会社には、2億円ほどの借金がありました。
そのことを、妻に話しました。
会社が厳しいことも。
これから会社を畳むことになるかもしれないことも。
隠さず、全部話しました。
妻は呆れていました。
泣かれました。
怒られました。
責められました。
そして、
「いつか、こうなるんじゃないかと思っていた」
と言われました。
さらに、
「もう関わりたくない」
「家族を巻き込まないで」
「離婚したい」
とも。
そりゃそうだよな。
今なら、そう思います。
「ごめん」としか言えなかった
僕は妻に、
「ごめん」
と謝りました。
そして、
「私的整理や特別清算という方法で会社を整理して、家は残せるように頑張るから」
と話しました。
それくらいしか言えなかったんです。
でも、妻にしてみれば、
「またかよ」
だったと思います。
実は僕は若い頃にも、個人的な借金で妻に迷惑をかけたことがあります。
そのときは、妻が返済してくれました。
一度、助けてもらっているんです。
それなのに、今度は会社の借金が2億円。
もちろん、個人の借金と会社の借入は同じものではありません。
でも、妻から見れば、
「またお金の問題なの?」
ですよね。
「もう助けたくない」
そう言われました。
僕には、何も言い返せませんでした。
家族には、家族の人生がある
経営者は、会社が苦しくなると会社のことで頭がいっぱいになります。
僕もそうでした。
銀行への返済。
会社に残っているお金。
弁護士費用。
特別清算ができるのか。
自宅を残せるのか。
取引先に迷惑をかけずに済むのか。
毎日、そんなことばかり考えていました。
でも、妻からすれば違います。
自分が経営している会社ではありません。
それなのに、その会社の問題によって、自分の生活までどうなるか分からなくなる。
家はどうなる。
子どもたちはどうなる。
これからの生活はどうする。
しかも、過去にも僕のお金の問題で迷惑をかけられている。
怒って当然だったと思います。
当時の僕には、そこまで相手の立場になって考える余裕がなかったのかもしれません。
自分のことで精いっぱいでした。
離婚すら、してあげられなかった
妻から、
「離婚したい」
と言われました。
でも、そのときはすぐに離婚することもできませんでした。
自宅には住宅ローンが残っていて、妻も連帯保証人になっていました。
そして、ちょうど会社を整理し、特別清算へ向かおうとしていた時期です。
自宅をどう扱うかについても、勝手に判断できるような状況ではありません。
僕が一番守りたかったものの一つが、その自宅でした。
だから、
離婚すら、してあげられなかった。
妻は「もう関わりたくない」と言っている。
それなのに、僕の会社の問題が片づくまで、完全に切り離してあげることもできない。
申し訳なかったです。
会社の借金というのは、決算書の中だけにある数字じゃないんですよね。
家族の生活にまで入ってくる。
夫婦の関係にも入ってくる。
子どもたちにも影響する。
僕は、それを身をもって知りました。
「家族に相談すればいい」では済まない
経営者が苦しんでいると、
「家族にちゃんと相談したほうがいい」
と言われることがあります。
もちろん、大切なことだと思います。
僕も妻には全部話しました。
でも、実際に経験して思うのは、
家族に話せば、それで気持ちが楽になるとは限らない
ということです。
家族も当事者だからです。
会社がどうなるかによって、自分たちの生活も変わる。
怖いに決まっています。
怒ることもある。
泣くこともある。
「もう巻き込まないで」と言いたくなることだってあるでしょう。
だから、経営者が家族に全部話したとしても、
「これで相談相手ができた」
とは限らないんです。
むしろ、
「こんなに心配をかけてしまった」
という苦しさが増えることもあります。
僕はそうでした。
家族だけに背負わせなくてもいい
今になって思うことがあります。
経営者本人も苦しい。
でも、家族も苦しい。
だったら、経営者の不安を全部、家族だけに受け止めてもらおうとしなくてもいいんじゃないか。
法律の問題なら、弁護士に相談する。
税金なら、税理士に聞く。
会社の再生や廃業について相談できる公的な窓口もあります。
そして、
答えが欲しいわけじゃない。ただ、この怖さを誰かに話したい。
そんなときは、家族でも専門家でもない第三者に話したっていい。
僕自身、会社を畳んだ経験をした今だから、そう思います。
僕なら、きれいな話だけはしません
今、僕は経営危機や廃業に悩んでいる経営者の話を聞く仕事をしています。
そこで、
「大丈夫ですよ。何とかなりますよ」
だけを言うつもりはありません。
僕自身、そんなに簡単ではなかったからです。
会社を畳む途中では、死にたいと思うほど追い詰められました。
妻には泣かれ、怒られ、「離婚したい」とまで言われた。
財産も失いました。
それでも専門家の力を借りながら会社を整理し、僕の場合は個人破産をせず、自宅を残すことができました。
今は会社員として働いています。
だから、
「会社を畳んだら実際どうなるんですか」
「家族にはどう話しましたか」
「怖くなかったですか」
「破産するんじゃないかと思いませんでしたか」
そんなことなら、格好つけずに話せます。
僕は弁護士ではないので、法律的な判断はできません。
会社を畳むべきかどうかを決めることもできません。
でも、経験した人間だから話せることはあります。
以前、僕の相談を利用してくれた方から、
「とっても心が救われました」
と言っていただいたことがあります。
僕がその方の会社を救ったわけではありません。
ただ、話を聞いた。
自分の経験も話した。
それだけです。
でも、もしかしたら、それが必要な時間もあるのかもしれません。
家族には心配をかけたくない。
社員には言えない。
取引先にはもっと言えない。
専門家に相談するほど、まだ話も整理できていない。
そんなとき、
「会社を畳んだことのある人間と、一回だけ話してみようかな」
くらいでいいと思っています。
僕自身、あの頃は自分のことで精いっぱいでした。
だから今度は、同じように一人で抱えている経営者の話を聞く側に回りたい。
会社の問題を、家族だけに背負わせないためにも。
まず誰かに話す。
そこから始めてもいいんじゃないかと思っています。