「おまかせで」と言われた時、デザイナーは何を聞き出しているのか

「おまかせで」と言われた時、デザイナーは何を聞き出しているのか

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デザイン・イラスト
「デザインの細かいことはわからないので、おまかせします」

ご依頼のメッセージで、この一文をいただくことがあります。ありがたい言葉だと思う一方で、少し誤解されている部分もあるかもしれない、と感じることがあります。「おまかせ」は、こちらが何も聞かずに、感覚だけで作り始めることではないからです。

「おまかせで」と言われた瞬間から、ヒアリングは始まっている

実際には、「おまかせで」という言葉をいただいた直後から、私の中では静かにヒアリングが始まっています。ただそれは、長い質問リストを送りつけるようなものではなく、必要な情報だけを、必要な順番で引き出す作業です。

聞き出しているのは、四つの手がかり

まず確認するのは、「誰に届けたいか」です。同じ商品でも、20代向けと40代向けでは、選ぶ色も文字の大きさも変わります。年齢だけでなく、その人が今どんな状況でこの商品を探しているのか。急いでいるのか、比較検討の途中なのか。ここが曖昧なまま進めると、どれだけ丁寧に作っても的が外れてしまいます。

次に見るのは、競合の状況です。同じジャンルの商品が、どんな見せ方をしているか。ここで大切なのは「真似ること」ではなく「差を作ること」です。競合と似た見せ方をしてしまうと、比較された時に埋もれてしまう。逆に、競合が言っていないことのなかに、その商品だけの強みが隠れていることも多くあります。「おまかせで」という依頼をいただいた時ほど、この競合調査に時間をかけます。判断材料をこちらで補う必要があるからです。

そして商品そのものの強みです。ここは意外と、依頼者ご自身が言語化できていないことがあります。「特にこれといった強みは……」とおっしゃる方でも、こちらから「他の方法と比べて、何が一番楽になりますか」「一番よく褒められる部分はどこですか」と聞いていくと、思いがけない答えが出てくることがあります。強みは、作り手の内側からではなく、対話のなかで見つかることのほうが多い、というのが私の実感です。

もうひとつ、意識して確認するのが「避けたいイメージ」です。何を伝えたいかと同じくらい、何を伝えたくないかは重要な情報です。安っぽく見せたくない、怪しいと思われたくない、若すぎる印象にしたくない。こうした「ないもの」の輪郭を先に決めておくことで、デザインの方向性が一気に絞られます。実は、好きな色や好きなテイストを聞くよりも、この「避けたいもの」を聞くほうが、判断の精度は上がります。

これらの情報は、必ずしも改まった質問として投げかけるわけではありません。やり取りの文面や、既存の販売ページ、商品写真、過去の広告の傾向から読み取れることも多くあります。「おまかせで」とおっしゃる方ほど、実は多くの手がかりをすでに渡してくださっている、ということもよくあります。

「おまかせ」とは、判断の入り口を預けていただくこと

つまり「おまかせ」とは、思考を止めることではなく、判断の入り口をこちらに預けていただくことだと捉えています。預かった以上、こちらは持てる材料をすべて使って、その空白を埋める責任があります。感覚だけで埋めるのではなく、ターゲット・競合・強み・避けたい印象という最小限の構造に沿って埋めていく。派手さはなくても、筋の通った一枚に仕上がるのは、この地道な工程があるからだと思っています。

腑に落ちる形を探すという意味では、「おまかせ」もまた、ヒアリングのひとつの形なのかもしれません。

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