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会社を失ったら、社会からも消えてしまう気がした
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コラム
多々夢
2026/09/09 18:52
会社を畳んだら、自分はどうなるんだろう
当時の僕は、かなり悪いところまで考えていました。
仕事がなくなる。
収入がなくなる。
社会との接点もなくなる。
そして最後は、
「生活保護になるんじゃないか」
と、本気で思っていたんです。
今こうして書くと、
「そこまで考えなくても」
と思う人もいるかもしれません。
でも、あの頃の僕には、それが現実に起こりそうな未来に見えていました。
「社長じゃなくなったら」なんて考える余裕はなかった
会社を畳むと、社長という肩書きもなくなります。
50年続いた会社の二代目。
それなりに長く社長をやってきました。
本も出した。
講演もした。
テレビにも出た。
だから、
「社長じゃなくなったら、自分は何者なんだろう」
と悩んだんじゃないか。
そう思われるかもしれません。
でも、実際は違います。
そんなことを考えている余裕なんてありませんでした。
肩書きどころじゃない。
これから生活していけるのか。
家族はどうする。
自宅はどうなる。
そして、
自分は、この先も働けるのか。
そっちのほうが、ずっと怖かったんです。
もう働けないんじゃないか
当時、僕は心の状態もかなり崩していました。
うつの状態がひどく、メンタルクリニックにも通っていました。
死にたいという気持ちもありました。
朝、仕事へ行く準備をする。
着替える。
それなのに、もう一度布団へ戻って、ほんの5分でも目を閉じる。
何も考えたくない。
ずっと横になっていたい。
そんな状態です。
それでも仕事には行っていました。
会社には、自分の状態を隠していました。
でも自分の中では、
「こんな状態で、これからも働けるんだろうか」
という不安があった。
会社を畳んだら、今の仕事もなくなる。
次の会社が僕を雇ってくれる保証なんてありません。
そもそも、雇ってもらえたとしても、自分が働き続けられるのか。
そこにも自信がなかったんです。
僕には「就職した経験」がなかった
もう一つ、大きな不安がありました。
僕は、よその会社に就職した経験がありません。
父が創業した会社を手伝い、そのまま家業に入りました。
つまり、
「会社を探して、応募して、採用されて、そこで社員として働く」
という経験を一度もしていなかったんです。
若い頃ならまだしも、僕はもう50代。
会社を畳む。
初めて就職先を探す。
しかも、心の状態もよくない。
「こんな自分を雇ってくれるところなんてあるのか」
そう思いますよね。
僕は思いました。
そして頭の中では、どんどん先まで行ってしまう。
仕事が見つからない。
働けない。
収入がなくなる。
社会との接点がなくなる。
孤立する。
最後は生活保護になるんじゃないか。
まだ何も起きていないのに、僕の中では、そこまで未来が進んでいました。
悪い未来ばかりが、本当の未来に見えていた
不安が強くなると、不思議なものです。
いい可能性は、ほとんど考えられません。
「意外とすぐ仕事が見つかるかもしれない」
「会社員になったら、むしろ楽になることもあるかもしれない」
「生活は何とかなるかもしれない」
そんな未来もあるはずなのに、見えないんです。
見えるのは悪い未来ばかり。
しかも、
「そうなるかもしれない」
ではなく、
「きっと、そうなる」
くらいに思えてくる。
僕の場合は、
会社を失うことと、
仕事を失うことと、
社会とのつながりを失うことと、
人生そのものがダメになることが、
全部ひとつにつながっていたような気がします。
それでも、仕事は途切れなかった
ところが実際には、僕は会社を畳んだあと、今の会社に雇用してもらうことができました。
しかも、仕事に空白期間をつくらずに済みました。
これは本当に助かりました。
もちろん、社長から会社員です。
収入も以前より大きく減りました。
自分の中で受け入れられないこともありました。
惨めだと感じたことだってあります。
でも、
仕事がある。
朝になれば行く場所がある。
そこで仕事をして、人と話す。
給料も入ってくる。
当たり前のことのようですが、当時の僕にとっては、ものすごく大きなことでした。
「社会との接点が全部なくなる」
と思っていたのに、なくならなかった。
僕は社長ではなくなりました。
でも、
社会からいなくなったわけではなかったんです。
会社と一緒に、自分までなくなるわけじゃない
会社を経営していると、会社と自分の境目が分からなくなることがあります。
特に僕は、父の会社に入り、そこでずっと生きてきました。
会社が自分の人生そのものに近かった。
だから会社がなくなれば、自分の人生までなくなるように感じたのかもしれません。
でも、会社を畳んでからも、僕の人生は続きました。
会社員になった。
給料は下がった。
社長でもなくなった。
失ったものもたくさんあります。
それでも、仕事はある。
人とのつながりもある。
生活も続いている。
そして今は、自分が会社を畳んだ経験を人に話すことまで仕事になり始めています。
あの頃の僕には、まったく想像できなかった未来です。
今見えている未来だけが、未来ではない
経営が苦しくなっているとき、
「会社がなくなったら、すべて終わる」
と感じる人もいるかもしれません。
僕もそうでした。
だから、
「そんなこと考えなくて大丈夫ですよ」
なんて簡単には言えません。
不安なものは不安です。
僕自身、生活保護になるところまで考えていたんですから。
ただ、今なら一つだけ言えます。
あのとき僕の頭の中に見えていた未来は、実際には起きませんでした。
会社はなくなりました。
でも、仕事はなくならなかった。
社会との接点もなくならなかった。
人生も終わらなかった。
先のことなんて、本当は分からないんですよね。
悪い未来も決まっていないし、いい未来も決まっていない。
だから、今見えている最悪の未来を、
「これが自分の人生の結末だ」
と決めなくてもいい。
僕自身、会社を畳んだ直後には、自分がこうして会社員として働きながら、自分の経験を誰かに話している未来なんて想像できませんでした。
人生は、自分が思っているより先まで続いていく。
今は、そんなふうに思っています。
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