続・青の教室 「ひとりの生徒」 / 第7章 秋の教室

記事
学び
第7章 秋の教室

夏休みが終わりに近づく頃、
 陽向の世界は静かに、しかし確実に変わり始めていた。

積み木の道は長くなり、
 町は広がり、
 影は薄くなり、
 陽向の声は少しずつ強くなっていた。

そして八月の終わり、
 陽向は青の教室で言った。

「……学校、行ってみようかな」

その声は震えていた。
 しかし、その震えは“恐怖”ではなく、

 “決意”の震えだった。


1. 秋の朝、校門の前で

九月一日。
 空は高く、風は少し冷たかった。

陽向は、母と一緒に家を出た。
 母は何も言わなかった。
 ただ、陽向の歩幅に合わせて歩いた。

学校が近づくにつれ、
 陽向の心臓は早くなった。

――影は、まだある。

校門の前に立つと、
 陽向は深呼吸をした。

「……大丈夫?」

母が小さく尋ねた。

陽向は、ゆっくりとうなずいた。

「……行ってくる」

母は、陽向の背中をそっと押した。

陽向は、一歩踏み出した。

その一歩は、
 陽向の世界を大きく動かした。


2. 教室の空気

教室の前に立つと、
 中からざわめきが聞こえた。

笑い声。
 椅子の音。
 誰かの呼ぶ声。

陽向の胸がぎゅっと締めつけられた。

――影が、戻ってきた。

しかし、陽向は逃げなかった。

ドアを開けると、
 教室の空気が一気に流れ込んできた。

「……あ」

誰かが陽向に気づいた。

「陽向じゃん」

その声は、以前のような嘲りではなかった。
 ただの驚きだった。

陽向は、席に向かった。
 足が震えていた。
 しかし、歩いた。

担任が言った。

「陽向、よく来たな」

その声は、以前よりも柔らかかった。

陽向は、席に座った。
 机の木目が、少しだけ懐かしかった。


3. クラスメイトとの再会

休み時間、
 陽向は机に突っ伏していた。

誰も話しかけてこない。
 しかし、誰も避けていない。

その“何もない空気”が、
 陽向にはありがたかった。

すると、隣の席の男子が言った。

「陽向、久しぶり」

陽向は顔を上げた。

「……うん」

「夏休み、何してた?」

陽向は少し考えてから言った。

「……青の教室、行ってた」

「青の教室?」

「うん。
  勉強もするけど……
  なんか、落ち着く場所」

男子は、ふっと笑った。

「へぇ、いいじゃん」

その笑顔は、
 陽向を傷つけるものではなかった。

陽向の胸の奥で、
 影が少しだけ薄くなった。


4. 家庭の変化

学校から帰ると、
 母が玄関で待っていた。

「おかえり」

陽向は、靴を脱ぎながら言った。

「……ただいま」

母は、陽向の顔を見て言った。

「どうだった?」

陽向は、少しだけ笑った。

「……大丈夫だった」

母の目に、涙が浮かんだ。

「陽向……よかった……」

陽向は、照れくさそうに言った。

「まだ全部は無理だけど……
  でも、行けた」

母は、陽向を抱きしめた。
 陽向は、少しだけその腕の中に身を預けた。

父も帰ってきて言った。

「陽向、よく頑張ったな」

陽向は、うなずいた。

「……うん」

家庭の空気は、
 以前よりも柔らかくなっていた。


5. 青の教室での報告

翌日、陽向は青の教室に来るなり言った。

「……行けました」

友彦は、ゆっくりとうなずいた。

「どうだった?」

「怖かった。
  でも……大丈夫だった」

「うん」

陽向は、積み木を手に取った。

「今日は……道じゃなくて、橋をつくりたい」

「橋?」

「うん。
  学校と……青の教室をつなぐ橋」

陽向は、積み木を並べ始めた。

「ここが……学校」

「うん」

「ここが……青の教室」

「うん」

「で、ここが……僕」

陽向は、橋の真ん中に小さな積み木を置いた。

「僕は……どっちにも行ける」

友彦は、胸の奥で青が静かに灯るのを感じた。

――陽向の世界が、多色として立ち上がっている。


6. 陽向の色がはっきりする

陽向は、橋を見つめながら言った。

「……僕、学校も家も青の教室も……
  全部、好きなんだと思う」

「うん」

「でも、全部怖いときもある」

「うん」

「でも……全部、僕の世界なんだと思う」

友彦は、静かに言った。

「陽向の世界は、陽向の色でできてるんだよ」

陽向は、少しだけ笑った。

「……僕の色、見えてきた気がする」

その笑顔は、
 これまでで一番、陽向自身の色をしていた。


7. 秋の教室

九月の風が吹き、
 校庭の木々が揺れていた。

陽向は、教室の窓から外を見ていた。
 ざわめきはまだある。
 影もまだある。

しかし、陽向はもう逃げていなかった。

陽向の世界は、
 多色のまま、静かに広がっていた。

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら