「会社を畳む」と決めても、不安は終わらなかった

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コラム

弁護士の先生に会う日を、心待ちにしていました。

「早くその日が来ないかな」

本当に、そんな気持ちだったんです。

弁護士に会う日を待ち遠しく思うなんて、ちょっと変ですよね。

でも、その頃にはもう、会社を畳むことは決めていました。

迷っていたのは、

「会社を続けるか、畳むか」

ではありません。

本当に、ちゃんと畳めるのか。

そっちのほうが怖かった。

会社にはまだお金が残っていました。でも仕事は少ない。毎月赤字です。

今日もお金が減る。

明日も減る。

「このまま減っていったら、弁護士費用まで払えなくなるんじゃないか」

そんなことばかり考えていました。

だから、早く先生に会いたかったんです。

「引き受けましょう」の一言

会社を畳むきっかけになったのは、メインバンクからの電話でした。

借入金について相談したいと言われ、銀行へ行くと、

「間もなく返済が始まります。返していくのは大変ではないですか」

という話になりました。

そこで紹介されたのが、中小企業活性化協議会です。

そして協議会を通じて、弁護士の先生につながりました。

最初の面会で、先生は会社の決算書を見て、

「引き受けましょう」

と言ってくれました。

あのときは、ホッとしましたね。

「ああ、引き受けてもらえるんだ」

と。

ただ、それで肩の荷が下りたかというと、全然そんなことはありません。

だって、この先どうなるのか分からないんです。

特別清算で本当に終えられるのか。

銀行は了承してくれるのか。

自宅は残せるのか。

何一つ、結果は出ていません。

安心できたのは、本当にその瞬間だけだったような気がします。

早くしてくれ。お金が減ってしまう

中小企業活性化協議会で面会してから、弁護士の先生と直接、詳しい打ち合わせをするまでには時間がありました。

これが長かった。

実際にどれくらい待ったのかというより、僕にはものすごく長く感じられたんです。

「早くしてくれ」

という気持ちでした。

会社のお金は、待ってくれません。

仕事が少なく赤字なら、何もしなくても減っていく。

会社を畳むにもお金がかかることは、だんだん分かってきていました。

だったら、

「お金があるうちに早く進めてほしい」

と思いますよね。

でも、自分では何もできない。

待つしかない。

これがつらかった。

怖かったのは、会社がなくなることじゃない

会社を畳むことについては、もう覚悟していました。

50年続いた会社です。

父がつくり、僕が二代目として引き継いだ会社。

思うところがなかったわけではありません。

それでも、この時点で一番怖かったのは、会社がなくなることではなかったんです。

もし破産になったら、どうなるんだろう。

取引先に迷惑をかけるんじゃないか。

家族はどうやって生活するんだ。

そして、

自宅まで失うことになるんじゃないか。

こっちのほうが怖かった。

当時、長女は私立高校に通っていました。

学費もかかります。

毎日の生活だってある。

自分の経営の結果で、家族の生活まで壊してしまったらどうしよう。

考え始めると、止まらなくなりました。

「この先生に任せるしかない」

中小企業活性化協議会から弁護士の先生を紹介されたとき、

「こんな優秀な先生には、なかなか出会えない。きっと力になってくれるはずです」

という話を聞いていました。

実際に先生と話して、

「この先生なら絶対に大丈夫だ」

と思ったか。

正直、そこまでの余裕はありませんでした。

僕が思ったのは、

「もう、この先生に任せるしかない」

です。

自分には法律の知識なんてありません。

特別清算をどう進めるのかも分からない。

銀行とどう話をつけるのかも分からない。

自宅を残せるかどうかだって、自分では判断できません。

ここまで来たら、専門家に任せるしかない。

そう腹をくくりました。

任せても、怖いものは怖い

ところが、弁護士の先生に正式にお願いしたからといって、不安が消えたわけではありません。

銀行が了承してくれる。

自宅も残せる。

そこが見えるまでは、ずっと不安でした。

本当に、死にたくなるほど。

「先生に任せたんだから、自分が考えたって仕方ない」

理屈ではそうなんです。

でも、そんなふうに簡単に気持ちを切り替えられるなら、苦労しません。

家を失ったらどうしよう。

家族はどうなる。

取引先に迷惑をかけたらどうしよう。

夜になっても考える。

朝になっても考える。

答えなんて出ないのに、また考える。

あの頃は、そんな感じでした。

決断したら楽になると思っていた

会社を畳むかどうか迷っていた頃は、

「決めてしまえば少しは楽になるんじゃないか」

と思っていた気がします。

でも、違いました。

会社を畳むと決める。

すると次は、

「どうやって畳むんだ」

が始まる。

特別清算を目指す。

今度は、

「本当に特別清算でいけるのか」

が始まる。

弁護士にお願いする。

そうしたら、

「銀行は了承してくれるのか」

「自宅は残せるのか」

が始まる。

一つ決めるたびに、次の不安が出てくるんです。

会社を畳むというのは、一回大きな決断をして終わり、ではありませんでした。

少なくとも僕の場合はそうです。

だから今、廃業するかどうか決められずにいる人がいたとしても、

「早く腹をくくればいい」

なんて僕には言えません。

怖いものは、怖い。

迷うものは、迷います。

僕だってそうでした。

社長だからって、全部できるわけじゃない

会社を経営していた頃の僕は、何でも自分で決めてきました。

仕事を取る。

人を雇う。

設備投資をする。

銀行からお金を借りる。

最後に「やる」と決めるのは社長です。

だから、会社を畳むときも、どこかに

「自分で何とかしなきゃ」

という感覚が残っていたのかもしれません。

でも、無理なんですよね。

知らないものは、知らない。

できないものは、できない。

会社を畳むところまで来て、ようやくそれを認めました。

法律のことは弁護士に任せる。

税金のことは税理士に聞く。

銀行との調整にも専門家の力を借りる。

その代わり僕は、

「家族の生活を守りたい」

「自宅を残したい」

「取引先には迷惑をかけたくない」

「個人破産はしたくない」

自分が何を望んでいるのかを、きちんと伝える。

それしかできませんでした。

「任せる」も、経営者の仕事だったのかもしれない

経営者だった頃の僕は、

自分で決めることが責任だと思っていました。

自分で問題を解決する。

自分で会社を守る。

それが社長だ、と。

でも、会社を畳んでからは少し考え方が変わりました。

自分ではどうにもできないことを認めて、できる人に任せる。

これも責任の取り方なんじゃないか、と。

僕は会社を畳むと決めても、不安から逃げることはできませんでした。

弁護士の先生にお願いしても、すぐに安心できたわけでもない。

それでも、

「もう、この先生に任せるしかない」

と決めたところから、少しずつ状況は動き始めました。

自分一人で何とかしようとしていた時間が、そこでようやく終わり始めたんです。

今振り返ると、会社を畳むと決めたこと以上に、

「もう一人では無理だ。人に任せよう」

と決めたことも、僕にとっては大きな決断だったように思います。
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