青の教室 / プロローグ

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プロローグ:青の教室

夕方の光が、教室の窓から斜めに差し込んでいた。
 木村友彦は、誰もいない机の列をゆっくりと歩きながら、
 その光の色を確かめるように目を細めた。

青かった。

空の青ではない。
 海の青でもない。
 もっと静かで、もっと深くて、
 誰のものでもない、透明な青。

――子どもを染めない青。
それが、自分が教育者として立ち続けるための唯一の色だと、
 友彦はいつからか信じるようになっていた。

しかし、現実はいつも青を曇らせる。
 学校の成績、親の期待、社会の圧力。
 子どもたちの色は、いつもどこかで削られ、
 塾に来る頃には、ほとんど見えなくなっていることもある。
「今日も、誰かの色を守れるだろうか」

友彦は、黒板に手を触れながら小さく息を吐いた。
 この教室は、世界の片隅にある小さな場所だ。
 だが、ここで子どもたちが自分の色を取り戻す瞬間を、
 何度も見てきた。

その瞬間だけは、世界が確かに多色であることを思い出せる。
ドアが開く音がした。
 振り返ると、ひとりの少年が立っていた。
春斗だった。

彼の目には、まだ色がなかった。
 世界を信じられなくなった子どもが持つ、
 あの曇った瞳。
「……先生、今日、行ってもいいですか」
その声は、かすかに震えていた。
 学校には行けない。
 でも、この教室には来たい。
 その矛盾の中で揺れている声だった。

友彦は、ゆっくりとうなずいた。
「もちろん。ここは、いつでも来ていい場所だよ」

春斗は、ほっとしたように息をつき、
 教室の奥の席に座った。

その瞬間、
 友彦の胸の奥で、青が静かに灯った。

――今日も、誰かの色を守るために。


ここから始まる物語は、
 子どもたちが自分の色を取り戻していく物語であり、
 同時に、木村友彦というひとりの教育者が
 自分の青を確かめていく物語でもある。

世界は多色だ。
 子どもも多色だ。
 そして、教育者もまた、多色の中のひとつの光である。

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