このサンプル記事について
小さな町工場の二代目経営者へのインタビュー記事です。
(精密金属部品加工会社 54歳・男性)
事前アンケートでは、ご本人から「会社として特別なことはしていない」というお話がありました。
そこで60分のインタビューでは、日々の仕事で大切にしていることや、お客様とのやり取り、父親から受け継いだ仕事への考え方を中心に伺いました。
その中で出てきた「できる言うて、できへん方があかん」という言葉を軸に、一本の記事として構成しています。
※人物・会社はサンプル用の架空設定です。実際のサービスと同じ「事前アンケート→質問設計→60分インタビュー→構成・執筆」の流れで制作しています。
「できる言うて、できへん方があかん」——父から受け継いだ、田中精工の“普通”
■「特別なことはしていません」から始まった話
田中精工(仮名)は、機械部品を加工する会社です。
鉄やステンレスを削り、図面どおりの形に仕上げる。
自社製品をつくるというより、お客さんの製品づくりの「一部を任せてもらっている」感覚です。
今は8人で仕事をしています。
父が始めた会社で僕が代表になったのは12年前。
父の代から働く社員や、20年以上勤めている社員もいて、長く働く人が多い会社です。
「会社の強みは何ですか?」と聞かれても、特別なものは思いつきません。
納期を守ること。
できないことは、できないと言うこと。
何かあれば早めに連絡すること。
どれも当たり前のこと。
でも今回振り返ってみると、その「当たり前」を続けてきたことが、田中精工らしさなのかもしれないと思うようになりました。
■「できる言うて、できへん方があかん」
父の会社に入ったのは30歳のとき。
最初から「後を継ぐ」と決めていたわけではなく、前職を辞めるタイミングで父の会社も少し人手が足りないと聞き、「一回やってみるか」という社員の感覚で入社しました。
現場のことは何も分からず、機械の使い方から覚える日々。
父からは「俺の息子やからって、特別扱いしてもらえると思うなよ」「わからんことは聞け。でも、人に聞く前に一回自分で考えろ」と言われました。
仕事になると厳しく、失敗すると「だから言うたやろ」と言われる。当時は「教えてくれたらええやん」と思うこともありました。
仕事の受け方についても、立て込んでいても無理なものは断る父に対し、僕は「せっかくなら受けたらいいのに」と思っていました。
そんなとき、父がよく口にしたのが、「できる言うて、できへん方があかん」という言葉。
当時は少し頑固に見えたこの言葉の意味が本当にわかるようになったのは、自分が代表になってからです。
■「受ける前に一回聞いてくれたらええのに」
父が現場に出る時間が減ってきた頃、会社を引き継ぎました。
徐々に見積もりなどを任されていたものの、いざ代表になると重みが違います。
最初は「自分にできるんかな」と思っていました。
特に難しかったのが、仕事を受けるかどうかの判断です。
売上を考えれば受けたい。でも無理に受ければ現場がしんどくなる。
代表になったばかりの頃、「何とかなるやろ」と受けた仕事が想像以上にきつかったことがありました。
そのとき、年上の社員に言われたんです。
「受ける前に一回聞いてくれたらええのに」と。
お客さんに応えたい気持ちが先走り、加工する人の状況を見ずに決めていたんです。
「たしかにそうだ」と思いました。
それからは、厳しそうな仕事が来たときは先に現場へ聞くようになりました。
「これ、いけそう?」と相談すると、「この納期ならいける」と具体的な返事がきます。
急ぎの仕事が重なったときも、社員同士で順番を組み直し、無理な残業をせずに間に合わせてくれました。
あのときは本当に助けられました。
父は自分の経験と感覚で判断し守っていましたが、僕は自分の感覚だけで決めず、現場に聞きながら判断して守っている。
やり方は違いますが、「無理な仕事を無理に受けない」「納期を守る」「できないことを曖昧にしない」そこは同じだと思っています。
■30年以上続くお客さんにも、特別なことはしていない
うちには父の代から30年以上付き合ってくださるお客さんがいます。
最初の頃は緊張しましたが、今では「これ、田中さんとこでいける?」と直接図面を送っていただける関係です。
なぜ30年以上も続くのか。
やはり特別なことは思いつきません。
頼まれたものをちゃんとつくる。できないものはできないと言う。
何かあれば早めに連絡する。
それをやってきただけです。
ただ、「できない」と言うのは簡単ではありません。
断れば次の仕事が来なくなる不安もあります。
僕も「断ったら、もう声をかけてもらえへんのちゃうか」と思い、無理してでも受けたくなることがありました。
でも、無理に受けて納期を守れなかったり品質を落としたりする方が、もっと信用をなくします。
だから今は「これはうちでは難しいです」「この条件ならできます」と、できる・できないを早く正直に伝えます。
納期を守るというのも、無理して間に合わせることではありません。
最初に状況を見て難しいなら伝え、途中で何か起きたら早めに連絡する。
そこまで含めて「納期を守る」ことだと考えています。
長く付き合ってくださるお客さんほど、そこをわかってくれている感じがあります。
無理なときに無理と言うからこそ、「田中さんがいけるって言ったら大丈夫」と思ってもらえているのかもしれません。
一回の仕事を取るより、次も普通に声をかけてもらえる関係の方が、僕にとってはるかに大事です。
■普通のことを、これからも続けられる会社に
これからも規模だけを追わず、今いる人たちが無理なく働ける会社にしていきたい。
お客さんから「田中精工に頼んどけば大丈夫」と安心してもらえる会社でありたいと思います。
そのためにも、社員が持つ技術をどう次へ残すかが課題です。
図面を見ての判断、音で違和感に気づく感覚。
身体に染みついたものはすべてマニュアル化できません。
記録できるものは残し、言葉にしにくいものは一緒に仕事をする中で手渡していく。
一人しかできない仕事を減らし、わかる人を増やしていきます。
その中でこれからも変えたくないのが、「できることはできる。できないことはできないと言う」姿勢です。
無理に仕事を取らず、一回一回の仕事をちゃんとやる。
社員に無理をさせすぎず、お客さんに曖昧なことを言わない。
「普通のことをちゃんと続けられる会社」が一番強いと信じています。
父の代から約40年。
仕事が少ない時期も忙しすぎる時期もありました。
判断を間違えたこともあるし、社員に助けられたことは数えきれません。
立派に聞こえますが、実際はその時々で目の前の仕事に向き合ってきただけです。
納期を守る。
できないことは、できないと言う。
何かあれば早めに連絡する。
一回やるだけなら誰でもできるかもしれない。
でも、それを毎回やる。
忙しいときも、売上が欲しいときも、同じように考える。
そこは父の代からずっと続いている田中精工の根幹です。
田中精工の強みはと聞かれたら、すごい技術や特別な設備があるというより、普通のことを、普通に続けてきたこと。
今はそう答えるのが一番しっくりきています。
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