひかり。
「分かる」
しずく。
「なんか終わっちゃう気がする」
ほたる。
レイナも頷いた。
「少しだけ」
◇
しずくが立ち上がる。
「でも」
全員を見る。
「終わりじゃない」
静かな声。
「始まり」
ひかりが笑った。
「うん」
◇
ほたるが手を差し出す。
「円陣!」
「またですか」
レイナ。
「青春だから!」
「便利ですね」
◇
結局。
四人は輪になる。
「文化祭ライブ!」
ほたる。
「成功させよう!」
ひかり。
「全力で」
レイナ。
「楽しもう」
しずく。
◇
四人同時に叫ぶ。
「おーーーー!!」
その声は。
夕焼けの空へ響いていった。
◇
そして翌日――
初めてのステージ。
初めてのライブ。
初めての大勢の観客。
蛍色メロディーズ最大の挑戦が始まる。
だが。
その時の彼女たちはまだ知らない。
開演五分前。
ほたるがとんでもない事件を起こすことを――。
第4章 文化祭ステージ
第1節 開演五分前の大事件
文化祭当日。
朝。
「起きたぁぁぁぁ!!」
ほたるの叫び声が住宅街に響いた。
時計。
7時58分。
集合時間。
8時00分。
「終わったぁぁぁぁ!!」
◇
その頃。
学校。
音楽準備室。
「遅いですね」
レイナ。
「遅い」
しずく。
「遅いね」
ひかり。
三人は慣れていた。
むしろ時間通りに来たら心配になる。
◇
ガラッ!!
扉が吹き飛びそうな勢いで開いた。
「間に合ったぁぁぁ!!」
ほたるだった。
髪はボサボサ。
制服も少し曲がっている。
息も切れていた。
「あと二分あります」
レイナ。
「セーフ!」
「アウト寄りです」
「セーフ!」
「アウトです」
◇
ひかりが笑う。
「寝坊?」
「寝坊!」
ほたる。
「堂々と言うな」
しずく。
「だって事実!」
「反省して」
「してる!」
全然していない顔だった。
◇
午前中。
文化祭。
校内は大盛り上がり。
屋台。
展示。
演劇。
コスプレ喫茶。
吹奏楽。
どこも賑やかだった。
「文化祭っていいねぇ」
ひかり。
「青春!」
ほたる。
「便利な言葉ですね」
レイナ。
「もう定番になった」
しずく。
◇
そして午後。
ライブまで一時間。
ステージ裏。
「緊張する」
ひかり。
「する」
しずく。
「少しします」
レイナ。
三人とも落ち着かない。
すると。
ほたるだけが妙に静かだった。
◇
「ほたる?」
ひかり。
「どうしたの?」
「……」
「?」
「……」
「?」
「実は」
全員が見る。
「お腹痛い」
沈黙。
◇
「緊張ですか」
レイナ。
「たぶん」
ほたる。
「珍しい」
しずく。
「ほたるも人間だった」
ひかり。
「失礼!」
◇
しかし。
その五分後。
ほたるは元気になった。
「治った!」
「早い」
しずく。
「気合い!」
「便利ですね」
レイナ。
◇
ライブ開始十五分前。
最終確認。
レイナが機材をチェックする。
しずくがギターを確認する。
ひかりが歌詞を確認する。
そして。
ほたるが――
固まっていた。
◇
「どうしました」
レイナ。
「……」
「ほたる?」
ひかり。
「……」
「返事して」
しずく。
ゆっくり。
ほたるが振り向く。
そして。
震える声で言った。
「ベース……」
「うん」
「ない」
沈黙。
◇
「……え?」
ひかり。
「え?」
しずく。
「え?」
レイナ。
「え?」
ほたる。
「いやお前だろ!」
初めて。
三人が同時にツッコんだ。
◇
「ない!」
ほたる。
「どこですか!」
レイナ。
「家!」
沈黙。
◇
「家」
しずく。
「家です」
レイナ。
「家だね」
ひかり。
「家!」
ほたる。
◇
数秒後。
全員同時。
「なんでぇぇぇぇぇ!!」
◇
大パニックだった。
ライブ十五分前。
ベース担当。
ベース忘れる。
前代未聞。
◇
「取りに行きます!」
ほたる。
「間に合いません」
レイナ。
「走る!」
「無理です」
「飛ぶ!」
「飛びません」
「そこ!?」
◇
ひかりは頭を抱える。
しずくは天井を見ていた。
レイナは今にも倒れそうだった。
◇
その時。
後ろから声がした。
「何騒いでるの?」
全員振り向く。
神崎美月だった。
◇
「ベース忘れました」
レイナ。
即答。
「は?」
美月。
「家にあります」
レイナ。
「は?」
美月。
「飛んで取りに行きます」
ほたる。
「飛びません」
レイナ。
◇
美月は数秒固まった。
そして。
笑い始めた。
「ははははは!!」
◇
「笑い事じゃない!」
ほたる。
「ごめん!」
美月。
「でも面白すぎる!」
◇
Black Lilyのメンバーも集まってきた。
事情を聞く。
そして。
全員爆笑。
ほたるだけ不満そうだった。
「なんで!?」
「なんでじゃない」
しずく。
◇
すると。
Black Lilyのベーシストが言った。
「予備あるよ」
沈黙。
◇
「え?」
ほたる。
「貸そうか?」
「え?」
「使う?」
「え?」
「返事して」
しずく。
◇
ほたるの目に涙が浮かんだ。
「神様ぁぁぁぁ!!」
「ベーシストです」
レイナ。
◇
全員大笑い。
張り詰めていた空気が一気に消えた。
◇
ライブ開始五分前。
ベース問題解決。
四人はステージ袖に立つ。
観客のざわめき。
照明。
マイク。
緊張。
期待。
全部が入り混じる。
◇
ほたるが小さく言った。
「ごめん」
全員が見る。
「迷惑かけた」
珍しく真面目だった。
◇
しずくが笑う。
「いつものこと」
「ひどい」
ほたる。
◇
ひかりも笑う。
「でも助かった」
◇
レイナも頷く。
「次からは確認してください」
「はい!」
◇
そして。
ステージスタッフの声。
「蛍色メロディーズ、スタンバイお願いします!」
◇
ついに。
その時が来た。
四人は顔を見合わせる。
ほたるが手を差し出した。
「円陣!」
「またですか」
レイナ。
「最後だから!」
◇
四人の手が重なる。
「楽しもう」
しずく。
「頑張ろう」
ひかり。
「全力で」
レイナ。
◇
そして。
ほたるが叫んだ。
「ベース忘れても何とかなるーー!!」
「なりません!!」
三人同時だった。
◇
ステージの幕が開く。
眩しい光。
大勢の観客。
そして――
蛍色メロディーズ、
最初のライブが始まろうとしていた。
第2節 はじめてのライブ
ステージ袖。
観客のざわめきが聞こえる。
「人、多いね……」
ひかりが呟く。
「多い」
しずく。
「多いですね」
レイナ。
「多い!」
ほたる。
「語彙力」
しずく。
「緊張してるから!」
◇
司会者の声が響く。
「続いてのバンドは――」
観客の拍手。
四人の鼓動が速くなる。
「うわぁ……」
ひかり。
「始まる」
しずく。
「始まります」
レイナ。
「逃げる?」
ほたる。
「逃げません」
レイナ即答。
「もう少し悩んで!」
◇
ステージスタッフが合図する。
「どうぞ!」
ついに。
四人はステージへ飛び出した。
◇
眩しい。
それが最初の感想だった。
照明。
歓声。
観客。
想像よりずっと多い。
「うわぁ……」
ひかりの足が少し震える。
◇
ほたるがマイクを持つ。
「こんにちはーー!!」
会場から拍手。
「蛍色メロディーズです!!」
さらに拍手。
「結成一か月です!!」
沈黙。
◇
客席。
「短っ!」
「大丈夫か!?」
「初々しい!」
笑いが起きた。
◇
しずくが小声で言う。
「言わなくていい」
「え?」
ほたる。
「そこは隠す」
レイナ。
「なんで!?」
◇
ひかりは笑いを堪える。
緊張していたはずなのに。
少し楽になった。
◇
「では聴いてください!」
ほたる。
「私たちの初オリジナル曲!」
◇
しずくがカウントを取る。
「ワン」
静寂。
「ツー」
鼓動。
「スリー」
息を吸う。
「フォー」
◇
ジャーン!!
ギター。
ベース。
ドラム。
音が重なる。
◇
ひかりが歌い始める。
最初は少し震えていた。
でも。
しずくを見る。
レイナを見る。
ほたるを見る。
みんな笑っている。
◇
すると。
不思議だった。
声が自然と出る。
歌える。
届けたい。
そう思えた。
◇
客席も静かだった。
誰も喋らない。
みんな聴いている。
◇
曲は進む。
サビ。
二番。
間奏。
そして――
事件が起きた。
◇
「ぎゃっ!」
ほたる。
◇
客席。
「!?」
ひかり。
「!?」
レイナ。
「!?」
しずく。
「!?」
◇
ベースのストラップが外れた。
◇
「ほたる!」
ひかり。
「落ちる!」
レイナ。
◇
ベースが傾く。
会場がざわつく。
◇
しかし。
次の瞬間。
ほたるが体をひねる。
ベースを抱きかかえる。
そして。
なぜか演奏継続。
◇
客席。
拍手。
「おおおお!」
「ナイス!」
「すげぇ!」
◇
ほたる本人も驚いていた。
「できた!」
「奇跡です」
レイナ。
◇
しずくが笑いながら弾いている。
ひかりも吹き出しそうだった。
◇
ライブ続行。
サビへ。
会場の空気が変わる。
◇
手拍子。
笑顔。
拍手。
◇
ひかりの胸が熱くなる。
(楽しい……)
ただそれだけだった。
◇
曲が終わる。
最後のコード。
余韻。
静寂。
◇
そして。
大拍手。
◇
「わぁ……」
ひかり。
目が潤む。
◇
ほたるも固まっていた。
「拍手されてる」
「されてます」
レイナ。
「本物?」
「本物」
しずく。
◇
観客席から声。
「アンコール!」
◇
四人。
「え?」
◇
また声。
「アンコール!」
「アンコール!」
「アンコール!」
◇
ほたるがパニックになる。
「どうする!?」
「曲一曲しかない」
しずく。
「終わった」
レイナ。
「終わってない!」
ひかり。
◇
客席のアンコールは続く。
◇
その時。
ステージ袖。
神崎美月が笑っていた。
「面白いな」
◇
そして。
小さく呟く。
「予想以上だ」
◇
ステージ上。
パニック状態の蛍色メロディーズ。
◇
ほたるが叫ぶ。
「どうしようーー!!」
◇
客席。
大爆笑。
◇
こうして。
初ライブは大成功。
……だったのだが。
まだ誰も知らない。
この後、
ほたるがマイクを握ったまま
さらに大事件を起こすことを――。
第3節 アンコール大作戦
ステージ上。
「アンコール!」
「アンコール!」
「アンコール!」
客席の声が止まらない。
◇
ほたるが固まる。
「どうしよう」
「どうしましょう」
レイナ。
「曲ない」
しずく。
「ないね」
ひかり。
◇
沈黙。
三秒。
五秒。
八秒。
◇
「帰る?」
ほたる。
「帰りません」
レイナ。
「もうライブ終わったし!」
「アンコール中です」
「終わってない!」
◇
客席。
「アンコール!」
「アンコール!」
◇
ほたるは頭を抱えた。
「人生最大のピンチ!」
「ベース忘れた時より?」
しずく。
「同じくらい!」
「重い」
レイナ。
◇
その時。
ひかりが言った。
「もう一回やる?」
全員が見る。
◇
「同じ曲?」
ほたる。
「うん」
「あり?」
「ありかも」
しずく。
「文化祭ですし」
レイナ。
◇
しかし。
ほたるが首を振った。
「駄目だ!」
「なぜ」
しずく。
◇
ほたるは真顔だった。
「一回目より上手く演奏しなきゃ」
◇
全員。
「……」
◇
レイナが少し笑う。
「珍しく良いこと言いましたね」
「珍しく!?」
◇
すると。
客席から声。
「頑張れー!」
「待ってるぞー!」
「もう一曲ー!」
◇
ひかりの胸が熱くなる。
嬉しい。
こんなことがあるなんて。
◇
その時だった。
ほたるがマイクを握った。
嫌な予感。
◇
「皆さん!」
会場が静かになる。
◇
レイナ。
「嫌な予感しかしません」
◇
「実は!」
ほたる。
◇
しずく。
「やめた方がいい」
◇
「私たち!」
◇
ひかり。
「ほたる?」
◇
「オリジナル曲一曲しかありません!!」
◇
会場。
沈黙。
◇
一秒。
二秒。
三秒。
◇
大爆笑。
◇
「正直だな!」
「最高か!」
「知ってた!」
◇
レイナが頭を抱えた。
「言いましたね……」
◇
ほたるは続ける。
「だから!」
◇
しずく。
「止めよう」
◇
「アンコールは!」
◇
客席。
「おお?」
◇
「もう一回やります!!」
◇
会場。
大拍手。
◇
「採用された」
ひかり。
「された」
しずく。
「されましたね」
レイナ。
◇
こうして。
人生初のアンコール。
◇
しずくが笑う。
「二回目」
「うん」
ひかり。
「今度はもっと楽しもう」
◇
レイナも頷く。
「失敗しても構いません」
◇
ほたるが驚く。
「レイナ先輩がそんなこと言うなんて!」
◇
「ただし」
レイナ。
◇
「ベースは忘れないでください」
◇
「まだ言う!?」
◇
客席から笑いが起きる。
マイクが入っていた。
◇
「聞こえてた!」
ほたる。
◇
「全部聞こえてたぞー!」
客席。
◇
大爆笑。
◇
その空気のまま。
二回目の演奏が始まった。
◇
ワン。
ツー。
スリー。
フォー。
◇
今度は違った。
緊張がない。
恐さもない。
◇
ただ楽しい。
◇
ひかりは歌う。
しずくは弾く。
レイナは叩く。
ほたるは飛び跳ねそうになる。
◇
「飛ばないでください」
レイナ。
◇
「心読んだ!?」
◇
客席。
大爆笑。
◇
演奏は続く。
◇
さっきより上手い。
みんな感じていた。
◇
そして。
最後のサビ。
◇
観客の手拍子。
笑顔。
拍手。
◇
ひかりの目に涙が浮かぶ。
(楽しい)
ただそれだけだった。
◇
演奏終了。
◇
静寂。
◇
そして。
今日一番の拍手。
◇
わああああああああ!!
◇
四人は言葉を失った。
◇
その時。
客席後方。
Black Lilyのメンバーたち。
◇
「どう思う?」
誰かが聞く。
◇
神崎美月は笑った。
「悔しいな」
◇
全員が驚く。
◇
「え?」
◇
美月はステージを見る。
◇
「技術はまだ下」
◇
「うん」
◇
「でも」
◇
少し笑う。
◇
「楽しそう」
◇
その言葉に。
誰も反論できなかった。
◇
ステージ上。
ほたるがマイクを握る。
◇
「ありがとうございましたーー!!」
◇
会場。
拍手。
◇
そして最後。
◇
ほたるが勢いよく言った。
「次は三曲作ってきます!!」
◇
大拍手。
◇
「増えた」
しずく。
◇
「目標ですね」
レイナ。
◇
「頑張ろう」
ひかり。
◇
四人は笑いながら手を振った。
◇
こうして。
蛍色メロディーズの初ライブは終わった。
◇
だけど。
誰も気付いていなかった。
◇
この日。
客席の片隅に――
彼女たちの運命を変える人物が来ていたことを。
◇
そして。
その人物が文化祭終了後、
四人へ信じられない提案を持ちかけることを――。
第4節 スカウト!?
文化祭終了後。
夕方。
校庭。
オレンジ色の夕陽が校舎を照らしていた。
◇
「終わったぁぁぁぁぁ!」
ほたるが芝生へ倒れ込む。
◇
「寝ない」
レイナ。
◇
「魂が抜けるぅぅぅ!」
◇
「今日は少し許す」
◇
「許された!」
◇
しずくが笑った。
「良かったね」
◇
ひかりも空を見上げる。
「楽しかったなぁ」
◇
「うん」
◇
「うん」
◇
「うん」
◇
珍しく全員一致だった。
◇
その時。
後ろから拍手が聞こえた。
◇
パチ。
パチ。
パチ。
◇
「?」
◇
四人が振り返る。
◇
そこにいたのは――
見知らぬ女性だった。
◇
二十代後半くらい。
黒縁眼鏡。
肩までの髪。
どこか落ち着いた雰囲気。
◇
「こんにちは」
◇
「こんにちは」
ひかり。
◇
「こんにちは!」
ほたる。
◇
「こんにちは」
しずく。
◇
「こんにちは」
レイナ。
◇
女性は微笑んだ。
◇
「ライブ見たよ」
◇
「ありがとうございます!」
ほたる。
◇
「面白かった」
◇
「そこ!?」
◇
ほたるが叫ぶ。
◇
女性は吹き出した。
◇
「もちろん曲も良かった」
◇
「良かった……」
ほたる。
◇
「ちょっと安心した」
◇
「そこ気にしてたんだ」
しずく。
◇
◇
女性は名刺を差し出した。
◇
全員固まる。
◇
『蒼月エンターテインメント』
『新人発掘担当』
『高瀬真琴』
◇
「え?」
◇
「え?」
◇
「え?」
◇
「え?」
◇
四人同時だった。
◇
「スカウトですか?」
ほたる。
◇
「まだ違う」
高瀬。
◇
「まだ!?」
◇
「そこに食いつくんですか」
レイナ。
◇
◇
高瀬は笑った。
◇
「今日はね」
◇
「うん」
◇
「あるライブハウスイベントの出演候補を探してたの」
◇
沈黙。
◇
「ライブハウス」
ひかり。
◇
「イベント」
しずく。
◇
「出演」
レイナ。
◇
「候補」
ほたる。
◇
「分解しないでください」
レイナ。
◇
◇
高瀬は頷いた。
◇
「君たち」
◇
「はい」
◇
「出てみない?」
◇
沈黙。
◇
五秒。
◇
十秒。
◇
十五秒。
◇
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
◇
校庭中に響いた。
◇
◇
「落ち着いてください」
レイナ。
◇
「無理!」
◇
「分かる」
しずく。
◇
「分かるんだ」
ひかり。
◇
◇
高瀬は説明を続ける。
◇
「高校生バンド限定イベント」
◇
「へぇ」
◇
「県内から十組くらい集まる」
◇
「へぇぇ」
◇
「Black Lilyも出る予定」
◇
沈黙。
◇
「出ます」
しずく。
即答。
◇
「早い」
ひかり。
◇
「珍しい」
ほたる。
◇
「会話終わった」
レイナ。
◇
◇
高瀬が笑う。
◇
「即決?」
◇
しずくは頷いた。
◇
「負けたくない」
◇
静かな言葉だった。
◇
でも。
とても強かった。
◇
ひかりも頷く。
◇
「私も出たい」
◇
「私も」
レイナ。
◇
◇
そして。
全員がほたるを見る。
◇
「?」
◇
「何?」
◇
「最後はほたる」
しずく。
◇
「重要」
レイナ。
◇
「重要なの!?」
◇
◇
ほたるは考える。
◇
一秒。
二秒。
三秒。
◇
そして。
◇
「お弁当出る?」
◇
沈黙。
◇
◇
高瀬。
「出ない」
◇
◇
「交通費は?」
◇
「出る」
◇
◇
「出ます!」
◇
「基準そこ!?」
◇
三人同時だった。
◇
◇
校庭に笑い声が響く。
◇
高瀬も笑っていた。
◇
「本当に面白い子たちだね」
◇
「よく言われます!」
◇
ほたる。
◇
「言われてるんだ」
ひかり。
◇
◇
高瀬は夕陽を見上げる。
◇
「でもね」
◇
空気が少し変わる。
◇
「次は文化祭とは違う」
◇
「……」
◇
「……」
◇
「……」
◇
「本気のバンドが集まる」
◇
静寂。
◇
「覚悟してね」
◇
その言葉だけ残し、
高瀬は去っていった。
◇
夕陽の中。
四人は立ち尽くす。
◇
文化祭が終わった。
◇
でも。
物語は終わらない。
◇
むしろ。
ここからだった。
◇
ほたるが呟く。
◇
「ライブハウスかぁ」
◇
「うん」
ひかり。
◇
「楽しみ」
しずく。
◇
「頑張りましょう」
レイナ。
◇
◇
そして最後。
◇
ほたるが拳を握る。
◇
「よし!」
◇
「?」
◇
「今度こそ優勝!」
◇
沈黙。
◇
「コンテストじゃありません」
レイナ。
◇
「またぁぁぁ!?」
◇
夕陽の校庭に、
四人の笑い声が響いていた。
番外編短編物語『蛍色メロディーズ外伝』
「爆裂!?放課後RIOT!」
文化祭ライブから数日後。
音楽準備室。
ほたる
「大変です!」
レイナ
「今度は何ですか」
ほたる
「爆裂RIOTです!」
しずく
「爆発するの?」
ひかり
「危険イベント?」
ほたる
「違います!」
レイナ
「説明してください」
ほたる
スマホを掲げる。
『爆裂RIOT』
沈黙。
しずく
「名前怖い」
ひかり
「ライブハウスが吹き飛びそう」
レイナ
「吹き飛びません」
ほたる
「ロックイベントらしい!」
しずく
「ロックか」
ひかり
「私たちロックかな?」
ほたる
「ベース忘れたからロック!」
全員
「違う!」
🤣🤣🤣
その夜。
作戦会議。
しずく
「ロックって何だろう」
ひかり
「魂?」
レイナ
「情熱?」
ほたる
「おかわり自由!」
全員
「違う!」
そして。
ほたるは立ち上がる。
「分かった!」
「?」
「楽しいのがロック!」
沈黙。
しずく
「案外間違ってない」
ひかり
「確かに」
レイナ
「少し悔しいですが」
四人は笑った。
ほたる
「じゃあ曲作ろう!」
こうして
蛍色メロディーズ史上
最も元気で
最も騒がしい
"爆裂RIOTソング"
が誕生するのであった。
【番外編 完】
第5章 蛍色の未来
第1節 ライブハウスへの招待
文化祭から一週間後。
放課後。
音楽準備室。
◇
「届いた!」
◇
ほたるが叫んだ。
◇
「何ですか」
レイナ。
◇
「届いた!」
◇
「だから何が」
しずく。
◇
「届いた!」
◇
「会話してください」
ひかり。
◇
ほたるは封筒を掲げた。
◇
『SUMMER YOUTH BAND FES』
出演案内。
◇
沈黙。
◇
「おお……」
ひかり。
◇
「来た」
しずく。
◇
「本当に来ましたね」
レイナ。
◇
「来たぁぁぁぁ!!」
ほたる。
◇
「今さら追いついた」
しずく。
◇
◇
全員で封筒を開く。
◇
出演時間。
会場案内。
リハーサル時間。
注意事項。
◇
レイナが読み上げる。
◇
「出演バンド十組」
◇
「多い」
しずく。
◇
「県内選抜」
◇
「すごい」
ひかり。
◇
「ライブハウス」
◇
「青春!」
ほたる。
◇
「便利な言葉ですね」
レイナ。
◇
◇
さらに読み進める。
◇
「出演予定」
◇
「うん」
◇
「Black Lily」
◇
沈黙。
◇
しずくの目が変わる。
◇
「出る」
◇
「出る」
ひかり。
◇
「出ます」
レイナ。
◇
「お弁当は?」
ほたる。
◇
全員。
「まだ言うの!?」
◇
◇
その時だった。
◇
コンコン。
◇
扉が開く。
◇
「失礼します」
◇
見知らぬ女子生徒だった。
◇
一年生。
小柄。
眼鏡。
緊張している。
◇
「えっと……」
◇
「はい?」
ひかり。
◇
「蛍色メロディーズさんですか?」
◇
全員が顔を見合わせる。
◇
「そうです!」
ほたる。
◇
「結成一か月と一週間です!」
◇
「情報が細かくなった」
しずく。
◇
◇
少女は深呼吸した。
◇
そして。
◇
「ファンです!」
◇
沈黙。
◇
「え?」
ひかり。
◇
「え?」
しずく。
◇
「え?」
レイナ。
◇
「え?」
ほたる。
◇
◇
少女は慌てて言う。
◇
「文化祭ライブ見ました!」
◇
「本当に?」
ひかり。
◇
「はい!」
◇
「ありがとう」
◇
しずくが少し照れる。
◇
少女は続けた。
◇
「楽しかったです!」
◇
「おお……」
◇
「元気もらいました!」
◇
「おおお……」
◇
「あと」
◇
全員が聞く。
◇
「ベース忘れた所」
◇
沈黙。
◇
「やっぱり」
レイナ。
◇
「そこかぁぁぁ!」
ほたる。
◇
◇
少女は笑っていた。
◇
「すごく面白かったです!」
◇
「面白いじゃなくて!」
◇
「感動もした!」
◇
「そっち先に言って!」
◇
◇
全員大笑い。
◇
少女は帰り際。
◇
「ライブハウスも頑張ってください!」
◇
ぺこりと頭を下げた。
◇
「ありがとう!」
ひかり。
◇
「ありがとう」
しずく。
◇
「ありがとうございます」
レイナ。
◇
「今度はベース忘れない!」
ほたる。
◇
「そこ宣言するんだ」
しずく。
◇
◇
少女が帰った後。
◇
静かな時間。
◇
「ファン」
ひかり。
◇
「いた」
しずく。
◇
「いましたね」
レイナ。
◇
◇
ほたるは椅子に座る。
◇
珍しく静かだった。
◇
「ほたる?」
ひかり。
◇
「ん?」
◇
「どうしたの?」
◇
ほたるは少し笑った。
◇
「嬉しかった」
◇
部屋が静かになる。
◇
「私も」
ひかり。
◇
「私も」
しずく。
◇
「私もです」
レイナ。
◇
◇
文化祭は終わった。
◇
でも。
ちゃんと誰かに届いていた。
◇
それが分かった。
◇
◇
夕方。
帰り道。
◇
川沿い。
◇
六月の終わり。
◇
蛍が少しだけ飛んでいた。
◇
ほたるが言う。
◇
「ライブハウス」
◇
「うん」
ひかり。
◇
「今度はもっとすごい人がいる」
◇
「うん」
しずく。
◇
「怖い?」
◇
レイナ。
◇
ほたるは少し考えた。
◇
「怖い」
◇
珍しい答えだった。
◇
◇
でも次の瞬間。
◇
「でも楽しみ!」
◇
全員笑った。
◇
「ほたるらしい」
ひかり。
◇
「うん」
しずく。
◇
「ですね」
レイナ。
◇
◇
夕焼けの空。
◇
蛍の光。
◇
そして。
少しずつ近づいてくる未来。
◇
四人の次のステージは、
もうすぐそこまで来ていた。
第2節 はじめてのファンレター
ライブハウスイベントまで二週間。
音楽準備室。
◇
「事件です」
レイナが言った。
◇
「隕石?」
しずく。
◇
「宇宙人?」
ひかり。
◇
「お弁当中止!?」
ほたる。
◇
「お弁当は最初からありません」
◇
「そんなぁぁぁ!」
◇
「そこじゃない」
しずく。
◇
レイナは一枚の封筒を見せた。
◇
「これです」
◇
全員が見る。
◇
白い封筒。
◇
表には、
『蛍色メロディーズ様』
◇
沈黙。
◇
「え?」
ひかり。
◇
「え?」
しずく。
◇
「え?」
ほたる。
◇
◇
レイナは静かに言う。
◇
「ファンレターです」
◇
沈黙。
◇
五秒。
◇
十秒。
◇
十五秒。
◇
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
◇
音楽準備室が揺れた。
◇
「声」
レイナ。
◇
「ごめん!」
三人。
◇
◇
ひかりが震える手で封筒を持つ。
◇
「開ける?」
◇
「開けよう」
しずく。
◇
「開けましょう」
レイナ。
◇
「開ける!」
ほたる。
◇
◇
中には便箋が入っていた。
◇
ひかりが読み始める。
◇
『文化祭ライブ見ました』
◇
全員。
「おお……」
◇
『元気をもらいました』
◇
「おおお……」
◇
『蛍色メロディが大好きです』
◇
「おおおお……」
◇
『あとベース忘れた所が面白かったです』
◇
沈黙。
◇
「やっぱり!」
レイナ。
◇
「なんでそこなのぉぉぉ!」
ほたる。
◇
◇
しずくが笑い始める。
◇
ひかりも吹き出す。
◇
レイナも肩を震わせている。
◇
「感動の手紙なのに」
◇
「最後で全部持っていった」
◇
「私のせいじゃない!」
◇
「いやほたるのせい」
しずく。
◇
◇
その時だった。
◇
コンコン。
◇
扉が開く。
◇
神崎美月だった。
◇
「何騒いでるの?」
◇
「ファンレター!」
ほたる。
◇
「え?」
◇
「ファンレター!」
◇
「二回言わなくていい」
しずく。
◇
◇
美月は少し驚いた。
◇
「へぇ」
◇
「どうだ!」
ほたる。
◇
「何で威張るの」
ひかり。
◇
◇
美月は手紙を見る。
◇
そして少し笑った。
◇
「良かったじゃん」
◇
その一言が、
なぜかとても嬉しかった。
◇
◇
ほたるが聞く。
◇
「Black Lilyは?」
◇
「ん?」
◇
「ファンレター来る?」
◇
◇
美月は少し考える。
◇
「来る」
◇
沈黙。
◇
「何通?」
ほたる。
◇
「月による」
◇
「百?」
◇
「そこまでは」
◇
「五十?」
◇
「違う」
◇
「三十?」
◇
「違う」
◇
「二十?」
◇
「違う」
◇
「十九?」
◇
「細かい」
◇
◇
全員爆笑。
◇
美月まで吹き出した。
◇
◇
その後。
練習開始。
◇
しかし。
◇
ほたるの様子がおかしい。
◇
「ほたる?」
ひかり。
◇
「ん?」
◇
「嬉しそう」
◇
「嬉しい!」
即答。
◇
◇
ほたるは笑う。
◇
「だってさ」
◇
窓の外を見る。
◇
「誰かが聴いてくれてたんだよ?」
◇
静かな時間。
◇
「うん」
ひかり。
◇
「うん」
しずく。
◇
「そうですね」
レイナ。
◇
◇
文化祭の日。
◇
自分達は楽しく演奏した。
◇
でも。
◇
その音は、
ちゃんと誰かの心に届いていた。
◇
それが分かった。
◇
◇
夕方。
帰り道。
◇
川沿い。
◇
蛍がゆっくり飛んでいる。
◇
ほたるが言った。
◇
「もっと頑張ろう」
◇
全員が見る。
◇
「今度は」
◇
少し笑う。
◇
「ベース忘れないで」
レイナ。
◇
「まだ言う!?」
◇
◇
全員大爆笑。
◇
その笑い声は、
夕暮れの川辺に響いていた。
◇
だけど。
◇
その胸の中には、
前より少しだけ大きな夢が生まれていた。
◇
"誰かに届く音楽"
◇
それは四人が初めて手にした、
かけがえのない宝物だった。
◇
そして翌日――
ほたるが再び、
とんでもない発言をすることになる。
第3節「未来へ続くメロディ」
文化祭ライブから数日。
校内には、まだライブの余韻が残っていた。
廊下を歩けば、
「あっ、蛍色メロディーズだ!」
「文化祭見たよ!」
そんな声が聞こえてくる。
ひかりは照れくさそうに笑った。
「まだ夢みたい……。」
しずくが肩をすくめる。
「少し有名になったね。」
「嬉しい。」
レイナも静かに頷いた。
「努力は無駄じゃありませんでした。」
その横では──
ほたるが両手いっぱいに何かを抱えていた。
「見て見て!」
「すごいよ!」
「?」
「?」
「?」
三人が近寄る。
ほたるの腕には封筒が何通もあった。
「ファンレター!」
「えっ!」
ひかりが目を丸くする。
「こんなに?」
「全部!」
「私たち宛!」
レイナが一枚手に取る。
『またライブしてください!』
『笑顔になれました!』
『ベース忘れた人、大好きです!』
……
……
「ほたる。」
「なあに?」
「最後だけあなた宛ですね。」
「やったー!」
「喜ぶところですか。」
しずくが笑いをこらえられない。
「もう伝説だね。」
「ベース忘れた人。」
ほたるは胸を張った。
「忘れようと思って忘れたんじゃないよ!」
「知ってます。」
「でも!」
「みんな笑ってくれた!」
「そうですね。」
「結果オーライ!」
「結果だけです。」
四人は笑いながら音楽室へ向かった。
机の上には、進路希望調査票。
ひかりはペンを持ったまま止まっていた。
「……。」
ほたるが覗き込む。
「何書くの?」
「まだ決められなくて。」
しずくも静かに座る。
「進路か。」
レイナはもう書き終えていた。
「私は音楽も続けたいですが、大学にも進学したいです。」
「両方頑張ります。」
「レイナらしい。」
ひかりが微笑む。
しずくは天井を見上げた。
「私は……。」
「ギターは続ける。」
「それだけは決めてる。」
ほたるは紙を見つめていた。
「私はね。」
「うん。」
「お弁当評論家。」
「なれません。」
レイナ即答。
「えぇー!」
「ライブ会場のお弁当全部食べる仕事!」
「そんな職業ありません。」
「あるかもしれないじゃん!」
「ありません。」
「じゃあ食レポバンド!」
「新ジャンルですね。」
ひかりが吹き出した。
「ふふっ。」
その時だった。
コンコン。
音楽室のドアがノックされる。
「失礼します。」
先生だった。
「みんな宛に荷物が届いてるよ。」
「荷物?」
小さな箱だった。
送り主を見る。
そこには、
Black Lily
と書かれていた。
「!」
しずくが立ち上がる。
「Black Lily?」
ひかりが震える手で箱を開ける。
中には四つのお揃いのギターピック。
そして、一枚のカード。
ひかりが読む。
『文化祭ライブ、とても素敵でした。
演奏ももちろんですが、
皆さんが心から楽しそうに笑っている姿が印象的でした。
私たちも初心を思い出しました。
また、同じステージで会いましょう。
Black Lily』
音楽室が静まり返る。
しずくはピックを大事そうに握る。
「……。」
「負けたくない。」
でも、その顔は笑っていた。
ひかりはカードを胸に抱く。
「憧れだった人たちが……。」
「私たちを見てくれてる。」
レイナも優しく微笑んだ。
「次に会う時は。」
「もっと成長した私たちで。」
その時。
ほたるがピックを空へ掲げる。
「これで飛べるかな?」
「飛べません。」
「でも軽いよ?」
「軽さの問題ではありません。」
「じゃあ二枚なら?」
「枚数でもありません。」
「四枚重ねたら?」
「武器にしないでください。」
「じゃあ頭に貼る!」
「用途が違います。」
「おでこに"Black Lily認定"って書こう!」
「書いてません。」
しずくが笑いすぎて机に突っ伏した。
「もう……。」
「ほたる最高。」
ひかりも涙を拭きながら笑う。
「ふふっ……。」
「やっぱり。」
「このメンバーでよかった。」
レイナも小さく頷く。
「ええ。」
「これから先も。」
「ずっと。」
四人は自然と手を重ねた。
「せーの!」
「蛍色メロディーズ!」
その声は音楽室いっぱいに響き渡る。
窓の外では、夕焼けに染まる空を一匹の蛍がゆっくりと飛んでいた。
小さな光。
だけど確かな光。
それは四人が歩き始めた未来を照らす、
希望のメロディだった。
第4節 蛍色の未来
ライブハウス当日。
◇
「おおおおお……」
◇
ほたるが固まっていた。
◇
「どうしました」
レイナ。
◇
「広い」
◇
「広いね」
ひかり。
◇
「広い」
しずく。
◇
本物のライブハウス。
照明。
ステージ。
機材。
観客席。
◇
文化祭とは違う。
◇
空気そのものが違った。
◇
◇
「緊張する?」
ひかり。
◇
ほたるは考える。
◇
「する」
◇
珍しく即答。
◇
「私も」
ひかり。
◇
「少し」
しずく。
◇
「します」
レイナ。
◇
◇
すると。
◇
ほたるが言った。
◇
「じゃあ」
◇
「?」
◇
「みんな緊張してるから大丈夫!」
◇
沈黙。
◇
「理論が雑」
しずく。
◇
「でも嫌いじゃない」
ひかり。
◇
◇
その時。
◇
神崎美月が現れる。
◇
「おはよう」
◇
「おはようございます!」
◇
「おはよう」
◇
「おはようございます」
◇
「おはよー!」
◇
◇
美月は少し笑った。
◇
「元気そう」
◇
「お弁当食べた!」
ほたる。
◇
「結局そこ」
レイナ。
◇
◇
本番まで一時間。
◇
出演者控室。
◇
様々なバンドがいる。
◇
ギターを調整する人。
歌詞を確認する人。
静かに集中する人。
◇
そして――
◇
「お弁当美味しかった!」
◇
「まだ言う」
しずく。
◇
◇
周囲のバンド達が笑う。
◇
少しだけ空気が和らいだ。
◇
◇
やがて。
◇
開演。
◇
一組目。
二組目。
三組目。
◇
どのバンドも上手い。
◇
ひかりが呟く。
◇
「すごいね」
◇
「うん」
しずく。
◇
「すごいです」
レイナ。
◇
◇
ほたるも珍しく静かだった。
◇
「ほたる?」
◇
「ん?」
◇
「大丈夫?」
◇
ほたるは笑った。
◇
「大丈夫」
◇
そして。
◇
「でも負けたくない」
◇
しずくが微笑む。
◇
「うん」
◇
それは最初に会った頃とは違う。
◇
ちゃんとバンドマンの顔だった。
◇
◇
ついに。
◇
司会者の声。
◇
「続いて――」
◇
「蛍色メロディーズ!」
◇
拍手。
◇
歓声。
◇
ステージへ向かう。
◇
◇
そして。
◇
スポットライト。
◇
観客席。
◇
客席の中に。
◇
文化祭で会った一年生の姿もあった。
◇
「先輩ー!」
◇
手を振っている。
◇
ひかりが笑った。
◇
「来てくれた」
◇
「うん」
しずく。
◇
◇
ほたるがマイクを握る。
◇
そして。
◇
観客へ向かって言った。
◇
「こんにちはー!」
◇
拍手。
◇
「蛍色メロディーズです!」
◇
拍手。
◇
◇
全員が見守る。
◇
嫌な予感も少しする。
◇
◇
「結成一か月と三週間です!」
◇
会場爆笑。
◇
「言った!」
ひかり。
◇
「また言った」
しずく。
◇
「通常運転です」
レイナ。
◇
◇
でも。
◇
なぜか。
◇
それで良かった。
◇
それが蛍色メロディーズだった。
◇
◇
演奏開始。
◇
『蛍色メロディ』
◇
今までで一番良かった。
◇
音も。
歌も。
気持ちも。
◇
全部が届いていた。
◇
◇
演奏終了。
◇
拍手。
◇
歓声。
◇
そして。
◇
客席総立ち。
◇
「わあ……」
ひかり。
◇
目が潤む。
◇
しずくも笑っている。
◇
レイナも微笑んでいる。
◇
ほたるは――
◇
泣いていた。
◇
「ほたる?」
◇
「ん?」
◇
「泣いてる」
◇
「泣いてない」
◇
「泣いてる」
◇
「汗!」
◇
「顔です」
レイナ。
◇
◇
全員大笑い。
◇
泣きながら笑う。
◇
笑いながら泣く。
◇
そんな時間だった。
◇
◇
ライブ終了後。
◇
会場出口。
◇
神崎美月が待っていた。
◇
「お疲れ」
◇
「お疲れ!」
◇
「お疲れ様」
◇
「お疲れ様です」
◇
「お疲れ様でした!」
◇
◇
美月は少し笑う。
◇
「良かった」
◇
静かな一言。
◇
でも。
◇
最高の褒め言葉だった。
◇
◇
そして。
◇
ほたるが聞く。
◇
「勝った?」
◇
沈黙。
◇
◇
「だから」
レイナ。
◇
「コンテストじゃありません」
◇
◇
「またかぁぁぁ!」
◇
全員大爆笑。
◇
◇
夕暮れ。
◇
帰り道。
◇
川沿い。
◇
蛍が舞っている。
◇
◇
ひかりが言う。
◇
「これからどうする?」
◇
しずくが答える。
◇
「曲作る」
◇
レイナ。
◇
「ライブする」
◇
◇
そして。
◇
ほたる。
◇
「もっと楽しむ!」
◇
◇
全員が笑った。
◇
それで十分だった。
◇
◇
夢はまだ遠い。
◇
でも。
◇
四人ならきっと行ける。
◇
蛍のような小さな光でも。
◇
集まれば、
夜空を照らせる。
◇
だから――
◇
蛍色メロディーズの物語は、
これからも続いていく。
◇
【完】
小説とオリジナル曲同時作成します
#ガールズバンド
#作詞作曲
#小説
#蛍色メロディーズ
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