ノベルゲームのシナリオは、小説とどこが違うのか

ノベルゲームのシナリオは、小説とどこが違うのか

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小説
 はじめまして、西月あまねです。
 今回はタイトルの通りノベルゲームのシナリオは、小説とどこが違うのか、ということについて解説していきたいとおもいます。
 どちらも「文章で物語を書く仕事」です。ですが実務としては、使う筋肉がかなり違います。

 小説を書ける人がそのままシナリオを書くと、たいてい同じ場所でつまずきます。逆もそうです。ご依頼を検討中の方、あるいはご自身で書こうとしている方の参考になればと思い、実際に手を動かして分かった違いを挙げていきます。

■1. 一画面に入る文字数が、文体を決める

 多くのノベルゲームは、テキストウィンドウに一度に表示できるのが3行、50〜120字程度です。

 これは制約というより、前提です。「窓の外では雨が降りはじめていて、その音がやけに近く聞こえるのは、たぶん昨日から換気扇の調子が悪いせいだった」——小説なら成立するこの一文は、画面では途中で切れます。切れた瞬間、読者は文の頭を忘れます。

 だから短くする、というだけの話ではありません。息の長い一文で情景を積み上げる技法が使えないぶん、別の方法で同じ効果を出す必要がある。短文を並べて、その並べ方でリズムを作ります。

 雨が降りはじめた。
 音が近い。
 換気扇、昨日から調子が悪い。

 情報量はほぼ同じです。でも読後感は違う。前者は語り手の思考が流れていく感じ、後者は語り手が事実を拾い上げていく感じになります。どちらが正解ということではなく、媒体が文体を選ばせている。

 シナリオを書くときは、書き出す前に「何字で改行が入るのか」を確認します。ここが分からないまま書くと、あとで全文を組み直すことになります。

■2. 読者が飛ばす前提で書く

 ノベルゲームには既読スキップがあります。

 分岐のある作品なら、プレイヤーは二周目、三周目を走ります。そのとき既読部分は高速で流れていく。書いた文章の何割かは、読まれないことが確定しています。

 これは悲しいことではなく、設計の条件です。

・スキップされても物語が壊れない構造にする
・同時に、スキップするのが惜しくなる箇所を作る

 この二つを両立させます。具体的には、分岐後の共通シーンに新情報を置きすぎない。逆に、分岐直後の数行には、一周目とは意味が変わって見える一言を仕込む。二周目のプレイヤーがそこで指を止めたら成功です。

 小説にはこの発想がありません。読者は基本的に、一行ずつ読んでくれる。この前提の差は、思っている以上に大きいです。

■3. 沈黙は、文章ではなく指示で書く

 小説なら「彼女は黙っていた」と書けます。

 ノベルゲームで同じことをやると、少し野暮になります。画面には彼女の立ち絵が映っている。読者はすでに彼女を見ている。そこに「黙っていた」と書くのは、見えているものを説明していることになります。

 代わりにこうします。

 立ち絵を変えない。
 BGMをフェードアウトさせる。
 テキストを一行分、空白のまま送らせる。

 沈黙が、時間として発生します。文章量はゼロです。

 つまりシナリオの原稿には、台詞と地の文だけでなく、演出の想定を書き込む必要がある。表情差分の指定、BGMの切り替え点、SEの位置、暗転のタイミング。これらは「あとで演出さんが決めること」ではなく、書き手が物語のリズムとして設計する部分です。

 私が納品するシナリオには、この演出指示を欄として設けています。実装側で変更されるのは前提ですが、書き手が何を意図していたかが伝わる形にしておく。ここが空欄だと、テキストだけが宙に浮きます。

■4. 選択肢は、分岐装置ではなく心理描写

 意外と見落とされがちですが、選択肢そのものが文章表現です。

 1.「うん」
 2.「……うん」

 この二択は、行き先が同じでも構いません。プレイヤーは選ぶ瞬間に、自分がどちらの人間かを考えます。その数秒が、地の文一段落分の心理描写に相当します。

 逆に、選択肢を「情報を集めるためのメニュー」として並べると、物語は止まります。よくあるのは、話しかける相手を三人並べて全員に話しかけさせるパターン。プレイヤーは総当たりするだけで、選んでいません。

 選択肢を書くときに自問するのは、「これは選ぶ価値があるか」ではなく「選ばなかった側を、プレイヤーは惜しむか」です。惜しまないなら、それは選択肢ではなく手順です。

■5. 誰が読み上げるかで、台詞の書き方が変わる

 ボイスが入る想定かどうかで、台詞は変わります。

 ボイスなしなら、口調や語尾で人物を書き分ける必要があります。文字だけが手がかりだからです。

 ボイスありなら、逆に書き分けを弱めたほうがいい場合があります。声優が演じるぶんの余白を残す。語尾で個性を出しすぎると、演技と文章が二重になって、くどくなります。また、読み上げたときに言いにくい語、同音異義語で意味が取りにくい語を避ける必要が出てきます。「しりつ」「こうしょう」のような語は、文字なら一瞬で分かりますが、耳では引っかかります。

 この判断のために、ご依頼時にはボイスの有無を伺っています。

■6. 文字数の見積もりが、小説とまったく違う

 小説で「10000字」というと、短編一本ぶんの手応えがあります。

 ノベルゲームで10000字は、プレイ時間にして15〜25分程度です。体感としてはかなり短い。しかも分岐があれば、その全ルートを合計した数字になります。三ルートあれば、実際にプレイヤーが一周で読むのは3000字ちょっと、ということもあります。

 ご依頼の際に「10000字くらいで」と伺ったとき、私が「それは全ルート合計ですか、一周ぶんですか」と確認するのはこのためです。ここを取り違えると、完成品の規模が三倍変わります。

■どちらもお受けしています

 小説として書いたものをシナリオ形式に組み直すことも、シナリオを読み物として再構成することも可能です。

 すでに仕様が決まっている場合(一画面の文字数、テキストウィンドウの行数、ボイスの有無、分岐の設計、使用エンジン)は、購入前にお知らせいただけると、初稿からその形式で納品できます。決まっていない場合は、こちらから確認事項をお送りします。

 企画書の段階、あるいは「こういう話をゲームにしたい」という一行の段階からでもご相談いただけます。


西月あまね
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