執筆時間の内訳を、正直に書いてみます。夢のない話になります。
■1. 実際に文字を打っている時間:約3割
意外に少ない。一日6時間机に向かっていても、指が動いているのは2時間弱です。
しかもそのうち3割は、書いた直後に消しています。実質1時間半。原稿用紙にして10枚前後。これが調子のいい日です。
■2. 白い画面を見ている時間:約3割
何もしていないように見えますが、本人は忙しい。
「この人物はここで何と言うか」を、頭のなかで20通り試しています。20通り試して、全部だめで、結局その場面ごと消すこともあります。
傍から見ると、無職の人がパソコンを眺めているようにしか見えません。実際、家族には何度かそう思われています。
■3. 関係ないことを調べている時間:約2割
「1962年の熱海に、コインランドリーはあったか」
「昭和の中学校で、下敷きは何色が主流だったか」
「猫は、雨の日にどこにいるか」
一行の描写のために、平気で40分溶かします。効率は最悪です。
ただ、これが後で効きます。あるとき調べた「昭和の駄菓子屋の営業時間」が、二年後にまったく別のご依頼で役に立ったことがあります。無駄になった調べ物は、いまのところひとつもありません。
■4. 書いたものを読み返している時間:約1割
声に出して読みます。詰まったところが、直すべきところです。
理屈ではなく、口が教えてくれる。だから執筆中の部屋は、外から聞くと相当あやしい。
■5. 「今日はもうだめだ」と判断する時間:約1割
これも仕事のうちだと思っています。
調子の悪い日に無理して書いた原稿は、翌日ほぼ全部消すことになります。それなら早めに切り上げて、散歩に出たほうが結果的に速い。
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■それでも納期は守ります
こう書くと、ずいぶんのんびりした仕事に見えるかもしれません。
実際のところ、この内訳を把握しているからこそ、納期の見積りが出せます。「実質の執筆速度は一日10枚」「調べ物に一日は使う」「読み返しと修正で二日」。分かっていれば、逆算できる。
見通しの甘さは、たいてい自分の作業内容を把握していないところから来ます。
白い画面を眺めている時間も、料金に含まれています。含めておかないと、いいものが出せません。何卒ご理解ください。