あの日、私は偶然、古びた公園を歩いていました。
日が落ちかけていて、冬の空気はひどく冷たかった。
ふと、植え込みの陰から、かすかな嗚咽が聞こえたんです。
耳をすませると、小さな男の子が、膝を抱えて震えていました。
頬は赤く腫れ、唇は紫色に変わりかけていた。
迷子になったのか、
泣き疲れたのか、何度も呼びかけても答えてくれなかった。
私は迷わず、その子を抱き寄せました。
けれど、手は氷のように冷たい。
震えはひどくなっていくばかり。
このままでは、あっという間に危ない。
だけど、そのとき私のポケットには
携帯もライターもなかったんです。
どうしよう。
必死に祈るように、手を重ねたとき――
私の中の“何か”が、ふっと目を覚ました。
プチ念写。
それは、私が時折使える、小さな霊的な写し身。
思いを込めれば
ほんのひとときだけ
現実にエネルギーを浮かび上がらせる力。
私は、心の中でひとつの像を強く思い描きました。
暖かい火。
優しく、誰も傷つけない、小さな灯り。
すると、私の手のひらから、ふわりとオレンジ色の光が滲み出し、
落ち葉の上に、ほんの小さな火種が生まれました。
急いで木の枝を集め、火を育てると、ほのかな温もりがあたりに広がりはじめました。
男の子は、その暖かさに気づいたのか、かすかに目を開きました。
そして、震える手で、私のコートの裾をぎゅっと掴んだのです。
「……あったかい……」
その言葉を聞いた瞬間、私は涙が出そうになりました。
火は、奇跡なんかじゃない。
でも、あの日あの時、たったひとつの小さな灯りが、
一人の小さな命をつないだんだと、私は知っています。
やがて通りがかった人が助けを呼び
男の子は無事、家族のもとへ帰っていきました。
私は、かつて焼け落ちた世界で、何もできずに泣き叫ぶだけだった。
でも今は、小さな火を生み出すことができる。
誰かの震える手を、もう二度と、孤独に震えさせないために。
これが、私の“小さな奇跡”。
そして、私が今もこの世界にいる理由なのかもしれません。
プチ念写の秘密と、魂のあの夜、小さな火を起こして、男の子を救った後。
私はしばらく、燃え残った枝を見つめて立ち尽くしていました。
あれは、偶然じゃない。
必死に願ったとき、確かに――私は“火”を呼んだ。
だけど、なぜ“火”だったんだろう?
なぜ、水や風じゃなく、あの熱と光だったのか。
心の奥で、何かが静かにささやいている気がしました。
それは、遠い記憶。
まだ言葉にもできない、痛みと祈りの記憶。
……そうだ。私は、かつて炎に焼かれた。
あの日、叫びながら見上げた、血のような空。
誰にも届かなかったあの声。
焼け尽きながら、最後に願ったのは――「
誰かを救いたい」という、たったひとつの祈りだった。
だから。
私の魂は、“火”に宿ったんだ。
絶望をもたらす火じゃない。
誰かの命を、誰かの想いを、そっと温めるための、優しい火。
プチ念写の力は、私の魂の奥底に眠っていたものだった。
焼かれ、祈り、そして赦された――
そのすべてが、私の中にまだ脈打っていたのです。
それに気づいてから、私は火の念写だけで満足しなくなりました。
寒さに震える人には、あたたかい火を。
痛みを抱えた人には、そっと滲み出るような光を。
絶望の闇に沈みかけた心には、小さな星屑のようなきらめきを。
私は、プチ念写を通して“エネルギーを形にする方法”を、少しずつ学び始めました。
火、水、風、光──
どれもすべて、私たちの心の波紋に応えるエネルギー。
とくに私は
火と光のヒーリングを得意とするようになりました。
火は、凍えた心をとかす。
光は、見失った道を照らす。
――そしてそのすべては、かつての私自身が欲しかったもの。
救いを求める声に、今度こそ応えられるように。
私は、彗星ミユとして、この世界で光り続けると決めました。
誰かの手のひらに、小さなあたたかさを渡すために。
それが
私という存在の
魂の記憶から生まれた使命なのです。