第2回:SOAP形式入門(前編):S(主観的情報)とO(客観的情報)をマスターする
はじめに:記録の質は「事実」の描写力で決まる
第1回では、介護記録が持つ法的な重要性と、チームケアを支える5つの柱について学びました。
記録が単なる作業ではなく、ケアの質を左右する専門技術であることをご理解いただけたかと思います。
今回からは、その専門技術を飛躍的に高めるための具体的なフレームワーク、「SOAP形式」について学んでいきます。
SOAPとは、S(主観的情報)、O(客観的情報)、A(アセスメント)、P(計画) の4つの項目で情報を整理する記録方法です。
この形式を用いることで、思考が整理され、問題点が明確になり、チーム内での情報共有が格段にスムーズになります。
今回はその前編として、すべての土台となる「S」と「O」に焦点を当てます。
この二つは、ケアプランの評価や変更の根拠となる最も重要な「事実」を記述するパートです。
SとOを正確に書き分ける技術をマスターすることが、質の高い記録への第一歩です。
S(Subjective):利用者様の「声」を、ありのままに受け止める
「S」はSubjective(主観的)の頭文字で、利用者様本人やご家族が話した言葉、訴え、感情表現など、主観的な情報を指します。
ここでの鉄則は、記録者の解釈を一切加えず、聞いた言葉をそのまま記述することです。
【Sの書き方 ポイント】
発言は「 」で囲む:誰が読んでも本人の言葉であることが明確にわかるように、「 」(かぎ括弧)を使って記述します。
誰の発言かを明記する:利用者様本人の発言か、ご家族の発言かを区別するために、「S(本人):」「S(長男):」のように主語を明確にします。
解釈しない、言い換えない:「~とのこと」「~のようだ」といった伝聞や推測の表現は使いません。
たとえ発言が断片的であっても、それをそのまま記録することが重要です。
【Sの良い例・悪い例】
O(Objective):見たまま、測ったままの「事実」を捉える
「O」はObjective(客観的)の頭文字で、職員が観察したこと、測定したことなど、誰が見ても同じように認識できる客観的な事実を指します。
バイタルサイン、食事摂取量、排泄の状況、皮膚の状態、ADL(日常生活動作)の様子などがこれにあたります。
【Oの書き方 ポイント】
5W1Hを徹底する:第1回で学んだ「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように」を常に意識することで、情報の抜け漏れを防ぎます。
具体的な数値を用いる:曖昧な表現を避け、具体的な数字で表現します。
「たくさん食べた」ではなく「主食全量、副食8割摂取」。「しばらく歩いた」ではなく「廊下を30m歩行」のように記述します。
見たままを記述する:職員の推測や判断を入れず、事実のみを記述します。
例えば、転倒の瞬間を見ていないのであれば、「転倒した」と断定せず、「居室のベッド脇に倒れているのを発見」と書くのが適切です。
専門用語を避ける:ご家族や他職種が見ることも想定し、誰にでも理解できる平易な言葉で書きます。
「傾眠」→「うとうとしている様子」、「嚥下」→「飲み込み」などです。
【Oの良い例・悪い例】
Oは、ケアの成果を客観的に評価し、科学的根拠に基づいた介護を実践するための生命線です。
実践トレーニング:SとOを書き分けてみよう
それでは、具体的なケースでSとOを書き分ける練習をしてみましょう。
【ケース1:食事場面】
夕食時、A様がおかずの煮魚を一口食べた後、箸を止めてしまいました。職員が声をかけると、A様は「あまり好きじゃないな」と小声で言いました。結局、ご飯を2割、おかずを1割食べただけで、お茶を100ml飲んで食事を終えました。
S(主観的情報):「あまり好きじゃないな」と小声で発言あり。
O(客観的情報):18:10 夕食。おかず(煮魚)を一口食べた後、箸が止まる。主食2割、副食1割の摂取。水分(お茶)は100ml飲水。
【ケース2:転倒場面】
昼食後、食堂で談笑していたB様が、一人で立ち上がろうとした際に膝から崩れるように床に尻もちをつきました。職員が駆け寄ると、B様は「頭を打った気がするけど、よくわからない」と言いました。職員が確認すると、左の側頭部に3cmほどのこぶができていました。バイタルや意識レベルに異常はなく、立ち上がりや歩行もいつも通りでした。
S(主観的情報):「頭を打った気がするけどわからない」と発言あり 20。
O(客観的情報):13:30 食堂にて、椅子から立ち上がる際に膝折れし転倒。左側頭部に3cm大の腫瘤を認める。バイタルサイン、意識レベル、立位・歩行状態に著変なし。
まとめ:すべての記録は「S」と「O」から始まる
今回は、SOAP記録の土台となるS(主観的情報)とO(客観的情報)について、その定義と書き方のポイントを学びました。
Sは「利用者の声」:解釈を加えず、ありのままを記録する。
Oは「専門職の目」:誰が見てもわかる客観的な事実を、具体的に記録する。
この二つを正確に書き分けることが、質の高い記録を作成するための絶対的な基礎となります。
なぜなら、次のステップであるA(アセスメント)とP(計画)は、このSとOという確かな事実の上にしか成り立たないからです。
次回、第3回「SOAP形式入門(後編):A(アセスメント)とP(計画)でケアを深化させる」では、集めたSとOの情報をどのように分析し、具体的なケアプランに繋げていくのかを徹底解説します。
記録を「報告」から「戦略」へと進化させるプロセスを、一緒に学んでいきましょう。